小ネタ集2




❰弟❱

一方。
本邸の談話室では。



「えー!アリスをお世話係から辞めさせちゃったの!?」

「言い合いになって、つい世話係いらないって言っちゃったんだって。アリスから鍵も返されたみたいだよ」

「で、それからずーっとあのままなわけ?」


談話室の隅にうずくまってるハルクの姿。この世の終わりだと言わんばかりのような表情にカルロとタスクは…。



「すぐ謝りに行けってオレ言ったんだよ?なのに、あそこから全然動こうとしないし」

「うーん、怖いんだろうね。アリスのところに行って、拒絶されたらって考えちゃって…」

「本当にバカじゃねーの、コイツ。辞めて欲しくないなら、言わなきゃいいのに…」

「素直になれない年頃だからね、ハルクは」


すると、タスクは立ち上がり、うずくまったままのハルクの前にやってくる。



「そこでうずくまってる暇あんなら、早くアリスのところに行けよ」

「……行けない」

「素直に謝ったら、許してくれるって」

「……許してくれなかったら?」

「うざっ。そんなのアリスに聞けよ」


泣きそうな顔で俯くハルク。そんな態度にタスクが苛立ちを越え、怒り出す。



「本当にイライラする!アリスと仲直りしたくねーなら、ずっとそのままでいれば?」

「!」


そう言われて、ハルクは談話室から出て行ってしまった。その直後、入れ代わるように談話室に入って来たのは、リクとドラの二人。



「今、ハルクが出て行ったけど、何かあった?」

「ハルク、泣いてたよ。またからかってたの?」


二人の視線がカルロに向かい、彼は慌てて否定をする。



「俺は泣かしてないよ。で、ハルクはどっちに行った?」

「右」

「やっぱり自分の部屋に戻ったか。使用人の屋敷には行くわけないよね」

「行くわけねーじゃん。あの意気地無しが」


イライラしたタスクがひとり呟く。
リクとドラは何のことだかさっぱりわからず、二人で顔を見合わせた。





アリスがハルクの世話係を辞めてから、10日が過ぎていた。その間に彼女が本邸に来たことは一度もなくて、当然ハルクに作っていたお菓子も渡しに来ることもなかった。更に…。



「ねぇ、まだ仲直りしてねーの?」

「そうみたいだね…」

「ハルク、部屋から出なくなっちゃったからね」


アリスが来なくなってから、ハルクは自分の部屋から出て来なくなってしまった。兄弟達が何度か部屋に訪れても、ハルクは出て来ず、彼の執事であるアガットが代わりに出て謝るだけだ。

食事もスープくらいしか取らず、まったく何も食べなくなってしまった。あんなに元気だった彼の変化に邸内でもあっという間に知れ渡った。

そこへハルクの様子を見に行っていたタスクが戻ってきた。



「タスク。ハルクは?」

「全然だめ。アイツの部屋に入って、ベッドから引っ張り出そうとしたけど、「もうヤダ!」って、部屋から出たがらない。アガットが言うには、あれから毎日他のメイド達が来てるけど、アリス以外嫌だってハルクが追い返してるってさ」

「当然、メイドの方からもアリスの耳には入ってるよね。来ないってことは…」

「お世話係に戻るつもりはないんだろうね」


最初はもしかしたら、向こうのシフト関係で本邸に行かせないように気を遣われているのかもしれないと考えていた。
しかし、カルロが数人のメイド達にさりげなく聞いてみるが、そうでもないらしい。



「アリス。本邸の鍵を持っているから、こっちの掃除を任せられるらしいけど、別のメイドに交代してもらってるみたいだよ」

「避けられてんじゃん」

「アリスと仲がいいベゴニアに聞いたんだけど、本邸の鍵をメイド長に返そうとしたらしいよ。でも、まだ正式にお世話係の退任が決まってないから持っていなさいって言われて、まだ持ってはいるんだって」

「ハルクの部屋の鍵は返してきたってさ。ハルク、泣きながら言ってた。少し前まで全然泣かなかったアイツが、今ではこっちが引くぐらい泣いてんだよ!?」

「アイツ、そんなに泣いてんの!?ガキじゃん…」

「それくらいショックを受けてるんだよ。ハルク、打たれ弱いから。執事長とメイド長達で今後どうするか話し合ってはいるんだろうね。ハルクの現状も聞いてるだろうし…」

「うーん、流石にこのままだと親父の耳に入るかもな…」

「もう入ってるでしょ。執事長が毎日家のことを報告してるんだから」

「そうなると、親父が出てくる前に解決しないとだよね」

「オレ、いい方法があんだけど!」

「何?タスク…」

「すっごい悪巧みな顔してるけどね」

「これにはリク兄の協力がいるんだけど…」

「僕?」

「そう。アリスが来たがらないなら、来させるようにすればいいんだよ」


タスクがある計画を話し出した。



数時間後。
昼食を終えたアリスは買い出しを頼まれて、支度をして、使用人の屋敷を出ていた。





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