小ネタ集3
❰ジンクス❱
学園で配られた自分のイニシャルチャームを手に持ちながら、ボーっとしていたら、カルロが近づいてきた。
「あれ?それって初等部のチャームだよね」
「そう。今日配られた」
「懐かしいな。それ見てると、ジンクスを思い出したよ」
「ジンクス?何それ?」
「あれ?今はない?そのイニシャルチャーム、自分のじゃなくて、好きな相手のイニシャルチャームを持ってるといいことあるってジンクス」
「それ、同じ学園のヤツ限定じゃん」
「そりゃあね。この学園のジンクスだから」
オレは持っていたチャームをテーブルに置いた。すると、今度はカルロがそれを手に持つ。「俺が今持つと、イニシャルチャームも小さいなー」なんて呟きながら。
「このイニシャルチャーム、相手のと交換するのが一番効くんだけどさ」
「ふーん。オレには関係ねェし」
「そういえば、友達が他校に好きな子がいて、その子のイニシャルチャームを買って持っていたんだけど、効果はあったらしくてさ」
同じ学園じゃねェヤツのイニシャルチャームを持っていても効果はある。それって、つまりは…。
しばし考えていたら、カルロが黙ったままのオレを見て、笑みを浮かべる。
「あれ?興味あるの?もしかして、ハルクも誰か気になる相手でもいるのかな。へぇ…」
「違っ…やんねェし!」
「あれ?懐かしいね、そのチャーム」
今度はリク兄がカルロが持っていたイニシャルチャームを見ながら、話しかけてきた。
「リクも知ってるだろ?これのジンクス」
「知ってるよ。知らない人はいないくらい有名なジンクスだし」
知らなかったの、オレだけかよ…。
だから、これを配られた時、やたら女子達が騒いでたのか。
「…だってよ?ハルク」
「ハルク、知らなかったの?」
「……。別に。知らなくても、今知ったからいい」
「ジンクスを試したいもんねー」
「うっせェ!」
「まったく兄さんは、またハルクをからかって。そう言うカルロ兄さんだって、ジンクスを試したでしょ。沢山の女の子達から交換してって言われていたの知ってるんだからね」
「よく覚えてるね…。ま、効果はあったけど」
やっぱり効果はあんだ。カルロからイニシャルチャームを奪い返す。
「リクこそ、誰かと交換しなかったの?」
「しないよ。僕はそういう非科学的なことは一切、信じないから」
「夢がないなー」
「そんなのは人それぞれだよ。ジンクスだって、皆が皆効いてるわけじゃないんだから。僕の友達で効果がなかった子も何人かいたし」
やっぱり効かないヤツもいるよな。
「……」
「だけど、タスクがジンクスが叶ったとは言っていたよね。あんなに信じていなかったのに…。例のあの子のイニシャルチャーム買ってから、本当に彼女と婚約したから」
「そうなの?」
「うん。本人から聞いたし。婚約してから、自分のイニシャルチャームを渡したみたいだよ。ほら、彼女は別の学園に通っているから」
ちょっとタスク兄に聞いてこよう。今なら部屋にいるよな?
本当にリコリスにイニシャルチャームを渡したのか、気になるし。自分のイニシャルチャームをポケットにしまい、イスから立ち上がる。
「オレ、部屋戻る…」
二人にそう言って、談話室を出た。向かう先は、タスク兄の部屋。急いで廊下を駆け出した。
カ「さて、今の話を聞いて、ハルクはどうすると思う?リク」
リ「放っておいてあげなよ。かまうから嫌われるんだよ、兄さんは…」
カ「ハルクはいい反応してくれるからね…。もうさ黙ってても顔に出てるんだもん。微笑ましいよね。そう言うリクこそ、わざとタスクの話を出したじゃない」
リ「あれは嘘じゃなくて、本当の話だからね」
カ「そうなの?リクもハルクを騙すためについた話かと思ってたのにな…」
リ「弟にそんな意地悪なことしないよ」
カ「ハルク、イニシャルは何を買うと思う?」
リ「ノーコメント」
カ「つまんないなー。ちょっとは乗ってくれよ。ノリが悪い。タスクなら乗ってくれるよ?」
リ「つまらなくて結構」
カ「Aのイニシャルチャームを買うに一票」
リ「賭けにならない」
カ「ほら、やっぱりリクも同じこと考えてた…」
カルロとリク兄がそんな話をしてるなど、知らないオレはタスク兄にイニシャルチャームのことを聞きに部屋まで行ったのだが、何故かリコリスののろけ話を聞かされただけで終わった…。
翌日。
休み時間に購買へやって来た。予想していたよりは、人が少なくて安心した。
さて、イニシャルチャームはどこだ?店内を見て回っていたら、イニシャルチャームはこちらと書いてあるポップを見つけた。
……あった。幸い、そこには誰もいない。チャームはAからアルファベットの順番に並んでいた。Aのチャームが並んでいる場所からそれを一つ掴む。
よし。あとはこれを持って、レジに向かうだけだ。
「ハルク。何してんの…?」
いきなり声をかけられて、振り返る。そこにいたのは、二つ下の弟・ドラの姿。
「ドラ。お前こそ、何で…!」
「買いたいものがあったから、来たに決まってるじゃん。購買にそれ以外用ある?」
「あっそ…」
相手にすんの、やめよ。さっさとレジに行こうとした。だが。
「てか、ハルクのイニシャルはHでしょ。何でAを見てたわけ?」
「……は?見てねェよ!」
「じゃあ、今手の中に持ってるチャームは?」
「Hだよ」
「自分のは昨日配られたじゃん」
「なくしたんだよ!」
「じゃあ、手の中の見せてよ?自分のなら見せられるよね?」
そう言われて、オレは手の中にあったイニシャルチャームを渋々見せる。それを見たドラが笑い出す。
「ほら、やっぱりAのイニシャルチャームを持ってたじゃん!!」
「バカ!大きな声で言うな!」
「こういうの信じそうにないヤツがカルロ達の話を聞いて、自分も試したくなったんだろ!」
「うるせェな!こんなの買わねェよ!」
チャームを元に戻して、そこから離れた。
くそっ。アイツがいなきゃ買えたのに!アイツがいねェ時にまた来よう。
放課後。
授業が終わり、鞄を持って、購買へ駆けつける。しかし、チャームのところは女子が沢山いた。これでは買えない。仕方ねェ。明日にしよう。
だが、それからも毎日購買に行くが、チャームのところには誰かしらがいて、全然買えない。
そして、購買に通い続けて、10日が過ぎた頃にやっとチャームのところには誰もいない。前みたいにドラがいないかを確認してから、イニシャルチャームを見る。Aがねェ!?
買えると思った矢先、Aのチャームは売り切れ。嘘だろ。最悪だ。ショックでその場に立ち尽くしていたら…。
「あれ?君、こないだチャームを買いに来ていた子だよね?」
いきなり購買の若い男の店員に話しかけられた。
「違っ…!」
つい反射的に違うと言ってしまう。オレ、何違うって言ってんだよ。目的はそれじゃん!
「そう?さっき、Aのチャームを買うの止めた子がいて、一つだけ残ったから戻そうと来たら、君がいたから、これいるかなと思って、声をかけたんだけど」
「え!?……っ」
「違うなら戻しちゃうね」
それを買いに来たんだろ、オレ。これを逃したら、次はいつになるかわかんねェのに…。
でも、今更欲しいなんて言えるかよ!
「……なあ」
「どうしたの?」
「……それ、くれ」
すげー小さい声で俯いたまま言った。恥ずかしくて、顔が真っ赤だったろう。でも、これを逃したくなくて。
そんなオレの声を聞いた店員は、「毎度あり」といたずらっぽく笑って、そう答えた。
会計を終え、購買を後にして、校門に向かう。すると、うちの車を見つけて、乗り込んだ。
「アガット!」
「ハルクお坊っちゃま!?あれ、今日はやけに機嫌がいいですね…」
「うん!」
それはそうだ。やっと欲しいものが手に入ったからだ。さっき買ったばかりのイニシャルチャームを手の平に乗せ、見つめる。
「……へへっ」
「お坊っちゃま?」
「何でもねェ!早く帰ろう、アガット。今日はアリスがお菓子を作ってくれる日だから」
「ああ、そうでしたね。家に着く頃には、出来てるはずですよ」
「そう。だから、早く食べたい!」
「わかりました。シートベルトは着けてくださいね」
「了解!」
イニシャルチャームを買ったお陰なのか、その日のお菓子は大好きなイチゴのタルトだった。嬉しくてタルトを頬張って食べていたら、アリスが「そんなに急がなくてもタルトは逃げませんよ」って言いながら、笑ってもう一つくれた。
こんなに優しいのは珍しい。あとカルロが邪魔しに来なかった。いつもこうならいいのに…。
部屋に戻ってから、鞄を置き、机の上に二つのイニシャルチャームを置く。AとH。オレとアリスのイニシャルだ。
願わくは、もっとオレを見てくれますように。
そう願いながら、オレは部屋を出て、談話室に向かった。
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学園で配られた自分のイニシャルチャームを手に持ちながら、ボーっとしていたら、カルロが近づいてきた。
「あれ?それって初等部のチャームだよね」
「そう。今日配られた」
「懐かしいな。それ見てると、ジンクスを思い出したよ」
「ジンクス?何それ?」
「あれ?今はない?そのイニシャルチャーム、自分のじゃなくて、好きな相手のイニシャルチャームを持ってるといいことあるってジンクス」
「それ、同じ学園のヤツ限定じゃん」
「そりゃあね。この学園のジンクスだから」
オレは持っていたチャームをテーブルに置いた。すると、今度はカルロがそれを手に持つ。「俺が今持つと、イニシャルチャームも小さいなー」なんて呟きながら。
「このイニシャルチャーム、相手のと交換するのが一番効くんだけどさ」
「ふーん。オレには関係ねェし」
「そういえば、友達が他校に好きな子がいて、その子のイニシャルチャームを買って持っていたんだけど、効果はあったらしくてさ」
同じ学園じゃねェヤツのイニシャルチャームを持っていても効果はある。それって、つまりは…。
しばし考えていたら、カルロが黙ったままのオレを見て、笑みを浮かべる。
「あれ?興味あるの?もしかして、ハルクも誰か気になる相手でもいるのかな。へぇ…」
「違っ…やんねェし!」
「あれ?懐かしいね、そのチャーム」
今度はリク兄がカルロが持っていたイニシャルチャームを見ながら、話しかけてきた。
「リクも知ってるだろ?これのジンクス」
「知ってるよ。知らない人はいないくらい有名なジンクスだし」
知らなかったの、オレだけかよ…。
だから、これを配られた時、やたら女子達が騒いでたのか。
「…だってよ?ハルク」
「ハルク、知らなかったの?」
「……。別に。知らなくても、今知ったからいい」
「ジンクスを試したいもんねー」
「うっせェ!」
「まったく兄さんは、またハルクをからかって。そう言うカルロ兄さんだって、ジンクスを試したでしょ。沢山の女の子達から交換してって言われていたの知ってるんだからね」
「よく覚えてるね…。ま、効果はあったけど」
やっぱり効果はあんだ。カルロからイニシャルチャームを奪い返す。
「リクこそ、誰かと交換しなかったの?」
「しないよ。僕はそういう非科学的なことは一切、信じないから」
「夢がないなー」
「そんなのは人それぞれだよ。ジンクスだって、皆が皆効いてるわけじゃないんだから。僕の友達で効果がなかった子も何人かいたし」
やっぱり効かないヤツもいるよな。
「……」
「だけど、タスクがジンクスが叶ったとは言っていたよね。あんなに信じていなかったのに…。例のあの子のイニシャルチャーム買ってから、本当に彼女と婚約したから」
「そうなの?」
「うん。本人から聞いたし。婚約してから、自分のイニシャルチャームを渡したみたいだよ。ほら、彼女は別の学園に通っているから」
ちょっとタスク兄に聞いてこよう。今なら部屋にいるよな?
本当にリコリスにイニシャルチャームを渡したのか、気になるし。自分のイニシャルチャームをポケットにしまい、イスから立ち上がる。
「オレ、部屋戻る…」
二人にそう言って、談話室を出た。向かう先は、タスク兄の部屋。急いで廊下を駆け出した。
カ「さて、今の話を聞いて、ハルクはどうすると思う?リク」
リ「放っておいてあげなよ。かまうから嫌われるんだよ、兄さんは…」
カ「ハルクはいい反応してくれるからね…。もうさ黙ってても顔に出てるんだもん。微笑ましいよね。そう言うリクこそ、わざとタスクの話を出したじゃない」
リ「あれは嘘じゃなくて、本当の話だからね」
カ「そうなの?リクもハルクを騙すためについた話かと思ってたのにな…」
リ「弟にそんな意地悪なことしないよ」
カ「ハルク、イニシャルは何を買うと思う?」
リ「ノーコメント」
カ「つまんないなー。ちょっとは乗ってくれよ。ノリが悪い。タスクなら乗ってくれるよ?」
リ「つまらなくて結構」
カ「Aのイニシャルチャームを買うに一票」
リ「賭けにならない」
カ「ほら、やっぱりリクも同じこと考えてた…」
カルロとリク兄がそんな話をしてるなど、知らないオレはタスク兄にイニシャルチャームのことを聞きに部屋まで行ったのだが、何故かリコリスののろけ話を聞かされただけで終わった…。
翌日。
休み時間に購買へやって来た。予想していたよりは、人が少なくて安心した。
さて、イニシャルチャームはどこだ?店内を見て回っていたら、イニシャルチャームはこちらと書いてあるポップを見つけた。
……あった。幸い、そこには誰もいない。チャームはAからアルファベットの順番に並んでいた。Aのチャームが並んでいる場所からそれを一つ掴む。
よし。あとはこれを持って、レジに向かうだけだ。
「ハルク。何してんの…?」
いきなり声をかけられて、振り返る。そこにいたのは、二つ下の弟・ドラの姿。
「ドラ。お前こそ、何で…!」
「買いたいものがあったから、来たに決まってるじゃん。購買にそれ以外用ある?」
「あっそ…」
相手にすんの、やめよ。さっさとレジに行こうとした。だが。
「てか、ハルクのイニシャルはHでしょ。何でAを見てたわけ?」
「……は?見てねェよ!」
「じゃあ、今手の中に持ってるチャームは?」
「Hだよ」
「自分のは昨日配られたじゃん」
「なくしたんだよ!」
「じゃあ、手の中の見せてよ?自分のなら見せられるよね?」
そう言われて、オレは手の中にあったイニシャルチャームを渋々見せる。それを見たドラが笑い出す。
「ほら、やっぱりAのイニシャルチャームを持ってたじゃん!!」
「バカ!大きな声で言うな!」
「こういうの信じそうにないヤツがカルロ達の話を聞いて、自分も試したくなったんだろ!」
「うるせェな!こんなの買わねェよ!」
チャームを元に戻して、そこから離れた。
くそっ。アイツがいなきゃ買えたのに!アイツがいねェ時にまた来よう。
放課後。
授業が終わり、鞄を持って、購買へ駆けつける。しかし、チャームのところは女子が沢山いた。これでは買えない。仕方ねェ。明日にしよう。
だが、それからも毎日購買に行くが、チャームのところには誰かしらがいて、全然買えない。
そして、購買に通い続けて、10日が過ぎた頃にやっとチャームのところには誰もいない。前みたいにドラがいないかを確認してから、イニシャルチャームを見る。Aがねェ!?
買えると思った矢先、Aのチャームは売り切れ。嘘だろ。最悪だ。ショックでその場に立ち尽くしていたら…。
「あれ?君、こないだチャームを買いに来ていた子だよね?」
いきなり購買の若い男の店員に話しかけられた。
「違っ…!」
つい反射的に違うと言ってしまう。オレ、何違うって言ってんだよ。目的はそれじゃん!
「そう?さっき、Aのチャームを買うの止めた子がいて、一つだけ残ったから戻そうと来たら、君がいたから、これいるかなと思って、声をかけたんだけど」
「え!?……っ」
「違うなら戻しちゃうね」
それを買いに来たんだろ、オレ。これを逃したら、次はいつになるかわかんねェのに…。
でも、今更欲しいなんて言えるかよ!
「……なあ」
「どうしたの?」
「……それ、くれ」
すげー小さい声で俯いたまま言った。恥ずかしくて、顔が真っ赤だったろう。でも、これを逃したくなくて。
そんなオレの声を聞いた店員は、「毎度あり」といたずらっぽく笑って、そう答えた。
会計を終え、購買を後にして、校門に向かう。すると、うちの車を見つけて、乗り込んだ。
「アガット!」
「ハルクお坊っちゃま!?あれ、今日はやけに機嫌がいいですね…」
「うん!」
それはそうだ。やっと欲しいものが手に入ったからだ。さっき買ったばかりのイニシャルチャームを手の平に乗せ、見つめる。
「……へへっ」
「お坊っちゃま?」
「何でもねェ!早く帰ろう、アガット。今日はアリスがお菓子を作ってくれる日だから」
「ああ、そうでしたね。家に着く頃には、出来てるはずですよ」
「そう。だから、早く食べたい!」
「わかりました。シートベルトは着けてくださいね」
「了解!」
イニシャルチャームを買ったお陰なのか、その日のお菓子は大好きなイチゴのタルトだった。嬉しくてタルトを頬張って食べていたら、アリスが「そんなに急がなくてもタルトは逃げませんよ」って言いながら、笑ってもう一つくれた。
こんなに優しいのは珍しい。あとカルロが邪魔しに来なかった。いつもこうならいいのに…。
部屋に戻ってから、鞄を置き、机の上に二つのイニシャルチャームを置く。AとH。オレとアリスのイニシャルだ。
願わくは、もっとオレを見てくれますように。
そう願いながら、オレは部屋を出て、談話室に向かった。
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