小ネタ集4
❰君は目を合わせない❱アリス視点。
お坊っちゃまの世話係になってから、二週間が経った。
世話係になってからも、使用人の仲間と食べるお菓子は作っていた。お坊っちゃまは毎日毎日、お菓子を作れとうるさいけれど。
幸い、今はお坊っちゃまがいない。さて、いないうちに使用人の屋敷に戻って、作りに行こう。鬼の居ぬ間に…!
お坊っちゃま、毎日部屋に行く度に「お菓子!お菓子」ってうるさいのよね。「私はお菓子って名前じゃないです!」って叱るけど。
いつだったかお坊っちゃまが廊下で「お菓子」って叫ぶから、「お菓子しか言えないの!?」って、お互いにそれを繰り返して歩いていたら、そのやり取りを見ていたカルロ様が笑っていたのよね。
そこ、笑うところあった?
周りからも「ハルク様にもう少し優しくしなよ」って言われるけど、つい怒っちゃうのよね…。本邸にはリク様もいるんだから、怒っているところを見られて幻滅されたくないから、もう少し堪えなくちゃいけないわ。
使用人用の屋敷に戻ると、友人のベゴニアがいた。私に気づいて、手を振る。
「早いね。どうしたの?」
「次の仕事まで少し時間あるから、たまにはお菓子作りを手伝ってあげるよ。いつも作ってもらってるから」
「本当!?なら、今日はケーキを作ってもいい?ほら、トープの誕生日が近いじゃない?」
「ああ、そういえばそうね」
「オレも食べたい!」
またいつの間にか、こっちに来てるし。相変わらず言っても直らないんだから。
「お坊っちゃま、まだ勉強の時間では?」
「さっき終わった!お前の姿がないから、追いかけてきた!」
またこの子は…。
私は無言で頭を抱える。これ、私がメイド長に後で言われるのよ。お坊っちゃまを使用人の屋敷に連れて来ちゃだめって。連れて来てない。
勝手に来ちゃうんだもの!
「お坊っちゃま、自分の部屋に戻ってください。ここはお坊っちゃまが来ていい場所ではありません」
「オレもケーキ、食べたい!」
そう言って、私のスカートを引っ張る。ちょっと離しなさい。
そんなお坊っちゃまを見て、かわいそうに思ったベゴニアが私に言う。
「アリス。ケーキを食べさせてあげたら?」
「いいのか!?」
「だーめ。庶民のお菓子を食べさせて、この子が体調崩したら私が怒られるんだから!」
「オレ、そんな柔じゃねェし!」
「いいものしか食べてない人間が何言ってるの!とにかくだめ。作ってもお坊っちゃまにはあげません」
「何でだよ!ケチ!もういいよ!バカ!」
お坊っちゃまは走り去って行く。それを私は見送る。これで邪魔者はいなくなったわね。
「いいの?追いかけなくて」
「すぐに機嫌直るわよ」
私はお坊っちゃまを追いかけず、ベゴニアと一緒にケーキを作り始めた。
それから無事にケーキを作り終えて、それを冷蔵庫に入れた。片付けを終えてから、ベゴニアと別れ、再びお坊っちゃまのところへ戻った。
「戻りました」
「……」
声をかけても返事がない。
聞こえなかったのかとも思って、もう一度声かけるも返事はない。怒ってるのかな?
その時はそのうち話すだろうと簡単に思っていた。
しかし、その後も私が何を言っても、お坊っちゃまは返事しない。完全に私を無視するようになった。目が合っても、そっぽ向く。
原因は、間違いなくお菓子だ。お菓子を作ってあげないから、怒って、私を無視しているんだろう。
二週間後。
あれから毎日お坊っちゃまのところに行っているが、ずっと無視されている。
「お坊っちゃま、おはようございます」
「……」
「お坊っちゃま。今日はいい天気ですから、シーツを洗濯しましょうか?」
「……」
「お坊っちゃま。今日はこれで。おやすみなさい」
「……」
挨拶も返事も一切しない。話すらもしてこなくなった。お坊っちゃまの執事であるアガットさんには挨拶も話もするし、兄弟達や他の使用人とも話はしているのに…。
私にだけ何も言わない。返事もしない。
これはお菓子をあげるまで無視されるのだろうか。だって、お坊っちゃまに私が作ったお菓子を食べさせるわけにはいかない。
それに世話係で私がいるんだよね?これって、私がいる意味ある?私がいなくてもいいんじゃない?
「大丈夫?アリス」
「んー、ちょっと頭痛いけど、まだ耐えられる…」
「何よ、その基準。薬は飲んだの?」
「飲んだよ。でも、効かないんだよね…」
「キツいなら無理しないで休みなよ?」
「ありがと…」
その日は荷物を運びながら、歩いていた。
何だろう。いつも持ってる荷物なのに重いな。しかも、何かフラフラするような…?
その時、運んでいたものが落ちてしまった。拾わないと。落とした物を拾おうと屈もうとしたが、
「……あれっ?」
視界がおかしい。物が二重、三重にもなって見える。上手く掴めない。
「大丈夫ですか?」
リク様の声。なんでここに…!
…って、ここは本邸の廊下だった。それはリク様もいるよね。部屋もあるんだし。それよりも…。
「だ、大丈夫です!」
「本当ですか?あまり顔色が良くないですよ?」
「本当に大丈夫ですから…」
リク様の手をわずわらせてはいけない。私なんかのために…!
「…ちょっと失礼しますね」
そう言うと、リク様の手が私の額に触れる。冷たくて気持ちいい。
「…熱い。熱あるんじゃないですか?」
「そんなことは…!」
「具合悪いんでしょう?無理しないでください」
「…大丈夫です。少し休めば、動けますから!」
最悪だな。リク様の前でミスするなんて。
「……。部屋まで運びます」
「へっ……っ!?」
いきなり抱き抱えられた。私、今…リク様に抱えられてる!?恥ずかしい!私、重いのに!
「あの、リク様!?降ろ、降ろし…!」
「今、喋らない方がいいですよ。部屋に着くまでは…」
近い。すごい近くにリク様の顔がある。私、顔が赤いよね。熱あるからもあるだろうけど、それだけじゃない。
「リク?その腕に抱えてるのって…」
「兄さん。ごめん。ちょっとどいて!」
途中、声をかけてきたカルロ様の前を通り過ぎる。
「クロッカス!」
「リク様?」
「僕の部屋のドア、開けてくれないか?」
「かしこまりました」
えぇ!?リク様の部屋!?
いやいや、何でそっちなの。使用人の屋敷だと少し距離はあるけど、まさかリク様の部屋に行くとは思わなかったし!
「すみません。しばらくは僕のベッドで我慢してくださいね」
「いや、私…私がリク様のベッドに寝るのは悪いです。そこらへんのイスかなんかで大丈夫ですから!」
「ダメです。あなたは病人なんですから、休んでください」
「は、はい…」
そう言われたので、おとなしくすることにした。リク様のベッドだよ。緊張する…!ドキドキして全然休めない。眠れない!無理!リク様の匂いがするから、余計に…!匂いまでいい匂いなんだけど。やばい!本当にやばい!!
「リク様。すぐに医師を手配しました。あと10分後には到着するそうです」
「そうか。ありがとう」
その後のことはよく覚えていない。熱で朦朧していたのとリク様のベッドで緊張していたのとか色々とあって…。
夜には自分の部屋に戻れて、ホッとした。あのままあそこにいたら、私、やばかったもの。
それから数日間、私はベッドから出られなかった。
体調がようやく回復したのは、一週間と少しかかった頃。治ってから、久々にお坊っちゃまの部屋に行こうとしたら、メイド長にしばらくは使用人の屋敷での仕事を頼まれた。「あなた、倒れたばかりなんだから。しばらくは体に負担がかからない仕事をやってもらうわ」と事務作業をしていた。
確かにまた通常の仕事をやって、倒れては元も子もない。既に皆に迷惑かけちゃってるんだし。
そういえば、私、お坊っちゃまに無視されてたのよね。なら、私がしばらく行かなくても大丈夫か。アガットさんもいるんだし。
場面は少し、アリスが倒れて、リクに運ばれて行った時に遡る。
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お坊っちゃまの世話係になってから、二週間が経った。
世話係になってからも、使用人の仲間と食べるお菓子は作っていた。お坊っちゃまは毎日毎日、お菓子を作れとうるさいけれど。
幸い、今はお坊っちゃまがいない。さて、いないうちに使用人の屋敷に戻って、作りに行こう。鬼の居ぬ間に…!
お坊っちゃま、毎日部屋に行く度に「お菓子!お菓子」ってうるさいのよね。「私はお菓子って名前じゃないです!」って叱るけど。
いつだったかお坊っちゃまが廊下で「お菓子」って叫ぶから、「お菓子しか言えないの!?」って、お互いにそれを繰り返して歩いていたら、そのやり取りを見ていたカルロ様が笑っていたのよね。
そこ、笑うところあった?
周りからも「ハルク様にもう少し優しくしなよ」って言われるけど、つい怒っちゃうのよね…。本邸にはリク様もいるんだから、怒っているところを見られて幻滅されたくないから、もう少し堪えなくちゃいけないわ。
使用人用の屋敷に戻ると、友人のベゴニアがいた。私に気づいて、手を振る。
「早いね。どうしたの?」
「次の仕事まで少し時間あるから、たまにはお菓子作りを手伝ってあげるよ。いつも作ってもらってるから」
「本当!?なら、今日はケーキを作ってもいい?ほら、トープの誕生日が近いじゃない?」
「ああ、そういえばそうね」
「オレも食べたい!」
またいつの間にか、こっちに来てるし。相変わらず言っても直らないんだから。
「お坊っちゃま、まだ勉強の時間では?」
「さっき終わった!お前の姿がないから、追いかけてきた!」
またこの子は…。
私は無言で頭を抱える。これ、私がメイド長に後で言われるのよ。お坊っちゃまを使用人の屋敷に連れて来ちゃだめって。連れて来てない。
勝手に来ちゃうんだもの!
「お坊っちゃま、自分の部屋に戻ってください。ここはお坊っちゃまが来ていい場所ではありません」
「オレもケーキ、食べたい!」
そう言って、私のスカートを引っ張る。ちょっと離しなさい。
そんなお坊っちゃまを見て、かわいそうに思ったベゴニアが私に言う。
「アリス。ケーキを食べさせてあげたら?」
「いいのか!?」
「だーめ。庶民のお菓子を食べさせて、この子が体調崩したら私が怒られるんだから!」
「オレ、そんな柔じゃねェし!」
「いいものしか食べてない人間が何言ってるの!とにかくだめ。作ってもお坊っちゃまにはあげません」
「何でだよ!ケチ!もういいよ!バカ!」
お坊っちゃまは走り去って行く。それを私は見送る。これで邪魔者はいなくなったわね。
「いいの?追いかけなくて」
「すぐに機嫌直るわよ」
私はお坊っちゃまを追いかけず、ベゴニアと一緒にケーキを作り始めた。
それから無事にケーキを作り終えて、それを冷蔵庫に入れた。片付けを終えてから、ベゴニアと別れ、再びお坊っちゃまのところへ戻った。
「戻りました」
「……」
声をかけても返事がない。
聞こえなかったのかとも思って、もう一度声かけるも返事はない。怒ってるのかな?
その時はそのうち話すだろうと簡単に思っていた。
しかし、その後も私が何を言っても、お坊っちゃまは返事しない。完全に私を無視するようになった。目が合っても、そっぽ向く。
原因は、間違いなくお菓子だ。お菓子を作ってあげないから、怒って、私を無視しているんだろう。
二週間後。
あれから毎日お坊っちゃまのところに行っているが、ずっと無視されている。
「お坊っちゃま、おはようございます」
「……」
「お坊っちゃま。今日はいい天気ですから、シーツを洗濯しましょうか?」
「……」
「お坊っちゃま。今日はこれで。おやすみなさい」
「……」
挨拶も返事も一切しない。話すらもしてこなくなった。お坊っちゃまの執事であるアガットさんには挨拶も話もするし、兄弟達や他の使用人とも話はしているのに…。
私にだけ何も言わない。返事もしない。
これはお菓子をあげるまで無視されるのだろうか。だって、お坊っちゃまに私が作ったお菓子を食べさせるわけにはいかない。
それに世話係で私がいるんだよね?これって、私がいる意味ある?私がいなくてもいいんじゃない?
「大丈夫?アリス」
「んー、ちょっと頭痛いけど、まだ耐えられる…」
「何よ、その基準。薬は飲んだの?」
「飲んだよ。でも、効かないんだよね…」
「キツいなら無理しないで休みなよ?」
「ありがと…」
その日は荷物を運びながら、歩いていた。
何だろう。いつも持ってる荷物なのに重いな。しかも、何かフラフラするような…?
その時、運んでいたものが落ちてしまった。拾わないと。落とした物を拾おうと屈もうとしたが、
「……あれっ?」
視界がおかしい。物が二重、三重にもなって見える。上手く掴めない。
「大丈夫ですか?」
リク様の声。なんでここに…!
…って、ここは本邸の廊下だった。それはリク様もいるよね。部屋もあるんだし。それよりも…。
「だ、大丈夫です!」
「本当ですか?あまり顔色が良くないですよ?」
「本当に大丈夫ですから…」
リク様の手をわずわらせてはいけない。私なんかのために…!
「…ちょっと失礼しますね」
そう言うと、リク様の手が私の額に触れる。冷たくて気持ちいい。
「…熱い。熱あるんじゃないですか?」
「そんなことは…!」
「具合悪いんでしょう?無理しないでください」
「…大丈夫です。少し休めば、動けますから!」
最悪だな。リク様の前でミスするなんて。
「……。部屋まで運びます」
「へっ……っ!?」
いきなり抱き抱えられた。私、今…リク様に抱えられてる!?恥ずかしい!私、重いのに!
「あの、リク様!?降ろ、降ろし…!」
「今、喋らない方がいいですよ。部屋に着くまでは…」
近い。すごい近くにリク様の顔がある。私、顔が赤いよね。熱あるからもあるだろうけど、それだけじゃない。
「リク?その腕に抱えてるのって…」
「兄さん。ごめん。ちょっとどいて!」
途中、声をかけてきたカルロ様の前を通り過ぎる。
「クロッカス!」
「リク様?」
「僕の部屋のドア、開けてくれないか?」
「かしこまりました」
えぇ!?リク様の部屋!?
いやいや、何でそっちなの。使用人の屋敷だと少し距離はあるけど、まさかリク様の部屋に行くとは思わなかったし!
「すみません。しばらくは僕のベッドで我慢してくださいね」
「いや、私…私がリク様のベッドに寝るのは悪いです。そこらへんのイスかなんかで大丈夫ですから!」
「ダメです。あなたは病人なんですから、休んでください」
「は、はい…」
そう言われたので、おとなしくすることにした。リク様のベッドだよ。緊張する…!ドキドキして全然休めない。眠れない!無理!リク様の匂いがするから、余計に…!匂いまでいい匂いなんだけど。やばい!本当にやばい!!
「リク様。すぐに医師を手配しました。あと10分後には到着するそうです」
「そうか。ありがとう」
その後のことはよく覚えていない。熱で朦朧していたのとリク様のベッドで緊張していたのとか色々とあって…。
夜には自分の部屋に戻れて、ホッとした。あのままあそこにいたら、私、やばかったもの。
それから数日間、私はベッドから出られなかった。
体調がようやく回復したのは、一週間と少しかかった頃。治ってから、久々にお坊っちゃまの部屋に行こうとしたら、メイド長にしばらくは使用人の屋敷での仕事を頼まれた。「あなた、倒れたばかりなんだから。しばらくは体に負担がかからない仕事をやってもらうわ」と事務作業をしていた。
確かにまた通常の仕事をやって、倒れては元も子もない。既に皆に迷惑かけちゃってるんだし。
そういえば、私、お坊っちゃまに無視されてたのよね。なら、私がしばらく行かなくても大丈夫か。アガットさんもいるんだし。
場面は少し、アリスが倒れて、リクに運ばれて行った時に遡る。
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