小ネタ集6
❰ハリネズミ❱
カルロ様の車に乗せてもらい、屋敷の手前で降ろしてもらった。だって、誰かに見られて、親衛隊の耳に入ったら、面倒くさいことになってしまうから。テラコッタに知られたら、何を言われるか…。
そこから歩いて屋敷に帰るが、自分の部屋には行かず、真っ直ぐにお坊っちゃまの部屋に向かった。
早速、ノックすると返事があった。
「良かった。部屋にいたんですね!」
「……何だよ、今日は休みだろ」
うーん、言葉にトゲがある。これはまだ怒っているな…。私は持っていたぬいぐるみを差し出す。
「これ、おみやげです」
「ねずみのぬいぐるみ?何でオレに…」
「ねずみじゃないです!ハリネズミですよ」
「似たようなもんだろ」
「お坊っちゃまにそっくりだと思いまして、これを取るためにゲームに挑戦して取ったんですよ!?可愛いですよね?これ」
「……似てねェし、可愛くねェ」
「またまたー。ツンツンしたところなんて、そっくりじゃないですか!」
「……」
無言だよ。もしかして、怒ってるのかな。
カルロ様め。お坊っちゃま、私があげたら何でも喜ぶって言ったのは嘘だったの!?またからかわれたかな。
でも、嘘を言ってるようにも見えなかったけど。
「気に入らないなら、いいです。私の部屋に持ち帰りますから」
「オレ、いらないなんて言ってねェし」
ぬいぐるみを取り上げようとしたら、取られまいと抵抗された。あれ??
「お坊っちゃま。文句ばっかりなので、いらないかと思いまして…」
「オレのために取ってきたんだろ?仕方ないからもらってやる」
そう言ってるわりには、喜んでるような?
ま、いいか。ぬいぐるみは受け取ってくれたんだし。いつの間にか機嫌も直ってるし。
「どうぞ。それじゃあ、私はこれで」
「もう帰んの?」
「はい。それを渡したかっただけなので。おやすみなさい。また明日」
そう言って、部屋を出ようとしたのだが、服の裾を掴まれた。
「お坊っちゃま、何か?」
「もう少し、ここにいろ」
「え?そろそろ就寝時間…」
「わかってるけど、それまでいろよ!」
もしかして、私いなくて寂しかったのかな?…そんなわけないか。
「わかりました。お坊っちゃまが眠るまで、傍にいます」
そう言うと、お坊っちゃまは嬉しそうに笑った。
お坊っちゃまが眠るまで、遊園地でのことを話した。流石にカルロ様と回ったことは言わなかったけど。
お坊っちゃまも遊園地は小さい頃に一度だけ行ったことがあると話していたが、あまり記憶にないらしい。私の話を聞いて、興味を持ったみたいで「今度連れて行け!」っとせがまれた。私と行くより友達と行ったらどうですかと言っても、首を縦に振らない。友達と行く方が楽しいのに…。
そうしているうちにお坊っちゃまは眠くなってしまったのか、眠っていた。
「…おやすみなさい。いい夢を」
私は音を立てないように静かに部屋を出た。すると、丁度お風呂上がりのカルロ様と会った。
「アリス。もしかして、今までハルクの部屋にいたの?」
「はい。いました…」
「ぬいぐるみ、喜んでたでしょ?」
「反応が微妙だったのでいらなかったかなと思ったら、いらないとは言ってないって言われました。今はお坊っちゃまの隣で一緒に寝てます」
「あいつ、素直じゃない時あるからね。本当は嬉しいくせに…」
「お坊っちゃまらしいですけど。あ、そろそろ向こうに戻らないと。それでは失礼します。おやすみなさい、カルロ様」
「おやすみ」
一礼して、カルロ様の前から立ち去る。さてと、戻ったら、急いでお風呂に入らないと。こんな時間だし、早くしないとまずいわ。
この時の私は、自分のことでまったく気づいていなかった。カルロ様がずっと私を見ていたことに…。
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