Blood




時を遡ること、一週間前。



「さて。別館の外掃除は終わったから、次は…」


………ん?
何か向こうの方で声が聞こえる。私は声のした方に向かってみる。と、そこには同期のショコラとブラッド様がいた。

しかも、抱き合っていた…。

ええええええええええぇぇぇぇぇ!!

慌てて叫びそうになる口を押えて、身を隠す。
というか、ブラッド様って、メイドの間では評判良くないのに。私もあの人は苦手。偉そうなあの言い方がカチンとくるし。リク様と同い年だけど、えらい違いだわ!リク様は、あんなにも出来た人なのに…。



「……」

「……」


気づくと、私の前にショコラがいた。
ええっ!?あれ。さっきまでブラッド様と一緒にいたはずなのに。それより私はどうしたら…。



「……アリス」

「わ、私………見テマセン!!」


見ないフリをしたが、もう態度がバレバレなんたろう。ショコラがクスクスと笑っていた。



「わかりやすいね、アリスは」

「いや、だって、まさか……うん」


言葉が出てこない。何て言えばいいのかもわからないし。私、だめじゃん!



「ブラッド様は?」

「もう行っちゃったよ」

「私に気づいたかな!?」

「ううん。気づいてない。ブラッド様からアリスは見えてなかったと思うから」


良かったわ。ブラッド様にもバレてたら、何を言われるかわからないし。ホッと胸を撫で下ろす。



「見られたのがアリスで良かったよ。これがブラッド様のことが好きなヘンナだったら、大騒動になっちゃうから」

「あー。ヘンナはブラッド様が好きだからね。しかも、同担拒否なタイプだし」

「そう。私達の関係は秘密だから」

「そ、そうだね…」


確かにバレたら、ショコラが色々と言われるだろう。先に手を出したのが向こうとわかっても。そこはちょっと思うことはある。



その夜。

それにしても、衝撃的過ぎる!ショコラがブラッド様と付き合っているだなんて…。私もリク様と……だめだめ!私は今の立場で充分なんだから。付き合えるなんて、考えてない。

でも、万が一、リク様と付き合えるならば、私はきっと───



「アリス。食べないの?」

「………………ふへぇっ?」


スマルトに話しかけられて、私は我に返る。向かい側に座るベゴニアが少し呆れていた。



「あんたは、またぼーっとして。リク様のことでも考えてたの?」

「違……くはないけど。そうじゃなくて…!私はショ……な、何でもない!」


危ない。危うくショコラの名前を出しそうになった。



「何かあった?」

「何も……ナイヨ?」

「絶対あったでしょ?あんた、すぐに顔に出るから」


うっ。何で私は嘘がつけないんだ!隠せないじゃないか。でも、ショコラのことは、スマルトにもベゴニアにも言えない。ショコラと約束したから!
それに秘密をペラペラと他の人に話したら、だめだって、ママに言われたし。

……ん?ママ??お母さんとそんな話、したっけ?

それはともかく、このままでは口を滑らせてしまうと考えた私は、まだ半分以上、残っていたご飯を一気にかけこむことにした。それら全てを平らげてから、席を立つ。



「私、そろそろ部屋に戻るね!明日はお坊っちゃまにお菓子を作らないといけないから、何にするか決めないと!では、お先に」

「アリス!」


食器のトレーを持って、その場を離れ、片してから、食堂を出た。

その日以降からショコラと話す機会が増えた。二人になると、よく惚気られた。



「ブラッド様、本当は優しいのよ」

「えー。さっき、トマトくんに怒鳴ってたけど」

「それはトマトくんが何かやってしまったのよ!」

「いやいや!私、スマルトと見てたけど、明らかにブラッド様がトマトくんがいるところにぶつかって行ったから!」

「本当に優しいところもあるから」

「…………………………信じられないよ!あの人を見下した態度なのに!」

「私もそう思ったわ。でも、本当なの」


ショコラがそう言うなら、信じてもいいかな。申し訳ないけど、私は好きになれない人だが、ショコラは違う。恋する乙女のショコラは、優しく笑うから。私は、そんなショコラの話をしばらく聞いていた。

お坊っちゃまの部屋に戻り、洗濯した服をたたみながら、しまっていた。それらを終えて、立ち上がると、お坊っちゃまはベッドの上で漫画を読んでいた。



「お坊っちゃま」

「んー?」


漫画を見たままだが、返事はしてくれた。お坊っちゃまもあんまり態度は良くないけど、ブラッド様ほどはひどくない。

それにしても、このお坊っちゃまに聞いてもいいか迷うな。だって、この調子じゃ初恋もまだそうだし。まあ、一応、聞いてみよう。



「今、好きな人っています?」

「……………はあああ!?」


読んでいた漫画から顔を上げて、私の方を見る。そんな驚くことかしら?



「やっぱりお坊っちゃまに聞くのは、まだ早かったですかね。色恋には疎そうですし」

「疎くねェし!オレだって、好き……気になるヤツはいるし」

「ええっ!?いるんですか!どんな子ですか!?」


私は、お坊っちゃまの寝転んでいるベッドに近づいた。お坊っちゃまの好きなタイプ、どんな子なのかすっごく気になる!キラキラと期待しながら、お坊っちゃまを見れば、恥ずかしいのか顔が真っ赤になっていた。



「………そ、れは……っ」

「それは!?(ФωФ)」

「~~~~~っ!…………………………やっぱ言いたくねェ!てか、認めたくねェし!!」

「えー。でも、気になる人なんでしょう?」

「オレのこと、ガキ扱いしてるから。たまに何でこんなに気になるのか、ワケわかんなくてイライラしたりすんだよ!」


ガキ扱い………ということは、年上か。やだー。お坊っちゃま、ませてる!メイドの中にいたりして?そんなわけないか!
ドルチェ家でもパーティーはよく開かれているから、そのうちにわかるわよね。その時は配膳しながら、周りに目を光らせなくちゃ!どんな人なのかしらね?



「お坊っちゃまの想い、いつかその人に届くといいですね!」

「………………………………絶対、届かねェのだけはわかった」

「何でですか!?」


それからお坊っちゃまに「漫画読みてェから、出てけ」と部屋から追い出された。お坊っちゃまのコイバナ、もっと聞きたかったのにー!



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