小ネタ集3


❰駒の価値❱

その夜。
誰も来ない書斎にカルロとリクがいた。

ここは意外に防音で、声が外には聞こえない。聞かれたくない話をする時には、うってつけの場所だった。二人の執事の姿もない。

ここの書斎は父のものではなく、カルロやリクの本が数多く置いてある。たまにタスクやドラも来ることもあるが、夜遅くには来ない。ライは気に入った本だけを自分の部屋に置くため、ここには滅多に来ないし、ハルクに至っては来ることはなかった。



カ「きっと今だけだろうね。あの二人が一緒にいられるのは…」

リ「……」

カ「アリス、ずっと傍にいてって言われたらしいよ。しかも、指切りは嘘ついたら結婚して、嘘つかなくても結婚してだって。アイツはドラよりも幼いのかもしれないね」

リ「変わった指切りだね」

カ「しかも、アリス、ハルクに好かれてる自覚なし。姉みたいに思われて嬉しいってさ。ハルク以上に鈍感だったとはね…。その指切りの約束は今だけだと思う?」

リ「ううん。あの子はずっと覚えてるよ。昔、タスクとハルクの母親が亡くなった時の約束を今も守っているから」

カ「あの“約束”か。それはタスクも同じでしょ」

リ「二人はお母さんが大好きだったからね」

カ「二人共、面影追ってんのかもしれない」

リ「……。僕達とは大違いだよね」

カ「アレのこと?」

リ「そう。アレ。僕達を捨てたあの忌々しい生き物。まだ生きてるらしいよ」

カ「しぶといよね…。よほど悪運が強いんだろうな」

リ「ライが見かけたって言ってた。相変わらず男に寄生してるって」

カ「アレはそういう生き物だからね」


窓を見ると、雨が降りだしていた。かなり激しい雨の音が二人の耳に届く。



カ「一緒になれる未来なんてないのに…」

リ「ハルクのこと?」

カ「それ以外、誰がいる?うちの兄弟でメイドに本気になってるヤツは」

リ「本気じゃなかったら、兄さんやライもそこに入るんだけどな」

カ「遊びなら全然かまわないけど、本気になる子が多いんだよね。うちにいるメイド達」

リ「そんなこと言ってると刺されるよ。それよりカルロ兄さんに興味示さない人いるの?」

カ「いるよ。今年入ったメンバーは結構ハッキリしていてね。リク推しのアリス、執事長推しのスマルト、年下好みのトープくらいかな。あの三人は俺にまったく興味ない。全然顔が赤くならないよ。見てて面白いけど」

リ「話は戻すけど、タスクは?」

カ「タスクは終わりが近いかな。リコリス嬢の家は大分やばいから」

リ「あそこが経営してる会社、業績が悪くなってきているみたいだね。このまま行くと…」

カ「親父、タスクの婚約を考え直してるよ。また別の令嬢との婚約を考えてるはず」

リ「タスクは本気だよ。彼女と幸せになるんだーって楽しそうに話していたから、余計にかわいそうだ」

カ「ライは特定の女はいないけど、相手関係なく見境ないからな。どこかの令嬢とも婚約しても、遊びはやめない。アレを見てたせいか、本気で一人を愛せないのかもな」

リ「それはライだけじゃない。僕達も同じだよ」

カ「言えてる。本気で誰かを愛せるあの二人が羨ましいよ…」

リ「ドラもあの外見でかなり傷ついてきたから、そう簡単には誰かを好きになれないね…」

カ「うちは呪われているんだろうね…」

リ「幸せになることは許されないと誰かが呪いをかけたのかもしれない。父さん、敵も多いから」


それに答えるように、遠くで雷が鳴っていた。



カ「あと何年かしたら、アリスにも縁談は来るはずだよ。今16だろ?そしたら、ここを辞めなきゃいけなくなる」

リ「一般は20歳から縁談が来るんだっけ?それ以外にも自由に結婚も出来るみたいだけど。ハルクは知らないだろうね。でも、父さんが許すわけない」

カ「それは絶対にさせないよ。親父は俺達を駒にしか思ってない。ましてや、得にもならない庶民の娘となんて許さないだろうね」

リ「もしかしたら、ハルクに婚約者を決めている最中かも」

カ「考えてはいるね。特にマーズ家の令嬢になったら、間違いなくアリスの存在は目障りだろうし。リコリス嬢がいなくなった今は、あそこが第一候補だからね。ハルクの婚約者の最有力は」

リ「……またあんなかわいそうなハルクを見なきゃいけないの?」

カ「傷つけられるのはハルクじゃない。アリスだよ。生まれた場所が違うってだけで蔑まれる。そういう世界の人間達に。見てきたお前もわかるだろ?」

リ「……そうだね。本当にその人じゃなく、家柄だけでしか人間なんて大嫌いだよ」

カ「リクも近いうちに婚約者と会うんだろ?」

リ「……うん。昨日、父さんから呼び出されたよ。来月に会うことになった」

カ「そっか。自由の時間もあとわずか、か…」

リ「カルロ兄さんにも迫ってきてるんだね」

カ「遠くないかな」


そこで会話は途切れ、カルロは書斎を出た。残されたリクは、本棚の前に立ち、本を手に取る。



「……さて、いつからそこで隠れていたの?」


本を開きながら、そう切り出す。すると、奥の本棚から誰かが出てくる。



「…タスク」


リクが名前を呼ぶと、その名前の少年が現れた。

















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