Blood
「ブラッド。そこで何してるの?」
「決まっているだろ!口答えするメイドに罰を与えているんだよ!」
「罰?」
そこへ誰かが来たのか、ブラッド様が相手に答えていた。何を言ってるかまではわからないが。私から視線をずらしたせいか、力が緩んだのを見逃さなかった。隙をついて、ブラッド様を突き飛ばして、下から抜け出した。
「アリス!大丈夫!?」
「ごほっ、ごほごほ……はあはあ………だ…じょ……ぶ…」
「ごめんね。私のために…」
咳き込んで、なかなか話せない。ショコラが私の背中の汚れをはたいた後に優しくさすってくれた。
幸い、ブラッド様は私を捕まえようとはしなかった。というか、誰と話していたんだろう?私は顔を上げると、ブラッド様の前にいるリク様を見つけた。
「……リク…さ、ま…」
「……………アリスさん」
リク様が私を見て、目を丸くしていた。が、すぐにブラッド様に視線を戻した。
「ブラッド。アリスさんに何したの?」
「生意気なメイドに仕置きしただけだ!僕をひっぱたいてきたから」
「アリスは悪くありません!アリスは、私の代わりに…!」
「ショコラ。いいよ。私がブラッド様を叩いたのは事実だから」
「だけど!」
「ほら、そいつも認めてんだろ?クビだ!そこにいる女二人。さっさと荷物をまとめて、屋敷から出てけ!」
ブラッド様はそう吐き捨てると、その場から居なくなった。リク様が私とショコラの方に来てくれたので、私は頭を下げた。
「すみません。リク様、お騒がせしてしまって。ショコラは悪くありません。私が勝手にやったことですので、ショコラをクビにさせないでください」
「アリスさん…」
すると、今度はショコラがリク様に頭を下げた。
「リク様。アリスは悪くないんです!アリスは私のためにブラッド様に逆らっただけです!どうかアリスをクビにさせないでください」
「ショコラさんも。お二人共、自分のことよりも、相手を助けるんですね」
「アリスは悪くありません!」
「ショコラは悪くありません!」
私とショコラは同時にそう口にしていた。だって、私はショコラを守りたかったから、助けただけ。あんな理不尽にクビにされるなんて納得出来ないもの。
「わかりました。僕の方からボルドーに報告します。お二人もサルファーに報告してください」
「はい!」
「わかりました」
すると、リク様が私をジッと見る。
え、私、顔に何かついてるのかしら。思わず手で顔を触る。
「アリスさん、首のところに痣が…」
「痣?」
そうだった。私、ブラッド様に首を絞められたんだったわ。このままお坊っちゃまの部屋に行けば、気づかれちゃう。
「医務室で手当てしてもらって、今日はそのまま休んでください」
「え、ですが…!」
「アリス。ここはリク様に従って。その首の痣を見たら、ハルク様が騒いじゃうから」
「お坊っちゃまが騒ぐ?何で??」
私の返答にリク様とショコラが苦笑した。理由を聞いても、二人は答えてくれない。
「ショコラさん。アリスさんのことをお願いしてもいいですか?二人共、今から有休にしてもらうようにボルドーに頼みますから」
「わかりました!今すぐにアリスを医務室に連れて行きます」
「心強いです。それでは、僕はボルドーのところに行きます」
私とショコラは礼を言って、リク様と別れた。
この後、私はショコラによって、医務室に連れていかれた。治療をしてくれたパーチメントさんに「アリス。君は本当に怪我が多いね」と呆れながら言われた。確かにここに勤めてからは結構な頻度で来てるわね、私…。
医務室を出てから、二人でメイド長の元に向かい、ブラッド様とのことを報告した。既にメイド長のところにも話はきていたのか、私達の話を最後まで聞いてくれた。
「ブラッド様にも困ったものね…。同じことが少し前にもあったのよ」
「え!?」
「話を聞く前にその子が突然、辞めてしまったから、気になったの。後日、連絡して詳しく話を聞いてみたら、ショコラとまったく同じことをされてたみたいでね」
「そうだったんですか…」
「ええ。流石に今回はブラッド様にも何かしら処罰はあると思うわ」
良かった。あの人だけ何もないのは、ずるいものね。
「だけどね。アリス!」
「はい?」
「あなたは、もう少し考えてから、行動しなさい。いくら頭にきたからって、ブラッド様は男性なの。女性であるあなたの力では敵わないのよ。リク様が来てくれなかったら、どうなっていたか…」
「すみません…」
「そうだよ。私、アリスが死んじゃうと思ったんだから!」
「ごめん」
「誰かを守ることの勇気も悪いことじゃないわ。でも、あなたはもっと自分を大切にすること。わかったわね?」
「わかりました」
「取り合えず、二人共。今日は休みなさい。リク様からもそう指示もあったから。あなた達の処分は、わかり次第に知らせるわ。それまでは部屋で謹慎よ」
それからメイド長の部屋を出て、私は部屋に戻った。ショコラと一緒に。何でショコラも一緒なのかって、私を一人で部屋にいさせたら心配だからだって。どれだけ私は、問題を起こすと思われてるの!?一人でも大丈夫なのに…。
【to be continued…】
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