小ネタ集12
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ラジオ体操が終わり、皆が帰り出す。アリスとハルクも屋敷に向かいながら、歩いていた。
「朝ご飯を食べたら、また運動しましょう!」
「ま、いいけど。何すんだよ?」
「屋敷内にトレーニングジムみたいな部屋がありませんでした?」
「ある。アガット達専属執事とかがよく使ってる。オレもたまに使ってるし」
「そうなんですか?じゃあ、午前中はそこで体を動かしましょう!」
「地下にもプールあるぜ。あんま大きくはねェけど」
「え!?いや、プールはちょっと…」
プールと聞いて、アリスは困惑した顔をする。だが、すぐにいつもの顔で「朝食終わったら、部屋に迎えに行きます」とだけ告げて、アリスはさっさと戻ってしまった。
「ハルクさ、朝騒いでなかった?」
「朝??」
朝食を食べていた時、斜め向かいに座るタスクにそう言われ、ハルクは思い返す。おそらくアリスにパジャマのズボンを脱がされまいと必死で叫んでいた時のことだろう。
「ああ、突然、アリスが朝からラジオ体操に行こうって言い出して、無理やりパジャマ脱がされた」
「え?アリス、大胆!」
「想像してるのとは全然違ェから。アイツ、ズボンまで脱がしにきたから、必死にそれだけは抵抗したけど」
「見られたら、大変だもんなー!」
「うるせェ」
タスクがニヤニヤとハルクを見るが、それを無視しながら食事をする。すると、ハルクの隣にいたライが話しかけてきた。
「てか、運動なら部屋でも出来んじゃん!」
「柔軟とか筋トレくらいなら出来るけど」
「違げーよ。二人で汗かきながら、気持ちよくなれることがベッドで出来るじゃん」
「はあ?ベッドで二人で気持ちよくなれ……っ!?」
それを聞いて、想像したのか真っ赤になる。
「想像してやんの。ヤラシー!」
「んなことしねェし!!てか、お前が言ってきたんじゃん!」
「それヤる方がいいんじゃね?すげー気持ちいいぜ?ヤりたくねーの?アリスと」
「そ、それは…!」
「ライ」
ハルクが答えに詰まっていると、今まで黙って食事をしていたリクがライに話しかける。
「弟に何をさせようとしているのかな?」
「何をさせる?決まってんじゃん!……っ!」
「それ以上、ハルクに変なことさせようとすれば、お前が父さんの書斎に隠してる秘蔵ファイルを燃やす。……いいよね?もう必要ないみたいだし」
「え!?リク兄、何で知ってんの!?」
「決まってるでしょ。数日前に見つけたからだよ」
リクがある本のタイトルを言えば、ライが慌て出す。
「わかった!わかったから、燃やすのだけはやめて!リク兄!!やっと見つけたんだから!あれ、マジでなくなったら、俺、立ち直れねーから…」
「リクは怖いな…」
「そうかな?ああ、兄さんが僕達の書斎に隠してる例の…」
「うわあ!リク、やめて!」
「え?皆の前で言って欲しかったんじゃないの?」
「そんなこと言ってない!」
ライと同じように慌て出すカルロにリクはクスクスと笑う。それを見た下の弟達は思う。
(((リク兄だけは敵に回してはいけない…)))
それから朝食を終えて、部屋に戻るため、廊下を歩くハルク。
(アリス、絶対にリク兄の本性を知らねェだろうな。知らない方がいいか。でも、アイツ、リク兄には盲信的だからな…)
部屋に戻って、数十分後。
ドアをノックされた。返事すると、先程と同じ格好のアリスが入ってきた。
「お坊っちゃま、行きましょう!」
「わかった」
「二人して、どこに行かれるんですか?」
部屋にいたアガットが不思議そうに尋ねる。
「トレーニングルーム」
「ああ、そこに行かれるんですね!……あれ?でも、今日はトレーニングルーム、メンテナンスするから使えないはずですよ」
「え?」
「本当ですか?アガットさん」
「はい。昨日、使っていた時にボルドーさんがメンテナンスしないといけないとおっしゃってましたから」
それを聞いた二人は部屋を出て、トレーニングルームに向かう。そのドアにアガットの言ったようにメンテナンスのため、今日一日使用禁止と貼り紙がしてあった。
「使用禁止!?」
「流石にメンテナンス中だと使えないですね。他に…」
「こうなったら、地下にあるプールに行こうぜ」
「……えっ」
すると、アリスが何故か固まる。
※この先から、アリス視点。
「トレーニングルームが使えねェなら、プールでいいじゃん」
「え、いや、プールはちょっと…。ほら、勝手に使ったら、怒られちゃいますし。許可が必要ですよね!」
「許可?夏の間はいらねェよ。いつでも入れるようにしてあるし。鍵持ってるのは、親父とオレら兄弟だけだけどな。夏以外ならボルドーとかの許可は必要だぜ」
そうなんだ。というか、ここにプールがあるの知らなかったな。三年もいるのに…。
まあ、あっても、私は泳がなければいいか。
「じゃあ、お坊っちゃまだけ泳いでくださ…」
「そういえば、お前、泳げないって言ってたよな?練習するか!」
え、練習しなくても…。プールだと水着にならないとじゃないの!
「いえ、別に練習しなくても…。私、まったく泳げないわけじゃないですよ!」
「水着、用意してこいよ。オレ、部屋で待ってるから」
このままではプールになってしまう。何とかして避けねば!
「プールじゃなくても、他のことをしましょう!」
「他のことって?」
「走ったり?」
「この炎天下の中で走んの?熱中症になるぞ」
確かに。この暑さの中で走ったら、お坊っちゃまよりも私が先にダウンしてしまう。私とお坊っちゃまでは、うさぎと亀みたいなものだし。
「部屋でストレッチするのはどうですか?」
「……お前さ、水着になんのイヤなわけ?」
「そ、そんなことは…」
「なら、プールでいいじゃん。運動しようって言ったのはお前なんだから」
確かにそうだけど!プールは…。
仕方ない。自分で運動しようと言ったんだから、責任を持とう。
「わかりました。水着、取りに行ってきます」
お坊っちゃましかいないんだし、何とかなるだろう。
自室で水着に着替えて、その上にジャージを着る。ミニバッグにタオルと下着を入れて、部屋を出て、お坊っちゃまの部屋に向かう。
「お坊っちゃま、準備出来ま…」
ノックしてからドアを開けると、ベッドの上に押し倒されたお坊っちゃまとそのお坊っちゃまを押し倒すライ様の姿。
もしかして、お取り込み中だったかな?
「……お邪魔して、すみませんでした」
「アリス!コイツを引き離してくれ!」
「私には無理です!誰か呼んで…」
助けたいけど、へたしたら私まで巻き込まれてしまう。少し前にライ様に襲われそうになったから、まだ怖いし。
私はドアから離れて、誰かいないか探す。すると、お坊っちゃまがライ様を力いっぱい突き飛ばして、こっちに向かって来た。
「行くぞ!」
「え、待っ…!」
腕を掴まれ、私は走り去るように部屋を離れた。
しばらく走って、ようやくお坊っちゃまが止まってくれた。全然息が切れていないお坊っちゃまとは反対に私は、息が上がってしまっていた。まずは呼吸を落ちつかせないと。
少しして何とか落ちついたので、お坊っちゃまに話しかける。
「ライ様と一体、何をしてたんですか?」
「……」
「お坊っちゃま?」
「…な、んでもねェ。ほら、地下に行くぞ」
何か言いたくないみたいだな。これは無理に聞き出さない方がいいかも。
お坊っちゃまの後に続いて、ついてく。そこにプールはあった。大きくないって言ってたけど、私が小学校に置いてあったプールよりは大きい!
早速、着ていた服を脱いで、水着になる。お坊っちゃまも既に服の下に穿いていたらしい。二人で準備運動をしてから、プールに入る。
「アリス。どれくらいなら泳げんの?」
「どれくらい?25mは泳げないですね」
「……マジ?」
お坊っちゃまがマジかよって顔をしていた。え、私、そんなにやばいの?
そして、お坊っちゃまの水泳教室が始まった。お坊っちゃまのことだから、厳しく教えてくるのかと思っていたら、そうでもなかった。何より思ったよりも全然優しかった。
「お坊っちゃま、意外に面倒見いいんですね!」
「意外にって…」
「何かイメージだと面倒くせェって、投げ出しそうな感じだったので」
「お前が普段オレをどう思っているかがわかった」
「いや、そうじゃなくてですね!優しいところもあるんだなっと…」
「優しさがないみたいに聞こえんだけど」
「え!?そんなことは…」
そんなつもりで言ったわけじゃない。どう言えば、伝わるんだろう。私が必死に否定しようとした時、お坊っちゃまは笑った。
「ははっ!」
「ほら、そう笑ったらいいんですよ!私はお坊っちゃまの笑った顔、好きです」
「……っ!」
お坊っちゃまが黙ってしまった。
顔は背けていたからどんな顔をしているかはわからなかったけど、耳が赤いのだけはわかった。
口が悪いけど、優しいんだよね。それがもっと周りに知ってもらえたらいいのに…。
その後、ずっとプールにいたら、アガットさんが昼食を持って来てくれた。
一度、昼食を兼ねて休憩を取った。それからまた再開し、夕方までプールにいた。
私も少しは泳げるような気がしてきた!
「お坊っちゃま、ありがとうございます!」
「明日は午後にプールやるから」
「え、明日はトレーニングルームでは…?」
「午前はそうだけど。お前、まだまだ練習させないと泳げなくなりそうだから」
嘘でしょ。まだプール教室は続くの?てっきり今日だけだと思っていたのに…。
あれ、私、そういえば、何でお坊っちゃまと運動をやることにしたんだっけ?忘れちゃった。
まあ、いいか!
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