小ネタ集17
【兄妹】
次の仕事に向かおうと、駐車場付近を歩いていたら、誰かの話し声が聞こえた。
あれ。この声って…。
「……って言うんだよ!もう私、それを聞いて、驚いたんだから…」
「ははっ!本当に面白いな。その娘は」
そこにいたのは、ベゴニアとご当主の秘書兼側近のノワールさんだった。
意外な組み合わせだ。随分と仲良さそうだけど……もしかして!あの二人は付き合っているのかな?
思わず私は隠れながら、二人を見つめる。絵になるな、あの二人。ついニヤニヤしながら、見てしまう。
そんな二人をしばらく見ていたら、突然、ノワールさんがベゴニアに近づき、何やら耳打ちする。恋人みたい!きゃー!( 〃▽〃)
「……もうそこにいるんでしょ!」
いきなりベゴニアがこちらに向かって、声を上げた。まるで誰かに声をかけてるみたいに。
「隠れてないで出てきなさい!」
ん?私以外にも誰か隠れて二人を見ているのかな?よほど隠れてるのが下手なのね!まったく誰よー!しかし、誰も出て来ない。
「出てこないな…」
「もしかしたら、自分とは思ってないのかもしれないわね。あの娘なら、ありえるわ…」
よほど鈍い子なんだ!私よりも鈍いのか。余計に誰か気になる!誰が出てくるか、見なくちゃ(゚∀゚*)(*゚∀゚)誰なんだー!
「アリス!!」
へっ…?
アリスって、私!?そんなまさか。いやいや。私の姿が見えてるわけが…。
「さっきから隠れて見てるのはわかっているんだからね!いい加減、出て来なさい!アリス!!アリス・パンナコッタ!」
「……………ひぇっ!」
「今出て来ないと、あんたのやらかしを大声でばらすわよ!いいの!?あんたの好きな人の耳に入っても…」
「わー!わー!止めて!!それだけは…」
まごうことなき、私だ。
観念した私は、ベゴニアとノワールさんのところへ向かった。ノワールさんに一礼し、ベゴニアに話しかける。
「ベゴニア。何で私がいるって、わかったの?」
「あんたね、あれで隠れてるつもりだろうけど、全然隠れてないからね!」
「え!?」
「ニヤニヤ笑って見てたのは、こっちから見て丸見えだったわよ!」
何ですって…!私の姿はバレバレだったの!上手く隠れていたと思っていたのに、甘かったか!
すると、今まで黙っていたノワールさんが笑い出す。
「……ぷっ、ははっ!」
しかも、お腹を抱えて、笑っている。
ノワールさんって、クールで全然笑わないって聞いていたんだけど…。
「悪い。アリスはベゴニアが話してた通りに、何でも顔に出る娘だと思ってさ……あはは!」
「お兄ちゃん、これで信じてくれた?」
「ああ!信じるさ」
今、ベゴニアがノワールさんにお兄ちゃんって、言わなかった…?二人は恋人ではなく───
「ノワールさんって、もしかしてベゴニアの…」
「私の兄よ」
「ええーっ!聞いてないよ!?」
「話してないもの!」
「何で話してくれなかったの!?」
「それは…」
いつもハッキリ言うベゴニアが何故か口ごもってしまった。珍しい…。
「悪いな。アリス、俺が言わないように話していたんだよ」
「ノワールさんが…」
「そう。だから、ベゴニアを責めないでくれるか?」
「責めるつもりはないです。ベゴニアにも話せない理由があったんでしょうし。ちょっとだけ寂しかったですけど…」
「……」
それから私は、二人と別れて、次の仕事に向かった。
その夜。
お風呂にも入り、部屋でのんびりと本を読んでいたら、ドアをノックされた。
こんな時間に誰だろう?
ベッドから起き上がり、ドアを開けると、ベゴニアがいた。
「ベゴニア。どうしたの?」
「話があるの。今いい?」
「うん。中に入る?」
「そうね」
私はベゴニアを部屋に招き入れた。
「何か飲む?」
「大丈夫。すぐ終わるから」
ベゴニアをベッドに座らせて、私も隣に座って、話してくれるのを待つ。
「最初に言っとくけど、別にあんたに話したくないから、話さなかったわけじゃないわ」
「うん」
「アリス。お兄ちゃんのこと、どう思う?」
「ノワールさん?」
そう尋ねられて、考えてみた。
確かに美形だよね。クールで、全然笑わないイメージあるから、冷たそうにも見えたけど。あと声がいいんだよ!
「カッコいい、ね」
「他には?」
「冷静で笑わない印象かな。それも今日、覆されたけども」
「それはあんたがわかりやすいからよ。お兄ちゃん、いつもはあんなに声を出して笑わないから!」
え、私のせい!?
そういえば、リク様やカルロ様とかも私を見て、声を上げて笑うのよね。面白いことをやったわけでもないのに…。リク様が笑ってくれるのなら、私は全然構わないんだけどね。
「お兄ちゃん、昔からかっこよくて、モテたのよ。でも、少し近寄りづらいでしょ?」
「確かにノワールさん、真顔だとちょっと怖いから、話しかけづらいよね!」
「あんたはこういう時は、ハッキリしてるんだから。それで、よく私が妹だとわかると紹介してと頼んで来る人が結構いたの」
「本人を前にすると、話せないんだろうね。わかる!私もリク様にはそうだから」
「あんたは挙動不審過ぎるの!リク様もたまに堪えきれずに笑っちゃってるじゃない」
ひどい。私だって、恋する女の子なのに!
それを言えば、ベゴニアに「あんた、中身は残念過ぎるのよ。たまには外見通りにお淑やかにしてみなさい」って言われた。そんなの昔から言われたよ!直るものなら、とっくに直してるよ!
それにお父さんやお母さんは、このままでいいと言ってくれるし。もう私はこのままで行く!
「話がそれちゃったわ。私に紹介だけを頼むような人達をお兄ちゃんに紹介なんてしたくないから、毎回断っていたのよ。そしたら、一部の女子達から、嫌がらせされるようになって…。しばらくはお兄ちゃんにも話さなかったわ。でも、ある日、突き飛ばされて、怪我をしたのよ」
「怪我!?大丈夫なの?」
「ただの捻挫よ。だけど、誰もそんな風に言ってくれる人はいなかったわ。保健室で手当てしてもらって、足を引きずりながら、家に帰ると、先に帰っていたお兄ちゃんに事情を聞かれたの。隠せないと思って、全てを話したわ。それを聞いて、怒ったお兄ちゃんが翌日、突き飛ばした人達を呼び出して、ハッキリ言ってくれたのよ」
“俺の妹を怪我させたやつは、絶対許さない!妹を傷つけるやつなんか、誰が好きになるものか!!”
「妹想いの優しくて良いお兄さんだね」
「そうね。お兄ちゃんは優しいの…。あまり笑わないから、怖いと言われることもあるけど、本当は優しい人よ。だから、ここでは言わないようにしてるの。一部知る人もいたけど、それは昔からの知り合いだから。スマルトも知っていたわ」
「そうだったんだ…」
「ま、あんたは知っても、お兄ちゃんに興味はないでしょ?だから、話しても良かったんだけど」
「カッコいいとは思うけど、それだけかな?私にはリク様が一番だし」
「そう。あんたとスマルトは、好みがハッキリしてるからね。しかも、ぶれないし」
私はベゴニアと笑い合う。
その後、少しお喋りをしてから、ベゴニアは自分の部屋に帰って行った。
ベッドに横になり、天井を見上げる。
それにしてもベゴニアとノワールさんが兄妹だったとはね。スマルトにもアンバーさんがいるし。どちらも兄妹仲は、良さそうだ。
お兄ちゃん、か…。
私には兄がいないから、どういうものかはよくわからないけど。
ズキッ。
一瞬だけ胸が痛くなった。
何だろう?気のせいかな?
……さて、私もそろそろ寝よう。寝る準備をして、電気を消す。
─────その夜、私は夢を見た。
幼い私は、誰かの後を追いかけていた。
私と同じ髪色で、同じくらいの男の子が先を走っている。しかし、私が姿を見失わないように時折、待っていてはくれる。
“まって。まってよ!おいていかないで…”
“アリス。なにしてんだよ!はやくこいってー!”
“×××!まってー!”
その男の子の名前を呼ぶ私。
しかし、何と言ってるかわからないまま、私はその男の子の後を追いかけて行く。
そして、私が本当の“真実”を知るのは─────二年後のこと。
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次の仕事に向かおうと、駐車場付近を歩いていたら、誰かの話し声が聞こえた。
あれ。この声って…。
「……って言うんだよ!もう私、それを聞いて、驚いたんだから…」
「ははっ!本当に面白いな。その娘は」
そこにいたのは、ベゴニアとご当主の秘書兼側近のノワールさんだった。
意外な組み合わせだ。随分と仲良さそうだけど……もしかして!あの二人は付き合っているのかな?
思わず私は隠れながら、二人を見つめる。絵になるな、あの二人。ついニヤニヤしながら、見てしまう。
そんな二人をしばらく見ていたら、突然、ノワールさんがベゴニアに近づき、何やら耳打ちする。恋人みたい!きゃー!( 〃▽〃)
「……もうそこにいるんでしょ!」
いきなりベゴニアがこちらに向かって、声を上げた。まるで誰かに声をかけてるみたいに。
「隠れてないで出てきなさい!」
ん?私以外にも誰か隠れて二人を見ているのかな?よほど隠れてるのが下手なのね!まったく誰よー!しかし、誰も出て来ない。
「出てこないな…」
「もしかしたら、自分とは思ってないのかもしれないわね。あの娘なら、ありえるわ…」
よほど鈍い子なんだ!私よりも鈍いのか。余計に誰か気になる!誰が出てくるか、見なくちゃ(゚∀゚*)(*゚∀゚)誰なんだー!
「アリス!!」
へっ…?
アリスって、私!?そんなまさか。いやいや。私の姿が見えてるわけが…。
「さっきから隠れて見てるのはわかっているんだからね!いい加減、出て来なさい!アリス!!アリス・パンナコッタ!」
「……………ひぇっ!」
「今出て来ないと、あんたのやらかしを大声でばらすわよ!いいの!?あんたの好きな人の耳に入っても…」
「わー!わー!止めて!!それだけは…」
まごうことなき、私だ。
観念した私は、ベゴニアとノワールさんのところへ向かった。ノワールさんに一礼し、ベゴニアに話しかける。
「ベゴニア。何で私がいるって、わかったの?」
「あんたね、あれで隠れてるつもりだろうけど、全然隠れてないからね!」
「え!?」
「ニヤニヤ笑って見てたのは、こっちから見て丸見えだったわよ!」
何ですって…!私の姿はバレバレだったの!上手く隠れていたと思っていたのに、甘かったか!
すると、今まで黙っていたノワールさんが笑い出す。
「……ぷっ、ははっ!」
しかも、お腹を抱えて、笑っている。
ノワールさんって、クールで全然笑わないって聞いていたんだけど…。
「悪い。アリスはベゴニアが話してた通りに、何でも顔に出る娘だと思ってさ……あはは!」
「お兄ちゃん、これで信じてくれた?」
「ああ!信じるさ」
今、ベゴニアがノワールさんにお兄ちゃんって、言わなかった…?二人は恋人ではなく───
「ノワールさんって、もしかしてベゴニアの…」
「私の兄よ」
「ええーっ!聞いてないよ!?」
「話してないもの!」
「何で話してくれなかったの!?」
「それは…」
いつもハッキリ言うベゴニアが何故か口ごもってしまった。珍しい…。
「悪いな。アリス、俺が言わないように話していたんだよ」
「ノワールさんが…」
「そう。だから、ベゴニアを責めないでくれるか?」
「責めるつもりはないです。ベゴニアにも話せない理由があったんでしょうし。ちょっとだけ寂しかったですけど…」
「……」
それから私は、二人と別れて、次の仕事に向かった。
その夜。
お風呂にも入り、部屋でのんびりと本を読んでいたら、ドアをノックされた。
こんな時間に誰だろう?
ベッドから起き上がり、ドアを開けると、ベゴニアがいた。
「ベゴニア。どうしたの?」
「話があるの。今いい?」
「うん。中に入る?」
「そうね」
私はベゴニアを部屋に招き入れた。
「何か飲む?」
「大丈夫。すぐ終わるから」
ベゴニアをベッドに座らせて、私も隣に座って、話してくれるのを待つ。
「最初に言っとくけど、別にあんたに話したくないから、話さなかったわけじゃないわ」
「うん」
「アリス。お兄ちゃんのこと、どう思う?」
「ノワールさん?」
そう尋ねられて、考えてみた。
確かに美形だよね。クールで、全然笑わないイメージあるから、冷たそうにも見えたけど。あと声がいいんだよ!
「カッコいい、ね」
「他には?」
「冷静で笑わない印象かな。それも今日、覆されたけども」
「それはあんたがわかりやすいからよ。お兄ちゃん、いつもはあんなに声を出して笑わないから!」
え、私のせい!?
そういえば、リク様やカルロ様とかも私を見て、声を上げて笑うのよね。面白いことをやったわけでもないのに…。リク様が笑ってくれるのなら、私は全然構わないんだけどね。
「お兄ちゃん、昔からかっこよくて、モテたのよ。でも、少し近寄りづらいでしょ?」
「確かにノワールさん、真顔だとちょっと怖いから、話しかけづらいよね!」
「あんたはこういう時は、ハッキリしてるんだから。それで、よく私が妹だとわかると紹介してと頼んで来る人が結構いたの」
「本人を前にすると、話せないんだろうね。わかる!私もリク様にはそうだから」
「あんたは挙動不審過ぎるの!リク様もたまに堪えきれずに笑っちゃってるじゃない」
ひどい。私だって、恋する女の子なのに!
それを言えば、ベゴニアに「あんた、中身は残念過ぎるのよ。たまには外見通りにお淑やかにしてみなさい」って言われた。そんなの昔から言われたよ!直るものなら、とっくに直してるよ!
それにお父さんやお母さんは、このままでいいと言ってくれるし。もう私はこのままで行く!
「話がそれちゃったわ。私に紹介だけを頼むような人達をお兄ちゃんに紹介なんてしたくないから、毎回断っていたのよ。そしたら、一部の女子達から、嫌がらせされるようになって…。しばらくはお兄ちゃんにも話さなかったわ。でも、ある日、突き飛ばされて、怪我をしたのよ」
「怪我!?大丈夫なの?」
「ただの捻挫よ。だけど、誰もそんな風に言ってくれる人はいなかったわ。保健室で手当てしてもらって、足を引きずりながら、家に帰ると、先に帰っていたお兄ちゃんに事情を聞かれたの。隠せないと思って、全てを話したわ。それを聞いて、怒ったお兄ちゃんが翌日、突き飛ばした人達を呼び出して、ハッキリ言ってくれたのよ」
“俺の妹を怪我させたやつは、絶対許さない!妹を傷つけるやつなんか、誰が好きになるものか!!”
「妹想いの優しくて良いお兄さんだね」
「そうね。お兄ちゃんは優しいの…。あまり笑わないから、怖いと言われることもあるけど、本当は優しい人よ。だから、ここでは言わないようにしてるの。一部知る人もいたけど、それは昔からの知り合いだから。スマルトも知っていたわ」
「そうだったんだ…」
「ま、あんたは知っても、お兄ちゃんに興味はないでしょ?だから、話しても良かったんだけど」
「カッコいいとは思うけど、それだけかな?私にはリク様が一番だし」
「そう。あんたとスマルトは、好みがハッキリしてるからね。しかも、ぶれないし」
私はベゴニアと笑い合う。
その後、少しお喋りをしてから、ベゴニアは自分の部屋に帰って行った。
ベッドに横になり、天井を見上げる。
それにしてもベゴニアとノワールさんが兄妹だったとはね。スマルトにもアンバーさんがいるし。どちらも兄妹仲は、良さそうだ。
お兄ちゃん、か…。
私には兄がいないから、どういうものかはよくわからないけど。
ズキッ。
一瞬だけ胸が痛くなった。
何だろう?気のせいかな?
……さて、私もそろそろ寝よう。寝る準備をして、電気を消す。
─────その夜、私は夢を見た。
幼い私は、誰かの後を追いかけていた。
私と同じ髪色で、同じくらいの男の子が先を走っている。しかし、私が姿を見失わないように時折、待っていてはくれる。
“まって。まってよ!おいていかないで…”
“アリス。なにしてんだよ!はやくこいってー!”
“×××!まってー!”
その男の子の名前を呼ぶ私。
しかし、何と言ってるかわからないまま、私はその男の子の後を追いかけて行く。
そして、私が本当の“真実”を知るのは─────二年後のこと。
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