小ネタ集11

❰感情❱リク視点。


読んでいた本を読み終え、顔を上げる。時計を見れば、ニ時を過ぎていた。

ふとベッドの方を見れば、ベッド横にいたハルクが眠っていた。僕はイスから立ち上がり、近くにおいてあったブランケットをハルクにかけた。
アリスさんの手と自分の手を繋ぎながら、幸せそうな顔をしていた。


それを見て、僕はハルクが羨ましく感じた。

素直に自分の感情を出せるハルク。対して、僕は自分の感情を隠してしまう。好きだからこそ、バレてはいけない。
父さんにだけは絶対に。


きっとハルクにとって、アリスさんは初恋だろう。ずっと一緒にいたい。ハルクはそう思っている。

でも、それは叶わない。この世界は身分差がある。互いに好きでも一緒になれない。そういう人達を僕は見て来たから。あんなに互いを想い合っても、容赦なく引き離される。

あのカルロ兄さんだって、本気で一緒になりたい相手がいた。庶民ではないけど、父さんからしたら、歓迎出来るような家柄じゃなかった。カルロ兄さんは何度も何度も頭を下げていた。彼女と一緒になりたいと。けれど、父さんはそれを許さなかった。相手の家に多額の金を渡して、別の場所に追いやった挙げ句、カルロ兄さんと二度と会わないという承諾書まで書かせて、引き離したのだ。

あの時のカルロ兄さんは、見ていられなかった。ショックで一時期、部屋から出なくなってしまったから。しばらくして、部屋からやっと出てきたと思っていたら、彼女を忘れようと、カルロ兄さんの女遊びが激しくなったわけだけど…。

今思うと、その相手は優しい人だった。優しいから兄さんも惹かれたのだろう。だからこそ、守ろうとした。傷つけられたくなかったから。
しかし、守りきれなかった。


きっとこのままでいけば、アリスさんも傷つけられてしまう。守られるなら、守りたい。
だけど、僕では彼女を守れない。自分の気持ちがわからないんだ。彼女の傍は居心地がいいし、彼女だけは嫌悪なく触れたし、彼女とは話も合う。

でも、それが恋愛なのか、親愛なのかまだよくわからない。答えが見つからないんだ。

彼女はハルクに対して、恋愛感情はないみたいだけど、今後はわからない。人の心は移ろいやすい上に変わりやすいから。



……………
…………
………
……



“リク様”

初めて会った時から、彼女が僕に向ける感情が今も変わっていないことはわかってる。

でも、僕達の間に身分差がある。彼女もそれをわかってる。


ハルクのように感情を出せるほど、僕は幼くない。

僕の胸にある感情をこれ以上、育ててはいけない。育ててしまったら、父さんに引き離される。彼女を傷つけられる。そんなことさせたくないから。



だから、僕は願うだけ。
願わくは、彼女が笑っていられますように。




















.
3/4ページ
スキ