小ネタ集10
❰音色❱
廊下を歩いていたら、ピアノを弾く音がした。
この屋敷でピアノを弾く人間はかなり限られている。兄弟ではライ様か、タスク様だけだ。
タスク様はともかくとして、ライ様を知る者がピアノを弾くと聞くとほとんどの人が驚く。まあ、わからなくもないけれど。
昔はよくピアノのコンクールなどに出ては、優勝も何度かしたことがあった。彼にはピアノの才能がある。なかなかそれを見せたがらないが。
弾く曲も普段の彼からは想像出来ないほど、物悲しい曲ばかり弾く。最近はピアノを弾いてる姿は見ないから、今は気分ではないのだろう。
タスク様もピアノは弾くが、ライ様のようにコンクールに出るわけではない。彼の場合はリコリス様に聞かせたいから弾く。それだけ。
きっとピアノをもっと本格的に習えば、コンクールに出られるくらいはあっただろう。しかし、彼は興味がないとまったくしない。そこは旦那様に似ていた。
話は戻るけど、今も聞こえてくるピアノの音は、誰が弾いているものか。上記の二人は現在、学校に行っているから違う。一般の執事やメイドが勝手に弾くことはない。弾けるとすれば、許可を得ている者だ。
専属執事でピアノを弾けるのは、一人しかいない。
早速、僕はピアノの置いてある娯楽室に向かった。
「やっぱり君だったんだ。クロッカス」
「………ピアニーですか」
僕が声をかけると、クロッカスはピアノを弾くのを止めた。
「続けても良かったのに」
「いえ、元からそんな長い間、弾く予定ではなかったんです。調律師に見てもらったので、試しに弾いていただけですから」
「昔はよくピアノを弾いていたんでしょ?」
「ええ。ですが、もう昔のことですから」
クロッカスの過去に何があったかは詳しくは知らない。興味はないから聞いていない。昔を知ったところで仕方ないし。
だって、目の前にいる彼が僕の知るクロッカスだから。
「じゃあ、一曲だけ弾いてくれない?」
「わかりました。曲は?」
「ショパンの夜想曲」
リクエストすると、クロッカスは弾き始める。
僕はしばしその音色を聴きながら、穏やかなひとときを過ごした。
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廊下を歩いていたら、ピアノを弾く音がした。
この屋敷でピアノを弾く人間はかなり限られている。兄弟ではライ様か、タスク様だけだ。
タスク様はともかくとして、ライ様を知る者がピアノを弾くと聞くとほとんどの人が驚く。まあ、わからなくもないけれど。
昔はよくピアノのコンクールなどに出ては、優勝も何度かしたことがあった。彼にはピアノの才能がある。なかなかそれを見せたがらないが。
弾く曲も普段の彼からは想像出来ないほど、物悲しい曲ばかり弾く。最近はピアノを弾いてる姿は見ないから、今は気分ではないのだろう。
タスク様もピアノは弾くが、ライ様のようにコンクールに出るわけではない。彼の場合はリコリス様に聞かせたいから弾く。それだけ。
きっとピアノをもっと本格的に習えば、コンクールに出られるくらいはあっただろう。しかし、彼は興味がないとまったくしない。そこは旦那様に似ていた。
話は戻るけど、今も聞こえてくるピアノの音は、誰が弾いているものか。上記の二人は現在、学校に行っているから違う。一般の執事やメイドが勝手に弾くことはない。弾けるとすれば、許可を得ている者だ。
専属執事でピアノを弾けるのは、一人しかいない。
早速、僕はピアノの置いてある娯楽室に向かった。
「やっぱり君だったんだ。クロッカス」
「………ピアニーですか」
僕が声をかけると、クロッカスはピアノを弾くのを止めた。
「続けても良かったのに」
「いえ、元からそんな長い間、弾く予定ではなかったんです。調律師に見てもらったので、試しに弾いていただけですから」
「昔はよくピアノを弾いていたんでしょ?」
「ええ。ですが、もう昔のことですから」
クロッカスの過去に何があったかは詳しくは知らない。興味はないから聞いていない。昔を知ったところで仕方ないし。
だって、目の前にいる彼が僕の知るクロッカスだから。
「じゃあ、一曲だけ弾いてくれない?」
「わかりました。曲は?」
「ショパンの夜想曲」
リクエストすると、クロッカスは弾き始める。
僕はしばしその音色を聴きながら、穏やかなひとときを過ごした。
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