小ネタ集8


❰虎視眈々❱アガット視点。


さて、次はこの荷物を地下倉庫に持って行くか。荷物を持って、階段を降り、進んでく。すると、地下へ行くドアの前にある人物が立っていた。思わず逃げようとしたが、相手が俺に気づいてしまった。



「アーガット」


俺に向かって、手を振ってくる。
げっ。何でここにいるんだ。俺はそれを顔に出さないように笑って答える。



「こんにちは、ライ様」

「ねぇ、アガット。俺の執事になってよ」

「俺、ハルクお坊っちゃま専属の執事なので、それは無理ですね…」


絶対に嫌だ。
ライ様の執事になったら、襲われるって聞いたんだぞ。今までライ様についたヤツは、皆その日のうちに襲われたって…。

マホにそれとなく聞いてみたら、襲われたことはなかったみたいだけど。“可愛かったよー”って答えてたし。マホは基本的に男らしいけど、たまに天然入ってるからな。それにマホが面倒見てた時はまだ子供だったもんな、ライ様。

どこからライ様はおかしくなったんだ?



「……っ!?」

「相変わらず良い尻してんねー」

「俺の尻を触っても、面白くないですよ?」


触られた!勘弁してくれよ!!
心の中でギャーっと騒ぎながらも、触られても平気ですよと見せる。耐えろ!耐えるんだ、俺。

荷物を抱えているから、抵抗も出来ない。触られるがまま。



「そんなことねーけど?」

「変わってますね、ライ様」


うっとりとした顔のライ様に俺は軽く引いた。
って、何度も触るな!触るなら、女相手にしてくれよ。野郎のケツ、触ったってつまんないだろ。

頼む。早くどっか行ってくれ!!





その夜、仕事を終えた俺は荒れていた。
何本目かわからない缶ビールを飲み干して、テーブルに置く。



「もう何で俺に絡んでくんだよー!」

「お前の反応がいいからだろ」


隣にいるアンバーが冷静に返す。

ここはこの邸の兄弟達についてる執事達専用の棟。
普通の一戸建てより広くて、6人それぞれの部屋はちゃんとあるし、バスルームやキッチンまで設置されている。と言っても、ライ様の執事は現在誰もいないから、部屋は一つだけ空室だが。


そこのリビングで俺は、同い年のアンバーと飲んでいた。最近、ほぼ飲んでる気がする。たまにピアニーもいたりもするけど、今日はもう休んでる。



「アンバーだって、ライ様に気に入られてんだろ。他人のこと言えんのかよ!」

「こっちだって来るなって、目で訴えてるんだよ!なのに、来るんだぜ?“いいねー。その目、クる”って。マジで頭おかしい!あいつ…」

「俺は会う度にケツ、触られるよ。野郎のケツのどこがいいんだ?アンバー、何とかしてくれよ!」

「俺も無理だって。ライ様を上手く扱える執事がいたら一番だけど、そんな執事がいたら、とっくに俺達の悩みは解決してる」

「確かに。俺、ボルドーさんに新しい執事が見つかるまでライ様につけとか言われたけど、ハッキリと断った。俺にはライ様は扱えないって!てか、専属になったら、体がもたない…」

「別の意味でもたないだろうな。お前が専属になったその日に襲われるぞ。お前の反応次第ではベッドから出られないかもな」

「やめてくれよ。それ、一番やばいじゃん!別にライ様が男が好きなのは構わないけど、俺を巻き込まないで欲しい…」

「あの人、数え切れないくらい経験してるらしいぜ?男も女も」

「そんなに!?あー、だから、前に手を出された女の子達がライ様でおかしくなったのか」

「あれはメイド達だろ。俺が言ってるのは、ほら、前にライ様についてたやつがいただろ?あいつは女好きだったから、おかしくはなんなかったけど、拒否反応がすごくて、他に行ったんだろ?」

「いた、いた。メイド長が見かねてだから、よほど無理だったんだろうな。今は他で働いてんだろ?」

「らしいな。そこで恋人出来たとか聞いたな」

「ソイツ、仕事よりも恋愛したかっただけじゃないのか?」

「アガット。ひがむな」

「ひがんでねーよ!俺はもっと仕事に真剣に取り組めって言いたいんだ」

「お前、酔ってるのか判断つかないな」

「うちの家系、酒には強いから。アンバーはまだ一缶飲んだだけで、顔赤いじゃん」

「まだ飲み慣れてないからだよ。飲んでけば、強くなるかもな」

「そしたら、競争しようぜ?」

「受けて立ってやる」


その時、アンバーと笑っていたら、誰かが帰ってきた。



「アガくんとアンくん。おつかれっす!って、また二人で飲んでんすか?」

「メイズ、おつかれ」

「おつかれ…」


タスク様専属執事のメイズ。俺達より4つ下。ライ様やアリスさん達と同じ16歳。
てか、今の16歳組は皆、個性が強いよな…。



「どうしたんすか?アガくん。やけに疲れた顔してるすけど」

「ライ様に会ったんだよー」

「あー、もしかして、また触られたんすか?ケツなんて触られても減るもんじゃないから、差し出せばいいじゃないすか」

「減る!俺、毎回ライ様に触られる度に何か減ってる気がするし。お前、何で平気なんだよ…」

「ライ様を下手に怒らせるくらいなら、触らせてる方がマシすよ?」

「ああ、前にいたな。ライ様の機嫌を損ねて、半殺しにされたやつが」

「え?俺、初耳だよ。それ」


半殺し?
確かにライ様は怒らせない方がいいとは聞いたことはあったな。俺の前で怒ったのは、見たことないけどさ。



「確か、アガくんが出張でいない時すよ?ほら、○○ってヤツがいたじゃないすか?」

「○○か。俺が出張から帰ったら、誰かが辞めたって聞いただけだったけど、あれはアイツのことだったのか…」

「アイツも対象は女だったから、触られるの嫌だったみたいすね。だから、つい気持ち悪いって口にしたらしくて。そしたら、ライ様がブチ切れたっす。ソイツをボコボコにして、騒ぎを聞きつけた執事達が慌てて止めたらしいすよ」

「俺もその現場は見た。ライ様、マジでブチ切れててさ、そいつの顔面、血だらけだった上に号泣してたな。泣くくらいなら、余計なこと言わなきゃいいのに…。バカだよな、そいつ」

「アンくん、毒吐いてるっす」

「こんなの大した毒じゃねーよ」

「アンくん、嫌いな相手に対して、ものすごい毒を吐くじゃないっすか…」

「当たり前だろ。嫌いなんだから」


そんなことがあったのか。
ライ様、一度キレたら、なかなか収まらなさそうだよな。手もつけられなさそうな話だったし。お坊っちゃまも反抗期は、結構暴れてたからな。
二人共、旦那様の血だろう。

メイズが冷蔵庫から炭酸飲料を数本を抱えて、俺の向かい側に座る。



「そういえば、ピアさんとクロは?まだ帰ってないんすか?」

「二人はもう寝てる。明日、早いんだって」

「へぇ…。クロはともかくとして、ピアさんは珍しいすね」

「ピアニーは別の仕事が入ってるからな」

「なるほど…」


メイズが炭酸飲料を飲んでから、机の上に置いてあるつまみに手を出し、食べ始める。



「俺さ、お前を見習って、ライ様にケツを触られたら、“きゃっ、触られちゃったー”を考えてたんだけど、カルロ様に聞いたら、それは止めとけって止められたんだよ」

「あー、それはそうっすよ。アガくんがそれをやったら、ライ様に本気でベッドに連れ込まれるす。アガくんのことは完全に狙ってる感じだし」

「え、ちょっと待て。何だ、完全に狙ってるって」

「気づいてなかったんすか?ライ様、本気でアガくんのことを狙ってるんすよ?」

「知りたくなかった…。マジで?」

「気づいてないのは、お前本人くらいじゃないのか?」


マジかよ。
周りは皆気づいてるくらいに…。俺、鈍すぎた?



「うちの屋敷でライ様が虎視眈々と狙ってるのは、男はアガくんで、女はアリスっすよ?他は気分で遊んでる感じす」

「両方、ハルク様の担当だな」

「あと前に言ってたんすよ。ライ様が“俺、ハルクになりたい。そしたら、一気に二人を喰えるのにな…”って言ってたっす」


怖ぇ。二人を喰えるって、俺とアリスさんのことかよ。本当に喰うわけじゃないのはわかってるけど、マジでやばいだろ。ライ様の場合、別の意味の喰うなんだろうけどさ。

「ライ様に気をつけろよ?アガット」

「本気で気をつける。体は大事だし…」


もう少し体を鍛えるか。それとも護身術をもっと本格的に習ってみて…。
ライ様、あんな細身でも力は意外に強いからなー。



「アガットさ、ライ様だけじゃなくて、カルロ様にも気に入られてるよな?あの人、よくお前の話をしてくる」

「あー。それは昔、同じ幼稚園に通ってたから」

「友達だったんすか?」

「違う。あの人、今とは全然違ってたぞ。おとなしくて泣いてばっかりで、いじめられてたんだよ。それをよく助けただけ。でも、昔は可愛かったな。俺の後を追っかけてきてさ、つい弟みたいで面倒見てた」

「お前、弟がいるせいか、自分より弱い存在を見つけると俺が守らなきゃと思うところあるよな」

「アガくん、ヒーローみたいすね」

「ヒーローなんかじゃねーよ、俺は…」


ヒーローになれてたら、ここにいない。救えなかったから、俺はここにいるんだから。

















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