小ネタ集2




❰プロミス❱

さて、買い物のリストは預かったし、どこから最初に行こうかな?先に…。



「アリス!」


歩いていたら、ドラ様が声をかけてきた。
あれ、珍しいな。外見を気にされて、邸内でもあまり出歩かないのに…。



「ねー、頼みがあるんだけど!」

「どうしたんですか?ドラ様」

「リク兄が体調崩しちゃってさ」

「え、大丈夫なんですか!?」


リク様、何かご病気にかかったのかしら?それを聞いて、私は慌てた。



「部屋で休んでるから平気。それでさ、体に優しい食事を作ってくんない?」

「そうですね。じゃあ、料理長に頼んでみますね!」


早速、今歩いた道を戻ろうとしたら、ドラ様が腕に抱きついてきた。



「違う、違う。アリスに作って欲しいんだって!」

「だめですよ!そこはプロの料理長にお願いして、栄養のある良いものを食べていただかないと…!」

「リク兄がアリスに頼んで欲しいって言ってたんだよ!」

「リク様が…」


リク様が私に…?
いやいや、そんなことあるわけないじゃないの。どっかのお坊っちゃまとは違うんだから。



「そう。だから、作ったらすぐに本邸に来て!」

「わ、わかりました…」


私は一度使用人の屋敷に戻り、近くにいたスマルトに事情を話して、買い出しを交代してもらった。
その時にスマルトが「そうね。きっとアリスの料理を食べたら、元気になるわよ。ずっと部屋に閉じこもってるんだから。顔も見たがってるだろうし」って言ってきたけど、あれはどういう意味なのかしらね?リク様とはそんなに久しぶりじゃないわよ。
数日前に会って、少し話もしたし。お坊っちゃまのことばっかりで、ちょっと不満だったけど。


使用人用のキッチンを借りて、体に優しい食事のレシピを調べ、冷蔵庫から材料を集めて急いで作った。



「アリス、来た!こっちだよ!」

本邸のドアの前でドラ様が手を振る。その隣にはタスク様の姿もあった。



「お待たせしました!」

「アリス!その持っているもんはこっちに渡して!」

「え?では、はい…」


そう言われ、深く考えないまま、すんなりタスク様にトレーごと渡す。
役目は終わったから、これで帰ろうとしたら、誰かに腕を掴まれた。

カルロ様である。いつの間にいたのだろうか?



「何帰ろうとしてるのかな?」

「体調崩しているなら、私はこれで…」

「ダメだよ?ほら、入って入って!」

「ちょっ…!」

すばやく私の背後に回り、背中を押して、邸内に入ることになったわけである。





ここに来たのは、久しぶりだ。

そういえば、お坊っちゃまの姿を見なくなったような?私の前に見せないだけかな。随分と怒っていたし。



「そういえば、お坊っちゃまは元気にしてますか?」

「「「え?」」」


何故か三人が同時に私を見る。私、変なことを言ったかな?お坊っちゃまのこと、聞いただけだよね。



「あれから姿を見ないんですよね。本邸以外でもまったく姿を見かけないので…。きっと私に会いたくないからだと思いますけど」

「ちょっと待って。アリスがハルクを避けてるんじゃなくて?」

「避ける?何故ですか??」

「アイツと言い合いになったんでしょ!?」

「なりましたよ。あの時、私も怒りでつい我を忘れていたんですけど、その日の夜、冷静になってよく考えてみました。そしたら、私が悪かったんだなーって」


お坊っちゃまに言われて、自分がいかに警戒心がないのか気づいたし。もう少し気をつけないといけなかったんだ。
私の方が年上なのに…。



「そういえば、何でハルクと喧嘩したの?」

「ライ様宛の手紙を預かってそれを持って行って、ちょっとしたやり取りの間にお坊っちゃまがライ様を蹴ったんです。それを注意したら、お坊っちゃまが謝らなくて、私が代わりにライ様に謝りました。そしたら、ライ様が「謝るんじゃなくて、ベッドに行こう」って…」

「あの野郎が原因かよ…」

「ライにはちょーーーっとお仕置きが必要かもしれないね」

「アリス。アイツに何かされた!?何かされたなら言ってね?今、試してみたい実験があるから…」

「大丈夫ですよ?ドラ様。お気持ちだけで。それにお坊っちゃまが助けてくれたので、何もなかったんですけど。それからそのことで言い合いになってしまって、今に至るわけなんですが…」

「あのアホの制裁は後にしてさ。アリスが本邸に来なかったのって、もしかして…」

「お世話係を辞めさせられた私がここに来るのはおかしいから、代わってはもらったんですよ。お坊っちゃまの様子を聞いてみたんですが、皆、何故か曖昧にごまかすんですよねー」

「「「……」」」

「皆様?」


無言になるお三方。
あれ?どうしたんだろう。



「リク様の部屋に行くんですよね!早く行きましょうか?」


先を進もうとしたら、目の前にはアガットさんの姿。リク様の執事はクロッカスさんのはずだ。



「あれ?リク様の部屋に持って行くのでは…」

「すみません。アリスさん…」


謝ってきたのは、アガットさん。しかも、彼の手にはさっきタスク様に渡したトレーがあった。いつの間に!?
あれ?もしかして、私、騙された?



「もしかして、リク様じゃなくて、お坊っちゃまなんですか?体調崩したのって…」

「体調崩したというよりは、引きこもってしまったんですよ。どうぞ部屋に入ってください」


お坊っちゃまの部屋のドアが開く。タスク様が開けてくれたようだ。



「いえ、私がいたって、何も…」

「大丈夫。今のアイツにはアリスが必要だから!」

「もう10日も会えてないからね。流石にこれ以上、こんな状態だとハルクがヤバイんだよ!」

「俺も少ししてから、部屋に入りますから。どうかお坊っちゃまをお願いします。アリスさん」


アガットさんにそう言われた後、誰かに背中を押されて、私はお坊っちゃまの部屋に入れられた。入った後はドアを閉められた。開けようとしたが、出られないようにしているんだろう。開かなかった…。

皆、共犯か。
ということは、リク様も知っていて、計画に乗ったわけね。

仕方なく、中に入る。部屋の中は電気がついておらず、薄暗い。少し見えにくいが、ベッドの上に何かくるまっているのが確認出来た。



「……アガット?さっきから何してんの?」


お坊っちゃまの声。
いつもの声とは違い、なんだか弱々しい。部屋の中が暗いから、私だとわかってないのだろう。



「アガット?何か言っ…」

「お坊っちゃま?」

「………っ!」


私の声が聞こえた瞬間、ベッドにくるまっていた何かが私から遠ざかろうとくるまったまま、ベッドの隅に逃げる。



「お坊っちゃま」

「すー、すー…」


今起きてたくせに、寝たフリなんかして…。
どうやらお坊っちゃまは私に会いたくないみたいだ。そうよね。お世話係も辞めさせたんだし。



「寝てるなら仕方ないですね。失礼しました…」


私がベッドから離れて、ドアの方に向かっていたら、後ろから勢いよく抱きつかれ、私はその場に倒れ込む。



「痛たた…」


床が絨毯だったから、怪我はないけど、いきなり後ろから抱きつかれるのは危ない。部屋の中も薄暗いんだから。何かに当たって怪我したら大変だ。

それなのに、私の腰にしがみつく小さな腕が離すまいと力を強くする。



「お坊っちゃま…」

「ヤダ!!」

「体を起こしたいので、一旦、離してくだ…」

「嫌だ!オレが離したら、行っちゃう!だから、離さない!!」

「行きません」

「嘘だ!行っちゃうくせに!オレを置いて…!オレを独りにして、いなくなった!!」


泣いてるのか、小さな腕が震え出した。
こないだのことを言っているんだろう。私も怒っていて、周りが見えなかったからな。私を責めるくらいお坊っちゃまには、ショックだったのだろう。



「行きませんから。だから、一度だけ離してください。ね?」

「……本当に行かない?」

「はい」

「じゃあ、約束して」

「約束?」

「オレの世話係になって。ずっと、ずーっと傍にいて。オレ以外の誰かの世話係なんてならないで」


ずっとお坊っちゃまの傍にいることは無理だろう。でも、今そんなこと言ったら、お坊っちゃまは絶対に拗ねる。更に悪化しかねない。

そう遠くない未来にお坊っちゃまの傍から私はいなくなるだろう。その日までは傍にいよう。



「わかりました」

「じゃあ、指切りしよう」

「いいですよ」


小指を絡め、約束をする。



「嘘ついたら、結婚して」

「はい?」

「嘘つかなくても、結婚して」


おかしいな?私の知ってる指切りと違う。今の指切りって、そんな感じに変わったの??



「お坊っちゃま?」

「だって、結婚したらずっと傍にいられるんだろ?」

「確かにそうなんですけど、傍にいるのと結婚はまた違うような…」

「……」


睨まれた!
薄暗いけど、お坊っちゃまが私を睨んでいるのだけはわかった。



「約束!」

「はい、わかりました!約束しますから」

「絶対だか……ら…」

「お坊っちゃま?」


その時、部屋の明かりがついた。振り向くと、アガットさんが私の作った料理が乗ったトレーを持ちながら、部屋に入って来た。



「お坊っちゃま、眠ってしまったようですね」

「……本当だ」


小指を絡めたまま、私の膝の上で嬉しそうな顔で寝息を立てていた。



「やっぱりお坊っちゃまは、アリスさんが一番なんですね」

「いや、そんなことは…!」

「俺もお坊っちゃまには懐かれてはいるんですが、ここまで甘えてくることはないです」


そうなんだ。
私に弟はいないけれど、弟がいたらこんな感じなのかな。



「こんなに慕ってくれるなら、嬉しいです」

「慕う?」

「はい。お坊っちゃまは兄はいますが、姉はいませんしね。私のことも姉みたく思ってくれていたんですね」

「いや、ハルクお坊っちゃまは…。ここまで鈍感だったとは思わなかったな」


アガットさんが小さく何か言っていたが、よく聞こえなかった。何が言いたかったのかな?










ドアの近くでは、アリスとアガットの会話は聞こえてないが、兄弟達にもアリスとハルクが仲直りしたことはわかった。



「良かったね。」

「世話が焼ける弟…」

「オレよりもガキなんじゃない?」

「そうかもね」


そこへリクがやって来た。心配で様子を見に来たのだろう。



「ハルクは…?」

「上手くいった」

「良かった…」


彼もホッと胸を撫で下ろす。



「さて、問題は解決したから。俺達はこの騒ぎを起こした元凶を懲らしめにいこうか!」

「賛成!」

「え、元凶??」

「ライだよ!ライ」

「あの弟にはお仕置きをしないと!リクも行くだろ?」

「そうだね。少しは懲らしめないといけないね、ライは…」


早速、4人はライの部屋に向かった。

それからライの悲鳴がアリスの耳に届いたのだが、気にも止めず、ベッドで眠るハルクの寝顔を見つめていた。





【END】
(2022.02.24)
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