Blood




数日後。
再びショコラとブラッド様を見た。

いやいや、秘密だと言ってたけどさ、二人共、隠す気ある!?もしかしたら、ここが約束して会う場所なのかな?

しかし、今日は前に見かけた時と様子が違う。



「しつこい!」

「きゃあっ!」


喧嘩?
私は二人に見つからないところから、こっそりと見ていた。

ブラッド様がショコラを振り払い、ショコラの手から、何かが地面に落ちた。



「何度も同じことを言わせるな!」

「ブラッド様…」

「わかったら、二度と作ってくるなよ」


落ちたのは、ショコラが作った手作りクッキー。
近くに落ちたそれを踏みつけたブラッド様は、その場から立ち去った。

泣いてるショコラを放り、作られたクッキーが地面に散らばったまま。

何なの!あの男は!?最っ低!!
ブラッド様の姿が見えなくなってから、私はショコラに近寄った。



「ショコラ、大丈夫!?」

「アリス。……うん」


ハンカチを差し出すと、ショコラは受け取り、涙を拭う。でも、悲しいのか涙は止まらない。



「ブラッド様に食べてもらいたくて、作ったんだけど、食べてもらえなかった…」

「ショコラ…」


せっかくショコラがブラッド様のために作ったのに、一口も食べないなんて!何て男なのかしら!ショコラが作るお菓子はすっごくおいしいのに!

それにこっちは、作ってる間もおいしく食べてもらえるかなって、思いながら作るのよ!それを無下にするなんて許せない!!

私は散らばったクッキーを手に取り、口に入れる。うん。おいしい。何枚か拾っては食べた。



「アリス!だめ!落ちたものなんか食べないで!」

「落ちたって、ショコラの作ったクッキーはおいしいよ!」

「え…」

「こんなおいしいクッキーを食べないなんて、ブラッド様はバカだね!」

「……っ。アリスだけよ。落ちても食べてくれる人は」

「だって、おいしいし。嘘じゃないよ!!」

「……………ありがとう、アリス」


それからショコラと別れ、私はお坊っちゃまの部屋に戻ってきた。

それにしても、ショコラは大丈夫かな。
私は何も出来なかったけど。もっと励ませる言葉を言ったりとか出来たんじゃないかな。私がショコラにしたことは、ただ落ちたクッキーを食べただけだし。意地汚い食いしん坊みたいじゃないの!



「……………私は、何て無力なんだー!」

「アリス。お前、何言ってんの?」


しまった。
つい、お坊っちゃまの部屋で叫んでしまったわ。宿題をしてるお坊っちゃまとアガットさんが私を見ていた。



「すみません。静かにしますので」

「別に。今更、お前の奇行には慣れたから、気にしてねェよ」

「奇行!?失礼じゃないですか!」

「お前、気づいてねェの?この部屋でいる時、ほとんどまともでいたことねェからな」


そんなわけないわよ!?
私はいつも真面目にやっているのに、奇人変人扱いされるなんて。



「アガットさんはわかってくれますよね!?」

「え?俺は、その…」


アガットさんが私から目をそらした!何で!!



「ほら、アガットも否定しねェじゃん。これでわかっただろ?」

「お坊っちゃま。俺は何も…」

「どうせ私は変人ですよ!勉強のお邪魔になりますから、しばらく席を外します」


そう言い、私は部屋を出た。
失礼しちゃうわよね!お坊っちゃまは。



翌日。
担当場所の掃除を済ませた私は、使用人屋敷に向かおうと、渡り廊下の方に向かって歩いていた。すると、ブラッド様の声が聞こえてきた。

……………まさか!
私は、急いで声のした方に走る。案の定、ブラッド様とショコラがいた。



「もういい加減、終わりにしよう。正直、お前はつまらないんだよ。可愛い顔してはいるが、地味過ぎる。エド達がメイドと遊ぶのは楽しいと話していたから興味を持ってみたが、ちっとも楽しくない」

「そんな…!最初から遊びだったんですか!?」

「当たり前だろ。僕がお前のようなメイド相手に本気になるわけがないだろう!」

「ひどい…」

「ま、身体だけは良かったが、それだけだな」


腕を組みながら、笑い見下すブラッド様。ショックで、座り込んで泣くショコラ。どれだけバカにすれば、気が済むの…!私は黙って見ていられなくて、ショコラの元に駆け寄る。



「ショコラ!!」

「アリス…」


ショコラは私にすがりついて、泣いていた。当たり前だ。ショコラは真剣だったのだから。それなのに、この男はショコラを弄んで!
私が現れて、話は終わったとばかりにブラッド様が立ち去ろうとした。それを私が止める。



「……待ってください」

「メイドごときが僕を呼び止めるとはな。用があるなら、早くしろ。時間がもったいない」


私は泣いているショコラから離れて、ブラッド様の前に立つ。



「今すぐにショコラに謝ってください!」

「何で僕が謝らなきゃいけない?」

「あなた、さっきから自分が何を言っているか、わかってますか?ショコラを何だと思っているんですか!」

「僕は、夢を見させてやったんだ。謝ることなど……っ!!」


私はブラッド様の頬を思いきりひっぱたいた。この男が何を言っても、もう許せそうにはない。



「………」

「何す……っ」


今度は反対側の頬もひっぱたいた。こんなのショコラの痛みに比べたら、大したことない。それなのに、ブラッド様は私にひっぱたかれたことが相当、許せなかったらしい。



「貴様!!」

「……っ!」


キレたブラッド様に胸元を掴まれたが、私は負けまいと睨み付けた。



「あなたは最低の人間です!!」

「うるせえんだよ!たかがメイドが俺に口答えするな!」

「あなたは、男としても最低最悪!いえ、人間のクズだわ!」

「痛めつけなきゃ、わかんないみたいだな。このバカ女!」

「アリス!!」

「………………っ!」


押し倒され、馬乗りになったブラッド様に首を絞められた。苦しい!抵抗しようにも力が敵わない。



「僕に勝てないゴミが!弱いくせに吠えやがって。このまま死ね!死んでから、この僕に逆らったことを後悔するんだな!!」

「ブラッド様、止めてください!アリスが死んじゃいます!!」

「うるさい!こんな女、この世からいなくなった方がせいせいする!」


ショコラが必死に止めようとしてくれるが、私の首からブラッド様の手は離れない。
まずい。このままじゃ…!だんだん意識が朦朧としてきた───



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