小ネタ集16

【カルロとリクとライ】

ある休日。
リクが書斎に来ると、ソファーのところでカルロが何かを見ていた。大きさ的に少し大きいようだが、本ではないようだ。気になったリクは声をかける。



「カルロ兄さん、何しているの?」

「リク。さっき本を探していたら、俺達のアルバムが出てきたから、見てるんだよ」

「アルバム?」


見てみると、一頁につき写真が三枚ほど、貼られていた。見開きの頁に六枚の写真があり、その中には幼いカルロやリク、ライが映っていた。



「これ、まだカルロ兄さんがおとなしかった頃だ。この時は、可愛いかったよね…」

「リク。何かトゲない?」

「僕は純粋にそう思っただけだよ。……あれ?」


リクがある写真を見て、声を上げる。その中の一枚に見覚えのある人物がいたからだ。



「兄さんと一緒に映っているこの人って…」

「アガットだよ」

「やっぱり…」


ハルクの専属執事であるアガットがカルロと映っていたのだ。今の落ちついた雰囲気とは違い、元気な印象を受ける。当時はおとなしかったカルロもそんなアガットに懐いているようだった。



「アガットは、この時からも弟想いでさ、他の子にいじめられてるおとなしい俺を見て、助けてくれたんだよ。それからも面倒を見てくれて」

「今はまったく見えないけど、この頃の兄さんなら助けたくなったのかもね」

「リク、さっきからトゲがあるんだけど。反抗期なの?」

「兄さん。細かいことをいちいち気にしてたら、将来はげるよ?」

「はげ……っ!?」


何か言いたそうにしていたカルロだが、別の話題に話を変えることにした。



「俺、この時にアガットと一緒にいながら、思ってたんだ。こんなお兄ちゃんがいたらいいなって」

「この時はまだグレン兄さんもエド兄さんもうちにいなかったから、兄さんが一番上だったね」

「そう。小学生になる前にいきなり兄が二人も出来て、最初は喜んだよ。でも、いざ出来たら、ね…」


カルロは当時を思い出したのか、げんなりしていた。どうやらグレンとエドが色々とやらかしたのだろう。それに巻き込まれ、とばっちりを受けたようだ。きっとおとなしいままでいられなくなった。



「大変だね…」

「リクも後から同い年のブラッドが来ただろ?何かとばっちりは受けたんじゃないの?」

「僕はないよ。ブラッドとは、極力関わらないようにしてたし」

「その時から距離はあったわけか」

「ブラッドと僕が仲良くなれると思う?」

「なれないな。俺ですらブラッドは手に負えない」


そこへ書斎のドアが開き、顔を出したのは、あまりここには来ないライだった。



「お、いたいた!」

「ライ。ここに来るなんて、珍しいね。どうしたの?」

「カルロに用があんだ!」

「……俺?」


不思議に首を傾げるカルロ。そんなことを気にせずに、ライは書斎に入ってきた。



「ほい。これ」

「??」


ライがカルロにいきなり手紙を渡してきた。受け取ろうとしたが、カルロは途中で止める。



「まさかとは思うけど、差出人、お前じゃないよね?」

「は?…違う違う。おれなら、手紙なんてまどろっこしいことしねーで、おまえの部屋に直行するから」

「怖っ!余計に恐ろしいから!!」

「コントはいいから。兄さん、取り合えず手紙は受け取ったら?宛名はちゃんとあるみたいだし」

「宛名?……本当だ」


手紙を受け取ると、可愛らしい文字で“カルロ様へ”とあり、裏を見れば、とある家のご令嬢の名前がある。しかし、カルロにはまったく覚えがなかった。封を開けて、中を少し読んでみるが、読んでもまったく身に覚えがない。



「………これさ、本当に俺?」

「どうして?宛名にカルロ様と書いてあるじゃない」

「宛名はそうなんだけどさ、俺、ベスビアナイト家のご令嬢と二人でなんて会ったことないんだよ」

「え?」

「パーティーとかで顔を合わせたことは、何度かあるよ。でも、手紙には、“カルロ様と出会い、月に何度かデートを重ね、キスを初めて交わした日はその日は思い出して、全然、眠れなかったです。こないだ初めてお泊まりをして、その時に私の初めてをあなたに捧げました”…って書いてあるんだけど、俺、この子と関係持ったことないし」

「兄さんが忘れてるだけじゃない?」

「忘れてないよ!それに俺、関係をずるずると続けないし。同じ相手とは二度と会わないから、連絡先も教えてない…」

「そうは言っても、向こうの女性は“婚約して欲しい”ってあるよ?」

「ええっ!?」


リクが手紙にかかれたことをカルロに言えば、彼はその先まで読んでいなかったのか、再び手紙を見返す。「本当だ…」と小さく呟く。



「カルロ兄さん、遊びもほどほどにね」

「俺、この子とだけは遊んでない!それだけは誓って言えるよ!」


だが、カルロが否定すればするほどに、リクの顔には嫌悪感が増す。あからさまにカルロに対して、冷たい表情を向けていた。



「なあ。それさ、もしかして、じいちゃんじゃねーの?」

「「え?」」


今まで黙っていたライがそんなことを言い出した。



「その女、カルロとじいちゃんを間違えてんじゃねーかなって。多分、じいちゃんも名前を言ってねーんじゃね?それでパーティーか何かの時にカルロと会って、その女が勘違いしたんじゃねーの?じいちゃんも否定しないで、それで通しそうじゃん」

「やる!あの人ならやるよ!問いただせば、「向こうの娘が“カルロ”と呼んだからだよ」とかケロッとした顔で言うんだよ!あのくそじじい!!」

「確かにおじいさまなら、やりそうだね」


その後、カルロがコルチカムに連絡すれば、あっけなく吐いた。「向こうの彼女がお前の名前を言ったから。夢を壊してはいけないと思って」と答えたらしい。その件をアメジストに話すと、父親も自分の父親ならやりかねないと思っていたらしく、少しだけ複雑な顔をしていた。


その数週間後。
リクは、カルロに尋ねてみた。



「兄さん。そういえば、例の令嬢の人とはどうなったの?」

「最初は難航してたみたいだけど、示談は成立したってさ。ブラン達だと平行線で話にならないから、あの人に出てもらったんじゃないかな…」

「そうなの?」

「うん。さっき、あの人が来てたから、そのことを親父に報告したんじゃない?」

「それでなのかな…」

「リク?」

「父さん、機嫌がすっごく悪かったみたいで、何か壊したみたい。使用人の人達が応接間を片していたから」

「あの人は、親父を怒らせることを言って楽しむところあるからね」

「カルロ兄さんもそういうところ、あるよね?」

「あの人と一緒にしないでよ!」




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