小ネタ集4
❰君が泣いた夜❱ハルク視点。
タスク兄やドラと談話室にいたら、ライが「珍しいものを見た」と言いながら入って来た。
「リク兄がメイドを運んでった」
「リク兄が?」
「カルロじゃなくて?」
「見間違いじゃね?」
オレ達はそう思っていた。
リク兄がわざわざメイドを運ぶなんてことはしない。カルロやライみたいにメイドに手を出すことなんてしないはずだし。もし、具合の悪いメイドを見つけても、自分の執事か他の使用人の誰かに指示して運ばせるはずだ。
「普通はそう思うじゃん?マジでリク兄だったんだって!普段冷静なリク兄が珍しく必死な顔してさ」
「リク兄がメイド相手にそんなことする?」
「そのメイドは?」
「ほら!若くて髪が長くて、胸がそこそこあって…」
「いや、そんなのここにいるメイドは、ほとんどがそんな感じじゃん…」
ライの話に付き合ってられねェと呆れていたら、ライがオレを見た。
「わかった!お前の世話係だ!」
「えっ…」
ライにそう言われて、言葉を失った。
何でリク兄がわざわざアリスを運んだの?アイツがリク兄を憧れているのは知ってる。でも、リク兄からはアイツのことなんて聞いたことねェ。
何も言えないままでいたら、代わりにタスク兄が聞いていた。
「何でそのメイドはリク兄に運ばれたの?」
「近くにいた使用人に聞いたら、そのメイドがふらついて、荷物落としたらしくて、たまたまそこにリク兄がいて、そいつに声かけたんだと」
「リク兄なら声はかけそうだね。ドラなら素通りだけど」
「うるせ。自分だって、機嫌悪い時は声かけねーくせに」
「それでリク兄は?」
「そいつが大丈夫じゃねーのに大丈夫だって言い張って、無理して荷物を運ぼうとしたのを見かねたリク兄が抱き上げて行ったんだって」
アリスがふらついてた?何で?
いつから具合悪かったの?わかんねェ。
オレ、アリスとずっと話してない…。声かけても無視してた。
「アリスはどこ?」
「多分、リク兄の部屋。そこで休ませて、医者を呼ぶみてー」
行かなきゃ。
イスから下りて、談話室を出ようとした。が。
「ストップ」
いきなりカルロに止められた。
「なんだよ!カルロ!!離せ!」
「お前に行く権利はないよ」
「ある!だから離せってば!」
「アリスのこと、ずっと無視してたのに?」
「そ、れは…!」
だって、アリスが作ってくれないから。
お菓子食べたいって何度も言ってるのに、全然作ってくれないから、無視して、わざと困らせた。
「このままアリスは休ませるから、お前は来なくていいよ。いても邪魔なだけだ」
「邪魔…」
オレがいても仕方ねェのはわかってる。わかってるけど!
「あとアリスが治ってもお前のところにはしばらくは行かせない。世話係は別のメイドにさせる」
「何で!」
嫌だ。
アリス以外のメイドなんかいらない!
「アリスとはしばらく接触禁止」
「ヤダ!」
「そのアリスを無視してたのは誰だ?お前だろ」
「今謝る!謝るから部屋に行かせて!」
「だめだ。自分がしたことをよく反省しろ」
「……わかった」
俯いて、拳を握る。こうなったら、勝手に行ってやる!カルロの隙をついて、駆け出した。
「ハルク!」
呼び止める声がするが、振り返らない。目指すはリク兄の部屋。
リク兄の部屋に向かっていると、ドアの前でリク兄とリク兄の執事がいた。きっと中にアリスがいる。
「リク兄!」
「ハルク」
「アリスいるよね!?部屋に入れて!」
ドアを開けて入ろうとした。でも、リク兄が手で塞ぐ。
「手をどかしてよ!入れない!!」
「カルロ兄さんに言われなかったの?」
「言われた。でも、ちゃんと謝る!謝るから、アリスに会わせて!!」
「どうして、ハルクにアリスさんを会わせないのかわかってないみたいだね?」
「無視したからでしょ!?わかってる!わかってるから!!」
「まったく反省してないのがわかったよ。ハルクにはアリスさんは会わせない」
リク兄までカルロと同じこと言う!何で!?会わせてよ!
「ねぇ、開けて!開けてよ!リク兄!」
「部屋に戻って、ハルク」
「会わせてくれるまで帰らない!」
「……クロッカス」
リク兄の執事が「失礼します、ハルク様」と言ってオレを持ち上げた。
「離せ!離せよ!」
オレが必死に抵抗しても、全然効かねェ。平然とした顔でオレを持ち、どんどんリク兄の部屋から離れてく。嫌だ!アリスに会わせろ!
「オレ、アリスに謝る!謝るから!会わせて!リク兄!!」
「静かにして。ハルク。彼女、今薬飲んで寝たところなんだよ」
いつも優しいリク兄が静かに怒っていた。あまり怒った顔なんてしない。なのに、今はオレに対して、かなり怒っている。
「うっ…何で……会わせてくんねェの!意地悪してんの、そっちじゃん!…うぅっ!」
「そのうち会わせてあげるから」
「ヤダ!そのうちじゃなくて、今、会わせてよ…」
ポロポロと涙が溢れた。悔しくて、悲しくて。
リク兄の執事に運ばれて、自分の部屋に戻された。部屋にはアガットがいて、オレをアガットに預けるとソイツは去って行った。
「お坊っちゃま」
「アリスに会わせてくんない…」
「え?」
「オレ、謝るからって言ってんのに…!カルロもリク兄も会わせないって意地悪する!アリスに会わせてって何度も言ってんのに!ひっく…」
オレはそこで大泣きした。
泣きわめくオレにアガットは、優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫です。アリスさんにはそのうち会わせてくれますから…」
「ヤダ!今、会いたい!…今、会いたい!!アリス…」
その後のことはよく覚えてない。ただ泣き疲れてそのまま寝てしまったんだと思う。
リク兄の部屋から、使用人の屋敷に戻ったとアガットから聞いた。だから、そっちにも行ってみた。だけど、会わせるなと言われているのか、そっちでも会わせてもらえない。
しばらくしてから、アリスが仕事に復帰したらしい。でも、オレの部屋には来てくれない。カルロ達が来させないように指示してるんだろう。一週間、二週間、三週間が経ってもアリスは来ない。
毎日違う、知らないメイドが来る。
「アガット…」
「お坊っちゃま、どうしました?」
「アリス、また来てくれるよね?」
このまま本当に来てくれないのかな。オレがずっと無視したから。何であんなことしたんだろう。こんなことになるなら、しなきゃ良かった…。
「そのうち来てくれますよ」
「そのうちって、いつ?明日?明後日?」
「それは…」
「いつ、アリスは来てくれんの…。だって、もう治ってるんでしょ?何で来てくれねェの?」
「……」
「アガット。オレ、アリスに会いたい!どうしたら、会えんの!?」
「お坊っちゃま…」
アガットを困らせてるのは、わかってる。でも、抑えられなかった。
アリスに会えなくなってから、食事もまともに食べられなくなった。食べても味がしねェし、お腹も減らない。
「…ごちそうさま」
「ハルク、もう食べないの?」
「食べたくねェ…」
「一口しか食べてないじゃん」
「食事はちゃんと食べろ。ハルク…」
「いらねェし!」
フォークを乱暴にテーブルに置くと、イスから下りて、部屋を出た。
「ねぇ。まだ世話係のメイドをハルクに会わせてないの?」
「会わせてない」
「そのメイド、今何やってんの?もう元気なんでしょ?」
「アリスさんは使用人の屋敷の方でメイド長の手伝いをしてるはずだよ」
「ハルクは今までアリスを無視してたから、行かせないようにしてる。反省も兼ねてな」
「あー、してたね。あんなに一緒にいたくせに、そのメイドが話しかけても全然口きかなかったよね。それが倒れた途端にすげー慌てて…」
「それにしても、ハルクがあんなにメイドに懐いたことあったっけ?」
「確かに。男の使用人とかは慣れれば普通に話すけど、メイドには全然近づかないな。女で話すのはメイド長くらい?」
「メイド長は長い間ここにいるから、第二の母親みたいなもんだから、話しやすいんじゃね?オヤジよりは話しやすいし」
「アイツ、相当落ち込んでるよ。毎日毎日、来るの待ってんだもん。「アリス…」って泣きながら。そろそろ戻してあげれば?リコリスまで心配してるし」
「「……」」
そんな会話がされてることも知らず、オレは一人部屋に帰って来た。
いつもなら、明るい部屋にアリスがいて、
“お帰りなさい。お坊っちゃま”
“ご飯は残さず、ちゃんと食べましたか?”
“ちゃんと食べないと大きくなれませんよ”
そう言って、笑って迎えてくれた。
なのに、ここのところ、ずっと部屋に帰っても、暗いままで誰も待っていない。
「……アリス」
いなくなってから気づかされた。
お菓子作ってくれないからと無視して、ずっと話しかけてくれてたのに返事もしなかった。
お菓子なんていらない。
アリスが戻ってきてくれるなら、他には何もいらない。だから、
「帰って来て。帰って来てよ。アリス…」
悲しくて、涙が止まらなかった。
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タスク兄やドラと談話室にいたら、ライが「珍しいものを見た」と言いながら入って来た。
「リク兄がメイドを運んでった」
「リク兄が?」
「カルロじゃなくて?」
「見間違いじゃね?」
オレ達はそう思っていた。
リク兄がわざわざメイドを運ぶなんてことはしない。カルロやライみたいにメイドに手を出すことなんてしないはずだし。もし、具合の悪いメイドを見つけても、自分の執事か他の使用人の誰かに指示して運ばせるはずだ。
「普通はそう思うじゃん?マジでリク兄だったんだって!普段冷静なリク兄が珍しく必死な顔してさ」
「リク兄がメイド相手にそんなことする?」
「そのメイドは?」
「ほら!若くて髪が長くて、胸がそこそこあって…」
「いや、そんなのここにいるメイドは、ほとんどがそんな感じじゃん…」
ライの話に付き合ってられねェと呆れていたら、ライがオレを見た。
「わかった!お前の世話係だ!」
「えっ…」
ライにそう言われて、言葉を失った。
何でリク兄がわざわざアリスを運んだの?アイツがリク兄を憧れているのは知ってる。でも、リク兄からはアイツのことなんて聞いたことねェ。
何も言えないままでいたら、代わりにタスク兄が聞いていた。
「何でそのメイドはリク兄に運ばれたの?」
「近くにいた使用人に聞いたら、そのメイドがふらついて、荷物落としたらしくて、たまたまそこにリク兄がいて、そいつに声かけたんだと」
「リク兄なら声はかけそうだね。ドラなら素通りだけど」
「うるせ。自分だって、機嫌悪い時は声かけねーくせに」
「それでリク兄は?」
「そいつが大丈夫じゃねーのに大丈夫だって言い張って、無理して荷物を運ぼうとしたのを見かねたリク兄が抱き上げて行ったんだって」
アリスがふらついてた?何で?
いつから具合悪かったの?わかんねェ。
オレ、アリスとずっと話してない…。声かけても無視してた。
「アリスはどこ?」
「多分、リク兄の部屋。そこで休ませて、医者を呼ぶみてー」
行かなきゃ。
イスから下りて、談話室を出ようとした。が。
「ストップ」
いきなりカルロに止められた。
「なんだよ!カルロ!!離せ!」
「お前に行く権利はないよ」
「ある!だから離せってば!」
「アリスのこと、ずっと無視してたのに?」
「そ、れは…!」
だって、アリスが作ってくれないから。
お菓子食べたいって何度も言ってるのに、全然作ってくれないから、無視して、わざと困らせた。
「このままアリスは休ませるから、お前は来なくていいよ。いても邪魔なだけだ」
「邪魔…」
オレがいても仕方ねェのはわかってる。わかってるけど!
「あとアリスが治ってもお前のところにはしばらくは行かせない。世話係は別のメイドにさせる」
「何で!」
嫌だ。
アリス以外のメイドなんかいらない!
「アリスとはしばらく接触禁止」
「ヤダ!」
「そのアリスを無視してたのは誰だ?お前だろ」
「今謝る!謝るから部屋に行かせて!」
「だめだ。自分がしたことをよく反省しろ」
「……わかった」
俯いて、拳を握る。こうなったら、勝手に行ってやる!カルロの隙をついて、駆け出した。
「ハルク!」
呼び止める声がするが、振り返らない。目指すはリク兄の部屋。
リク兄の部屋に向かっていると、ドアの前でリク兄とリク兄の執事がいた。きっと中にアリスがいる。
「リク兄!」
「ハルク」
「アリスいるよね!?部屋に入れて!」
ドアを開けて入ろうとした。でも、リク兄が手で塞ぐ。
「手をどかしてよ!入れない!!」
「カルロ兄さんに言われなかったの?」
「言われた。でも、ちゃんと謝る!謝るから、アリスに会わせて!!」
「どうして、ハルクにアリスさんを会わせないのかわかってないみたいだね?」
「無視したからでしょ!?わかってる!わかってるから!!」
「まったく反省してないのがわかったよ。ハルクにはアリスさんは会わせない」
リク兄までカルロと同じこと言う!何で!?会わせてよ!
「ねぇ、開けて!開けてよ!リク兄!」
「部屋に戻って、ハルク」
「会わせてくれるまで帰らない!」
「……クロッカス」
リク兄の執事が「失礼します、ハルク様」と言ってオレを持ち上げた。
「離せ!離せよ!」
オレが必死に抵抗しても、全然効かねェ。平然とした顔でオレを持ち、どんどんリク兄の部屋から離れてく。嫌だ!アリスに会わせろ!
「オレ、アリスに謝る!謝るから!会わせて!リク兄!!」
「静かにして。ハルク。彼女、今薬飲んで寝たところなんだよ」
いつも優しいリク兄が静かに怒っていた。あまり怒った顔なんてしない。なのに、今はオレに対して、かなり怒っている。
「うっ…何で……会わせてくんねェの!意地悪してんの、そっちじゃん!…うぅっ!」
「そのうち会わせてあげるから」
「ヤダ!そのうちじゃなくて、今、会わせてよ…」
ポロポロと涙が溢れた。悔しくて、悲しくて。
リク兄の執事に運ばれて、自分の部屋に戻された。部屋にはアガットがいて、オレをアガットに預けるとソイツは去って行った。
「お坊っちゃま」
「アリスに会わせてくんない…」
「え?」
「オレ、謝るからって言ってんのに…!カルロもリク兄も会わせないって意地悪する!アリスに会わせてって何度も言ってんのに!ひっく…」
オレはそこで大泣きした。
泣きわめくオレにアガットは、優しく抱きしめてくれた。
「大丈夫です。アリスさんにはそのうち会わせてくれますから…」
「ヤダ!今、会いたい!…今、会いたい!!アリス…」
その後のことはよく覚えてない。ただ泣き疲れてそのまま寝てしまったんだと思う。
リク兄の部屋から、使用人の屋敷に戻ったとアガットから聞いた。だから、そっちにも行ってみた。だけど、会わせるなと言われているのか、そっちでも会わせてもらえない。
しばらくしてから、アリスが仕事に復帰したらしい。でも、オレの部屋には来てくれない。カルロ達が来させないように指示してるんだろう。一週間、二週間、三週間が経ってもアリスは来ない。
毎日違う、知らないメイドが来る。
「アガット…」
「お坊っちゃま、どうしました?」
「アリス、また来てくれるよね?」
このまま本当に来てくれないのかな。オレがずっと無視したから。何であんなことしたんだろう。こんなことになるなら、しなきゃ良かった…。
「そのうち来てくれますよ」
「そのうちって、いつ?明日?明後日?」
「それは…」
「いつ、アリスは来てくれんの…。だって、もう治ってるんでしょ?何で来てくれねェの?」
「……」
「アガット。オレ、アリスに会いたい!どうしたら、会えんの!?」
「お坊っちゃま…」
アガットを困らせてるのは、わかってる。でも、抑えられなかった。
アリスに会えなくなってから、食事もまともに食べられなくなった。食べても味がしねェし、お腹も減らない。
「…ごちそうさま」
「ハルク、もう食べないの?」
「食べたくねェ…」
「一口しか食べてないじゃん」
「食事はちゃんと食べろ。ハルク…」
「いらねェし!」
フォークを乱暴にテーブルに置くと、イスから下りて、部屋を出た。
「ねぇ。まだ世話係のメイドをハルクに会わせてないの?」
「会わせてない」
「そのメイド、今何やってんの?もう元気なんでしょ?」
「アリスさんは使用人の屋敷の方でメイド長の手伝いをしてるはずだよ」
「ハルクは今までアリスを無視してたから、行かせないようにしてる。反省も兼ねてな」
「あー、してたね。あんなに一緒にいたくせに、そのメイドが話しかけても全然口きかなかったよね。それが倒れた途端にすげー慌てて…」
「それにしても、ハルクがあんなにメイドに懐いたことあったっけ?」
「確かに。男の使用人とかは慣れれば普通に話すけど、メイドには全然近づかないな。女で話すのはメイド長くらい?」
「メイド長は長い間ここにいるから、第二の母親みたいなもんだから、話しやすいんじゃね?オヤジよりは話しやすいし」
「アイツ、相当落ち込んでるよ。毎日毎日、来るの待ってんだもん。「アリス…」って泣きながら。そろそろ戻してあげれば?リコリスまで心配してるし」
「「……」」
そんな会話がされてることも知らず、オレは一人部屋に帰って来た。
いつもなら、明るい部屋にアリスがいて、
“お帰りなさい。お坊っちゃま”
“ご飯は残さず、ちゃんと食べましたか?”
“ちゃんと食べないと大きくなれませんよ”
そう言って、笑って迎えてくれた。
なのに、ここのところ、ずっと部屋に帰っても、暗いままで誰も待っていない。
「……アリス」
いなくなってから気づかされた。
お菓子作ってくれないからと無視して、ずっと話しかけてくれてたのに返事もしなかった。
お菓子なんていらない。
アリスが戻ってきてくれるなら、他には何もいらない。だから、
「帰って来て。帰って来てよ。アリス…」
悲しくて、涙が止まらなかった。
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