小ネタ集4
翌日。
どうやらオレは、あのまま泣いて寝ていたらしい。パジャマに着替えてあったから、多分アガットが着替えさせてくれたんだろう。
起きる気力はない。
いくら起きても、どうせアリスは来ない。わかってるんだ。
もう諦めよう。何でもっと早く諦めなかったんだろう。
「おはようございます」
「おはようございま……えっ?」
アガットが誰かと挨拶してる声がした。
どうせまた違うメイドが来たんだろう。オレはそのまま布団にもぐったまま、天井を見上げる。学校も行くのも面倒。今日はもう休もう。
「お坊っちゃまはまだ寝てるんですか?まったく…」
「……」
「起きてください!いつまで寝てるんですか、お坊っちゃま!!」
「うるせェな。放っておけよ!」
すると、かけてあった布団を引き剥がされた。どこのメイドだよ。アリスみたいなことしやがって!
「おはようございます!お坊っちゃま」
「……えっ」
オレの布団を手にしながら立っていたのは、アリスだった。
「な、んで…」
「何でとはなんですか?世話係だから、来たんですよ?」
「だって、だって…!ずっと来てくれなかったじゃん」
「そうですね。色々あって、こちらには来れませんでしたけど、また来ることになりました」
やっと来てくれた。
待ち望んでいたアリスが部屋に来てくれた。
だが、アリスは何かを思い出したのか、急に表情を消して、オレに話しかける。
「…ああ、お坊っちゃまは私と話したくなかったんでしたね。申し訳ありません。勝手なことしました。指示があるまでは黙っていますね。失礼致しました」
そう言い、アリスが布団を再びオレにかけた。
違う!話したくないんじゃない。
「アリス!」
「…何でしょうか?お坊っちゃま」
「何でそんなに義務的なの?」
以前のように笑えよ。何でそんなに機械みたいに表情を変えねェんだよ。
「今までが馴れ馴れしかったから、接し方を改めたんですよ。これからは必要な時以外は控えていますから」
「やめろよ。前のようにしろよ!アリス。何で…!」
「私とお坊っちゃまでは立場が違います。わかってください。私が嫌でしたら、アガットさんに交代しますから。今呼んで来ます」
そう言って、オレから離れてく。
嫌だ。嫌だ!戻って来てくれたのに、オレが待っていたのは、こんなアリスじゃねェよ。
“お坊っちゃま”
オレに向けてくれたあの笑顔が見たいんだ!
ベッドから下りて、背を向けて歩いてくアリスのスカートにしがみつく。
「…めん」
「え?」
「……ずっと無視して、ごめんなさい…!」
許してくれるまで何度だって謝るから。だから。いつものアリスに戻って。
「ごめんなさい!アリス。もうお菓子作れって、ワガママ言わねェから。前みたいなアリスに戻ってよ!」
「……」
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
「……もう謝らなくていいですよ。気にしてませんから」
「ほ、本当に…?まだ怒ってんじゃねェの?」
「何度も謝ってくれたじゃないですか。だから、もう泣かないでください」
アリスがこちらに振り返り、オレの目線に合わせるようにしゃがみ、持っていたハンカチでオレの顔を拭う。
そこにあったのは、先程の機械みたいな表情ではなく、いつもの笑顔をしたアリスだった。
「明日も来る?来てくれる?」
「今日始まったばかりなのに、もう明日ですか?」
「で、明日は来んの!?」
「今日から復帰しましたから。明日以降も来ますよ」
明日以降も来てくれる。オレは嬉しくてアリスに抱きついた。
「ちょっ…お坊っちゃま。本当にどうしたんですか?泣いたり、笑ったりと忙しいですね」
「……へへっ」
アリスとまた一緒にいられる。それが嬉しかったんだ。
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