小ネタ集6
❰これはデートに入りますか?❱カルロ視点。
休日。
車を走らせて、やってきたのは遊園地。
ここは男だけで遊ぶとこじゃないよな。しかも、ナンパ目的って聞いた。別にナンパなんかしなくても女に困ってない。
マキに頼まれたから、仕方なく来たけど。
はー。面倒だ。適当に時間つぶしたら、途中で帰ろう。
「おっせーよ!カルロ」
「ごめん。ちょっと渋滞しててさ。……ん?」
気が向かない誘いに渋々向かうと、そこにはアリスがいた。目が合ったが、アリスはすぐに目を逸らし、一緒にいる友達の背に隠れてしまった。
「この子達と一緒に回ることになったんだ。いいだろ?」
「別に構わないけど」
話を聞くと、待っているうちに女の子達と仲良くなり、園内を一緒に回ることになったらしい。が、明らかにアリスだけは不機嫌な顔をしていた。アリスは嫌だったのだろう。でも、皆が喜んでいるから言い出さない。
「じゃあ、行こうか?」
「「「はーい!」」」
園内に入って、一緒に来た友達が男達と楽しそうに話しているのに対して、アリスだけは渋々後ろからついてく感じだ。
ここは俺もさっさと帰りたいから、悪いけどアリスを利用させてもらうかな。
「これ、別にみんなで回る必要はないんだよな?」
「まあ、そうだけど。お前、一緒に回りたい子でもいるの?」
「そうだね」
そう告げると、一番後ろにいるアリスに目を向けて、彼女の方に向かう。
「ということで俺、この子と回るから。じゃあな」
そう言って、アリスの手を引いて、走り出した。
……………
…………
………
……
…
「ここまで来れば大丈夫かな」
皆から見えなくなったところでようやく止まり、アリスの手を離した。
「私は助かりましたけど、カルロ様は良かったんですか?」
「俺?俺も気は向かなかったからねー。仲良いヤツに頼まれて仕方なく来ただけだし。どこかでフケようと思っていたとこだったから、さっさと離れることが出来て助かったよ」
当初の目的だった女の子達と回れるんだから、もう一緒にいる必要はないだろ。
俺は客寄せパンダみたいなもんだったし。今回は必要なかったけど。
「それにしてもビックリしたよ。待ち合わせ場所に君の姿があるからさ」
「私もですよ。車で出かけたのは見かけましたけど、まさか同じ場所とは思わなかったですし」
本当は偶然会うのならリクが良かったと、アリスの顔に書いていた。アリスは本当に正直だ。俺のことにはまったく興味がない。うちの兄弟、6人いてもリクにしか好意を寄せていない。それ以外には対応が普通だ。いや、ハルクには容赦ないかな。
「リクは遊園地に来ないと思うよ?あまり好きじゃないからね」
「え?」
「知りたかったら、本人に聞いてみるといいよ」
俺もリクも遊園地は好きじゃない。
昔、アレに無理矢理連れられて、楽しくもないのに写真を撮るから笑えと言われても、リクと二人どうしていいかわからなくて顔を見合わせた。
それなのに男から連絡が来ると、俺達を置いてさっさといなくなった。
そんな思い出のせいで遊園地は好きじゃなくなった。
「さて、これからどうする?俺はここから出ようとは思ってるけど」
「え、出ちゃうんですか…?」
「俺もあまりいい印象ないからね、遊園地は…」
その後にも楽しかった思い出はない。大人になってからは悲しいことはなかったが、楽しかったこともないし。
「私、久しぶりに遊園地に来たから遊びたいです。迷惑じゃなければ、一緒に回りませんか?」
「俺と?」
まさか、俺と一緒に回りたいなんて言われるとは思っていなかった。正直、帰るだろうと思っていた。
「1人で回ったってつまらないですし。せっかく遊園地に来たんですから、楽しんで帰りたいです」
確かに遊園地に来て、笑っていない人間なんてほとんどいない。
…俺も笑えるかな。アリスの言うように楽しめるだろうか?
「……そうだね。君のいう通りかもしれないね」
「ということは?」
「お付き合いしますよ?お姫さま」
君はこの俺も変えてくれる?
他人と深く関われないリク、女は皆同じと認識出来ないライ、リコリスとハルクにしか興味がないタスク、恋愛感情が欠落してたハルク、他人が怖くて近寄れないドラ。
この兄弟達を変えて行った君は…。
それからアリスと遊園地内を回った。最初は特に期待していなかった。
アリスはただ一緒にアトラクションに乗るだけで、他には何もしない。求めても来ない。全然俺を見て、ポーッとなったりしない。愛の言葉を囁いてとも、抱いて欲しいとも言わない。
「カルロ様、次はあれに乗りましょう!」
そう言って、俺の腕を引っ張る。
そのアトラクションが終わるとまた次に行こうと声をかけるだけだ。園内を回っている中でアリスは、ちょっとしたことに笑い、驚き、泣く、怒るなど色々な表情を見せる。それを見ていたら、俺はいつしか笑えるようになっていた。
数時間後。
園内のアトラクションをほぼ乗り回り、空いているベンチに座っていた。
「こんなに遊んだのは子供の時以来かな」
「そうなんですか?」
「うん。遊園地はたまに来ていたけど、俺といて、ただ遊ぶだけの娘なんていなかったからね。アリスは俺のことは眼中にないくらい楽しんでたし」
「すみませんね。子供で…。眼中にないのはそうですけど、カルロ様だって楽しんでたじゃないですか!」
「そうだね。こんな朝からアトラクションにずっと乗り回ったのは初めてだったから。こんなに楽しかったんだね。ありがとう。アリス」
「いえ…」
俺が礼を言うと、アリスは少し驚いたのか変な顔をしていた。その顔に思わず笑いそうになったけど。
すると、アリスが突然何かを見つけたらしく、声を上げた。
「あのキャラクター、お坊っちゃまみたいですね!」
「あのハリネズミがハルク?」
遊園地のキャラクターのうちの一匹であるハリネズミを見て、ハルクに似ていると言い出した。どうやったら、あのキャラクターがハルクに結びつくんだ。その発想に思わず吹き出す。
「はい……って、そんなに笑うところじゃないですよ」
「だってさ、あのハリネズミを見て、ハルクだって君が言うから…。面白くて!やばい。笑いが止まらない……ははっ」
彼女くらいだろう。あのハルクを見て、ハリネズミだと言うのは。それがおかしくて、笑いがおさまらない。
俺、まだこんなに笑えたのか…。
「あれをおみやげにしようかなと思うんですが、どうですか?お坊っちゃまの部屋は、意外に殺風景ですし。でも、男の子にぬいぐるみは変ですかね?」
「いいんじゃない?それにハルクは君がくれるなら、何でも喜ぶと思うよ」
数ヶ月前まであんなに暴れ回っていて、手がつけられなかったのに、今では嘘みたいにおとなしくなってしまったハルク。それを変えたのは、この娘だ。
「よし!それなら挑戦してきますね!」
「え?」
「カルロ様はそこにいてください。ちょっとやってきます!」
そう言うと、アリスはハリネズミのぬいぐるみを取るためにゲームコーナーに並び始めた。俺をベンチに置いたまま。
女の子は大概俺から離れないのに、アリスは平気で俺から離れる。ゲームもそうだ。俺にやってと頼めば簡単なのに、頼らないで自分の力で取ろうとしている。本当に変わった娘だ。
たまに一人でベンチにいる俺に声をかけてくる女が何人かいたが、すべて無視して、アリスを見ていた。
しばらくして、アリスの番になり、店員から説明を受けて、ゲームにチャレンジするアリス。
見事ゲームを成功させて、ハリネズミのぬいぐるみをゲットした。それを抱き、その場から俺に手を振るアリス。それを見て、つい微笑んだ。
「見てください!取れました!!」
アリスは獲得したハリネズミのぬいぐるみを抱えながら、俺のいるベンチに戻ってくる。その大きさに俺は少し驚いた。
「随分と大きいね…」
「この特大サイズはこのゲームでしかもらえないみたいです!これをお坊っちゃまに渡すのが楽しみです」
嬉しそうに話す彼女。少しハルクが羨ましく思えた。こうして、離れていても、アリスに思われていることが。
陽が沈み、暗くなってきた。すると、アリスが寂しそうに告げる。
「そろそろ帰りましょうか?」
「あれ。パレードは見ないの?」
確かここの遊園地では、7時からパレードがやると聞いていた。結構それが目的で来るやつも多いと。
「はい。パレードを見て帰ると、電車が混んじゃいますから、今のうちに…」
「俺、車で来てるから平気だよ。帰るところは同じなんだし。送ってあげるよ?」
「いいんですか!?」
アリスの反応に本当はパレードが見たかったんだなと思った。だけど、パレードを見てしまうとぬいぐるみが潰れてしまうから、我慢しようとしたのか。そもそも電車で帰らすつもりはなかったんだけどな。こういうところは変に遠慮するからな、この子は…。
「だけど、パレードまで見たら、遅くなっちゃいますよ?」
「俺は門限とかないからね。そっちはあるの?」
「一応、今日は遅くなりそうだと思って、届は出してます」
「なら、見て行こうか。その前に食事でもする?パレードまでは時間まだあるし。何でも奢ってあげるよ。遊園地、楽しかったし。そのお礼」
「ありがとうございます!さ、何を食べましょうか!?」
こういう時は素直なんだな。普段ももう少し素直ならいいのに。
それから二人でレストランで食事してから、パレードがよく見える場所を見つけて、一緒にパレードを見た。
「キレイですね!」
「……うん、そうだね」
パレードを見ながら、アリスはとても嬉しそうだった。俺はそんなアリスを見ていた。パレードよりもアリスを見ている方が楽しかったから。
遊園地からの帰り道。車で屋敷まで運転していた。隣に座っているアリスは走らせると、すぐに寝てしまった。ハリネズミのぬいぐるみを抱きしめながら。
その姿に少し呆れた。邸ではいつも警戒心が強いのに、ここまで無防備にされるとは思わなかった。
今、運転しているから流石に手は出さないけど。
「…もう少し警戒してくれよ」
一人呟いた声に返事は当然、返って来ない。
誰かに執着することなんてなかった。
付き合っても好きだという感情もわかなくて、誰と付き合ってもわからないまま。それは体を重ねても同じで。俺はこの先も誰かを好きになることなんてないんだろうと諦めていた。
それなのに…。
【END】
休日。
車を走らせて、やってきたのは遊園地。
ここは男だけで遊ぶとこじゃないよな。しかも、ナンパ目的って聞いた。別にナンパなんかしなくても女に困ってない。
マキに頼まれたから、仕方なく来たけど。
はー。面倒だ。適当に時間つぶしたら、途中で帰ろう。
「おっせーよ!カルロ」
「ごめん。ちょっと渋滞しててさ。……ん?」
気が向かない誘いに渋々向かうと、そこにはアリスがいた。目が合ったが、アリスはすぐに目を逸らし、一緒にいる友達の背に隠れてしまった。
「この子達と一緒に回ることになったんだ。いいだろ?」
「別に構わないけど」
話を聞くと、待っているうちに女の子達と仲良くなり、園内を一緒に回ることになったらしい。が、明らかにアリスだけは不機嫌な顔をしていた。アリスは嫌だったのだろう。でも、皆が喜んでいるから言い出さない。
「じゃあ、行こうか?」
「「「はーい!」」」
園内に入って、一緒に来た友達が男達と楽しそうに話しているのに対して、アリスだけは渋々後ろからついてく感じだ。
ここは俺もさっさと帰りたいから、悪いけどアリスを利用させてもらうかな。
「これ、別にみんなで回る必要はないんだよな?」
「まあ、そうだけど。お前、一緒に回りたい子でもいるの?」
「そうだね」
そう告げると、一番後ろにいるアリスに目を向けて、彼女の方に向かう。
「ということで俺、この子と回るから。じゃあな」
そう言って、アリスの手を引いて、走り出した。
……………
…………
………
……
…
「ここまで来れば大丈夫かな」
皆から見えなくなったところでようやく止まり、アリスの手を離した。
「私は助かりましたけど、カルロ様は良かったんですか?」
「俺?俺も気は向かなかったからねー。仲良いヤツに頼まれて仕方なく来ただけだし。どこかでフケようと思っていたとこだったから、さっさと離れることが出来て助かったよ」
当初の目的だった女の子達と回れるんだから、もう一緒にいる必要はないだろ。
俺は客寄せパンダみたいなもんだったし。今回は必要なかったけど。
「それにしてもビックリしたよ。待ち合わせ場所に君の姿があるからさ」
「私もですよ。車で出かけたのは見かけましたけど、まさか同じ場所とは思わなかったですし」
本当は偶然会うのならリクが良かったと、アリスの顔に書いていた。アリスは本当に正直だ。俺のことにはまったく興味がない。うちの兄弟、6人いてもリクにしか好意を寄せていない。それ以外には対応が普通だ。いや、ハルクには容赦ないかな。
「リクは遊園地に来ないと思うよ?あまり好きじゃないからね」
「え?」
「知りたかったら、本人に聞いてみるといいよ」
俺もリクも遊園地は好きじゃない。
昔、アレに無理矢理連れられて、楽しくもないのに写真を撮るから笑えと言われても、リクと二人どうしていいかわからなくて顔を見合わせた。
それなのに男から連絡が来ると、俺達を置いてさっさといなくなった。
そんな思い出のせいで遊園地は好きじゃなくなった。
「さて、これからどうする?俺はここから出ようとは思ってるけど」
「え、出ちゃうんですか…?」
「俺もあまりいい印象ないからね、遊園地は…」
その後にも楽しかった思い出はない。大人になってからは悲しいことはなかったが、楽しかったこともないし。
「私、久しぶりに遊園地に来たから遊びたいです。迷惑じゃなければ、一緒に回りませんか?」
「俺と?」
まさか、俺と一緒に回りたいなんて言われるとは思っていなかった。正直、帰るだろうと思っていた。
「1人で回ったってつまらないですし。せっかく遊園地に来たんですから、楽しんで帰りたいです」
確かに遊園地に来て、笑っていない人間なんてほとんどいない。
…俺も笑えるかな。アリスの言うように楽しめるだろうか?
「……そうだね。君のいう通りかもしれないね」
「ということは?」
「お付き合いしますよ?お姫さま」
君はこの俺も変えてくれる?
他人と深く関われないリク、女は皆同じと認識出来ないライ、リコリスとハルクにしか興味がないタスク、恋愛感情が欠落してたハルク、他人が怖くて近寄れないドラ。
この兄弟達を変えて行った君は…。
それからアリスと遊園地内を回った。最初は特に期待していなかった。
アリスはただ一緒にアトラクションに乗るだけで、他には何もしない。求めても来ない。全然俺を見て、ポーッとなったりしない。愛の言葉を囁いてとも、抱いて欲しいとも言わない。
「カルロ様、次はあれに乗りましょう!」
そう言って、俺の腕を引っ張る。
そのアトラクションが終わるとまた次に行こうと声をかけるだけだ。園内を回っている中でアリスは、ちょっとしたことに笑い、驚き、泣く、怒るなど色々な表情を見せる。それを見ていたら、俺はいつしか笑えるようになっていた。
数時間後。
園内のアトラクションをほぼ乗り回り、空いているベンチに座っていた。
「こんなに遊んだのは子供の時以来かな」
「そうなんですか?」
「うん。遊園地はたまに来ていたけど、俺といて、ただ遊ぶだけの娘なんていなかったからね。アリスは俺のことは眼中にないくらい楽しんでたし」
「すみませんね。子供で…。眼中にないのはそうですけど、カルロ様だって楽しんでたじゃないですか!」
「そうだね。こんな朝からアトラクションにずっと乗り回ったのは初めてだったから。こんなに楽しかったんだね。ありがとう。アリス」
「いえ…」
俺が礼を言うと、アリスは少し驚いたのか変な顔をしていた。その顔に思わず笑いそうになったけど。
すると、アリスが突然何かを見つけたらしく、声を上げた。
「あのキャラクター、お坊っちゃまみたいですね!」
「あのハリネズミがハルク?」
遊園地のキャラクターのうちの一匹であるハリネズミを見て、ハルクに似ていると言い出した。どうやったら、あのキャラクターがハルクに結びつくんだ。その発想に思わず吹き出す。
「はい……って、そんなに笑うところじゃないですよ」
「だってさ、あのハリネズミを見て、ハルクだって君が言うから…。面白くて!やばい。笑いが止まらない……ははっ」
彼女くらいだろう。あのハルクを見て、ハリネズミだと言うのは。それがおかしくて、笑いがおさまらない。
俺、まだこんなに笑えたのか…。
「あれをおみやげにしようかなと思うんですが、どうですか?お坊っちゃまの部屋は、意外に殺風景ですし。でも、男の子にぬいぐるみは変ですかね?」
「いいんじゃない?それにハルクは君がくれるなら、何でも喜ぶと思うよ」
数ヶ月前まであんなに暴れ回っていて、手がつけられなかったのに、今では嘘みたいにおとなしくなってしまったハルク。それを変えたのは、この娘だ。
「よし!それなら挑戦してきますね!」
「え?」
「カルロ様はそこにいてください。ちょっとやってきます!」
そう言うと、アリスはハリネズミのぬいぐるみを取るためにゲームコーナーに並び始めた。俺をベンチに置いたまま。
女の子は大概俺から離れないのに、アリスは平気で俺から離れる。ゲームもそうだ。俺にやってと頼めば簡単なのに、頼らないで自分の力で取ろうとしている。本当に変わった娘だ。
たまに一人でベンチにいる俺に声をかけてくる女が何人かいたが、すべて無視して、アリスを見ていた。
しばらくして、アリスの番になり、店員から説明を受けて、ゲームにチャレンジするアリス。
見事ゲームを成功させて、ハリネズミのぬいぐるみをゲットした。それを抱き、その場から俺に手を振るアリス。それを見て、つい微笑んだ。
「見てください!取れました!!」
アリスは獲得したハリネズミのぬいぐるみを抱えながら、俺のいるベンチに戻ってくる。その大きさに俺は少し驚いた。
「随分と大きいね…」
「この特大サイズはこのゲームでしかもらえないみたいです!これをお坊っちゃまに渡すのが楽しみです」
嬉しそうに話す彼女。少しハルクが羨ましく思えた。こうして、離れていても、アリスに思われていることが。
陽が沈み、暗くなってきた。すると、アリスが寂しそうに告げる。
「そろそろ帰りましょうか?」
「あれ。パレードは見ないの?」
確かここの遊園地では、7時からパレードがやると聞いていた。結構それが目的で来るやつも多いと。
「はい。パレードを見て帰ると、電車が混んじゃいますから、今のうちに…」
「俺、車で来てるから平気だよ。帰るところは同じなんだし。送ってあげるよ?」
「いいんですか!?」
アリスの反応に本当はパレードが見たかったんだなと思った。だけど、パレードを見てしまうとぬいぐるみが潰れてしまうから、我慢しようとしたのか。そもそも電車で帰らすつもりはなかったんだけどな。こういうところは変に遠慮するからな、この子は…。
「だけど、パレードまで見たら、遅くなっちゃいますよ?」
「俺は門限とかないからね。そっちはあるの?」
「一応、今日は遅くなりそうだと思って、届は出してます」
「なら、見て行こうか。その前に食事でもする?パレードまでは時間まだあるし。何でも奢ってあげるよ。遊園地、楽しかったし。そのお礼」
「ありがとうございます!さ、何を食べましょうか!?」
こういう時は素直なんだな。普段ももう少し素直ならいいのに。
それから二人でレストランで食事してから、パレードがよく見える場所を見つけて、一緒にパレードを見た。
「キレイですね!」
「……うん、そうだね」
パレードを見ながら、アリスはとても嬉しそうだった。俺はそんなアリスを見ていた。パレードよりもアリスを見ている方が楽しかったから。
遊園地からの帰り道。車で屋敷まで運転していた。隣に座っているアリスは走らせると、すぐに寝てしまった。ハリネズミのぬいぐるみを抱きしめながら。
その姿に少し呆れた。邸ではいつも警戒心が強いのに、ここまで無防備にされるとは思わなかった。
今、運転しているから流石に手は出さないけど。
「…もう少し警戒してくれよ」
一人呟いた声に返事は当然、返って来ない。
誰かに執着することなんてなかった。
付き合っても好きだという感情もわかなくて、誰と付き合ってもわからないまま。それは体を重ねても同じで。俺はこの先も誰かを好きになることなんてないんだろうと諦めていた。
それなのに…。
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