小ネタ集7
❰ミッドナイト❱会話文。
運動会の翌日の夜の深夜を回った頃、邸に一人の男が帰って来た。
漆黒を思わせる黒髪に、血の色のような赤い目に端正な顔。次男のリクと同じ顔だが、彼と比べると大分冷たい印象を与える。
更に顔を見ただけだと、子供が6人もいるようには見えないほど若く見えた。そのまったく変わらない容姿から、まるで悪魔のようだと言われたこともある。実際に敵と見なした相手には、容赦しないことも含まれているのだろう。
次男のリクと瓜二つなこの男こそ、この邸の当主である。
「お帰りなさいませ、旦那様。早速ですが、これが本日届いたものでございます」
用意されたものを見て、彼は呟く。
「……いつもより少し多いな」
「本日は特にハルク様宛が多かったですね」
「ハルクに?珍しい。一時期、ハルクにはまったく来なかったのにな。どういう風の吹き回しだ?」
「昨日は初等部で運動会があったそうで、そこでハルク様が活躍されたようです。ハルク様が出た競技、すべて結果を出されていますから」
「アイツは昔から運動が得意だからな。息子達の中では一番だろう」
「最近、成績の方も以前よりはかなり上がってこられていますね」
「一時期、本当にひどかったからな。あいつもやれば出来るんだろう。普段からもっと真面目にやればいいんだが…。飽きやすいからな」
「それは誰に似たんでしょうね?さて、話は戻ります。運動会の様子ですが、特に最後のリレーでの活躍が一番だったようで、最下位だった自チームを優勝にまで導いたそうです」
「そこまでやったのか?ハルクが」
「はい。ですが」
「何だ?」
「運動会に行った者から聞いた話では、ハルク様に向かって応援する声があり、それを聞いて、ハルク様が一気に追い上げたそうです」
「応援?まさか、あの例のメイドじゃないだろうな…」
「その通りでございます」
「またか…」
彼はため息をつく。
ここ一年間、ハルク絡みの話を聞くと、そのほとんどにその娘が関わっている。関わっていないことなどないくらい。普段からもそのメイドの傍には必ずハルクがいて、離れないということも。
今までメイドに近づくこともなかったハルクがわざわざ指名してまで世話係についたメイド。
彼女の写真を見て、彼は眉を潜める。
「この顔を見る度に“あの女”を思い出す。あの忌々しいあの女をな…」
「旦那様…」
「まあ、いい。そのまま放っておけ。今はな…」
そう言って、彼女の写真を破り捨てた。
「下がっていいぞ、ボルドー。もう休んでいい」
「ありがとうございます。それでは、失礼致します」
執事長は一礼をして、部屋から静かに出ていく。
彼の過去に関わった女性と似た顔を持つアリス。以前に、人を使って調べてみたが、二人に血縁はまったくない赤の他人。
それなのに、彼は何か気になってしまう。
(あの女と同じ顔を見ただけで、こんなにもイライラするとは…。
それだけまだ忘れられないということか。
まるで呪いでもかけられたみたいに…。いや、違うな。あの女は俺に呪いをかけたんだ!)
彼の脳裏には、彼に向かって微笑む女の姿。
女が彼の名前を呼ぼうと口を開きかけた、その時、
「やめろ!!」
彼は叫んでいた。
すると、それを打ち払うかのようにどこかへと電話をかけ始めた。
「……俺だ。今、どこにいる?ああ、家か。今からそっちに向かってもいいか。……ああ、30分後には着く。じゃあ、後で」
そう告げて、電話を切る。
彼は立ち上がり、置いていたコートを手に取り、歩きながら羽織る。ソファーにあった鞄を奪うように持つと、部屋から出て行った。
【END】
運動会の翌日の夜の深夜を回った頃、邸に一人の男が帰って来た。
漆黒を思わせる黒髪に、血の色のような赤い目に端正な顔。次男のリクと同じ顔だが、彼と比べると大分冷たい印象を与える。
更に顔を見ただけだと、子供が6人もいるようには見えないほど若く見えた。そのまったく変わらない容姿から、まるで悪魔のようだと言われたこともある。実際に敵と見なした相手には、容赦しないことも含まれているのだろう。
次男のリクと瓜二つなこの男こそ、この邸の当主である。
「お帰りなさいませ、旦那様。早速ですが、これが本日届いたものでございます」
用意されたものを見て、彼は呟く。
「……いつもより少し多いな」
「本日は特にハルク様宛が多かったですね」
「ハルクに?珍しい。一時期、ハルクにはまったく来なかったのにな。どういう風の吹き回しだ?」
「昨日は初等部で運動会があったそうで、そこでハルク様が活躍されたようです。ハルク様が出た競技、すべて結果を出されていますから」
「アイツは昔から運動が得意だからな。息子達の中では一番だろう」
「最近、成績の方も以前よりはかなり上がってこられていますね」
「一時期、本当にひどかったからな。あいつもやれば出来るんだろう。普段からもっと真面目にやればいいんだが…。飽きやすいからな」
「それは誰に似たんでしょうね?さて、話は戻ります。運動会の様子ですが、特に最後のリレーでの活躍が一番だったようで、最下位だった自チームを優勝にまで導いたそうです」
「そこまでやったのか?ハルクが」
「はい。ですが」
「何だ?」
「運動会に行った者から聞いた話では、ハルク様に向かって応援する声があり、それを聞いて、ハルク様が一気に追い上げたそうです」
「応援?まさか、あの例のメイドじゃないだろうな…」
「その通りでございます」
「またか…」
彼はため息をつく。
ここ一年間、ハルク絡みの話を聞くと、そのほとんどにその娘が関わっている。関わっていないことなどないくらい。普段からもそのメイドの傍には必ずハルクがいて、離れないということも。
今までメイドに近づくこともなかったハルクがわざわざ指名してまで世話係についたメイド。
彼女の写真を見て、彼は眉を潜める。
「この顔を見る度に“あの女”を思い出す。あの忌々しいあの女をな…」
「旦那様…」
「まあ、いい。そのまま放っておけ。今はな…」
そう言って、彼女の写真を破り捨てた。
「下がっていいぞ、ボルドー。もう休んでいい」
「ありがとうございます。それでは、失礼致します」
執事長は一礼をして、部屋から静かに出ていく。
彼の過去に関わった女性と似た顔を持つアリス。以前に、人を使って調べてみたが、二人に血縁はまったくない赤の他人。
それなのに、彼は何か気になってしまう。
(あの女と同じ顔を見ただけで、こんなにもイライラするとは…。
それだけまだ忘れられないということか。
まるで呪いでもかけられたみたいに…。いや、違うな。あの女は俺に呪いをかけたんだ!)
彼の脳裏には、彼に向かって微笑む女の姿。
女が彼の名前を呼ぼうと口を開きかけた、その時、
「やめろ!!」
彼は叫んでいた。
すると、それを打ち払うかのようにどこかへと電話をかけ始めた。
「……俺だ。今、どこにいる?ああ、家か。今からそっちに向かってもいいか。……ああ、30分後には着く。じゃあ、後で」
そう告げて、電話を切る。
彼は立ち上がり、置いていたコートを手に取り、歩きながら羽織る。ソファーにあった鞄を奪うように持つと、部屋から出て行った。
【END】
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