小ネタ集9

【兄姉弟妹その2】


次の仕事をしに館内を歩いていたら、おれの前をここの息子の誰かが歩いていた。あいつは確か…ライってやつだ。
あまりいい噂は聞かないが、好みだと認識されなければ問題はない。どうやらうちの兄貴を気に入ってるようで、やたら構ってくるらしいが、おれには何もない。ふとそいつが振り返った。

だから、おれはいつものように一礼して、通り過ぎようとした。だが、何故かそいつがおれの前に立ち塞がった。



「お前さ、アガットの弟ってホント?」

「そうですけど」

「ふーん…」


ジロジロと無遠慮なく見てくる。黙っていれば、おとなしそうな感じに見える。そこまでやばそうには見えない。
ま、人は見かけによらないからな。



「おれに何か用ですか?」

「アガットと少し似てんなー」

「兄弟ですから」

「なあ、お前の名前は?」

「アッシュです。あの、もう用がないなら行ってもいいですか?ボルドーさんに呼ばれてるんで、遅れると怒られるんです」

「なら、いいぜー。ボルドー、怖えし。またな、アッシュ」


気分がいいのか、あっさりと去っていた。
いけね。おれもボルドーさんのとこに行かないと。



夜。
珍しく食堂で兄貴とダチのメイズと会い、一緒に飯を食うことになった。



「兄貴。あれとよく普通に話せんな」

「アッシュ。あれって言わない…」


兄貴が苦笑しながらも注意してくる。
てか、おれが名前を出さなくても、誰のことかわかってんじゃん。



「アガくん、ライ様のお気に入りの1人っすからね。お尻を触られるくらいだし」

「それはメイズも一緒だろ。何自分は関係ないって顔してるんだよ」

「メイ。お前もあいつに触られてんのかよ」

「流石に旦那様の息子を殴るわけにはいかないっすからね。まだライ様なら可愛い方すよ?」

「え?ここにあいつよりやばいのいんの?」

「いるっすよ。ここでは言えないっすけど」


マジかよ。
あれよりまだやべーのがいるのかよ。



「こら、メイズ。嘘をつかない。この屋敷でライ様よりやばい人はいないからな」

「アガくん。それは全然フォローになってないっすよ…」


一番ひどいのは兄貴じゃん。
同じことを思ってたのか、メイも笑ってた。



「それよりもアガくんの弟って覚えられたんたら、気をつけた方がいいっすよ?ライ様、興味を持っちゃうとなかなか離れないすから」

「おれはまだいいけど、エボニーが心配…」

「あー。エボニーの方がまずいっすね。アガくん寄りの性格してるし」

「メイズ。どういう意味だ?俺寄りって…」

「決まってるじゃないすか!ライ様のストライクゾーンに入るってことっすよ」


それを聞いて、兄貴はショックだったのか、黙ってしまった。兄貴を放って、話を続ける。



「エボニー、大丈夫だと思うか?ライ様に見つかるか?」

「時間の問題っすよ?アッシュが認識されたなら、そのうちアッシュが双子ってバレるっすね。うちには双子で働いてるのいないし」

「確かに。おれ、この後エボニーとこ行ってくる」

「それがいいっすよ」


飯を食い終わって、二人と別れた。
この後、二人は仕事があるらしい。専属執事は大変なんだな。
さて、おれも行ってこよう。





「アッシュ。どうしたの?」

「ちょっとな。部屋上がるぞ」

「どうぞー」


早速、部屋を訪れるとエボニーは本を読んでいた。机に読みかけの本があったから。ちなみにおれは、あまり本は読まない。エボニーはおれと違い、結構色々な本を読んでいる。



「今日、お前のところにライ様は来たか?」

「ううん。来てないよ。何で?」


まだエボニーにのところは来てないか。
でも、いずれはエボニーの前にも来るよな、あいつ。



「もしも、ライ様が来たら、適当に理由つけて逃げろよ?」

「アガット兄がライ様に気に入られてるからね。ぼく達のところにも来るってこと?」

「そう。今日、おれんとこに来たから」

「……なるほど。わかった。ありがとう。アッシュ」


その後はエボニーの部屋でしばらく喋ってから、部屋を出た。



話してたら、喉が渇いたな。
自分の部屋に戻る前に飲み物を買おうと食堂の方に向かう。すると、反対側からメイドの女が歩いてきた。おれに会釈してきたから、おれも同じことを返した。

今のは確か、アリスだったよな?同期で同い年だけど、挨拶するくらいで話したことはない。でも、よく兄貴からよく話は聞いてた。





“お坊っちゃま、アリスさんから離れたがらないんだよね”

“そうなのか?”

“うん。最初はお母さんがいないせいかなと思ってたけど、違うんだよ。多分、好きだから離れたくないんだよ”

“好き…?あの、ハルク様が??”

“そう。可愛らしいよね”

“だって、身分差あるじゃん!しかも、メイドに恋したって…”

“一緒になれないよ。でも、きっとお坊っちゃまには関係ないんだよ。それにお坊っちゃまが俺によく話してくれるんだ。アリスさんとのことをさ。それを聞いてるだけで、俺も楽しいんだ”





ハルク様の専属執事の兄貴が嬉しそうにそう話していた。兄貴は元からハルク様に甘いからな。うちの弟のアザーを重ねてんだろう。同い年だし、中身も結構似てるから。あいつも確か、近所の年上の女を好きとか聞いたような気が…?


そういや、メイもアリス関連の話で似たようなことを話していたっけ。





“ハルくん、アリスに近づく男を撃退してんすよ?ほら、やたらメイドをナンパしてたヤツがいたじゃないすか?”

“ああ、いたな。ゾウゲだろ?”

“そいつがアリスにデートしようって、声かけてたら、後ろから蹴飛ばしてんすよ。その蹴りがキレイに決まって、あれは思わず笑っちゃったすよ。ハルくん、上手いなーって”

“止めなかったのかよ”

“すぐにアリスが止めたんで、おれの出る幕じゃなかったっす”

“お前、止める気はなかっただろ?”

“いい気味だったっすから。おれ、最初からゾウゲは嫌いだったなんで”

“お前、結構好き嫌い激しいよな…。誰とでも楽しく話す割には”

“そうっすか?”

“そうだよ”


そんな話を思い出した。
何かさっきすれ違ったせいか、ついアリスのことばっかだな。おれ自身はあいつと話したことないのにな。


















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