小ネタ集1
❰カルロ様親衛隊❱
仕事を終えて、使用人の屋敷に帰ってきた。
食事は向こうで食べてきたから、お風呂に入ろうかな。そうと決めて、着替えを取りに行こうと歩き出した時、
「わたくし、ちゃんとあなたに言いましたわよね?」
この声って、テラコッタ?
声が聞こえた方に向かってみる。
「カルロ様と二人きりになったら、報告をしなさいと」
「はい、言われました…」
「なのに、何故報告をしに来ないのですか!」
テラコッタが目の前にいる女の子に怒る。すると、女の子は頭を下げて謝っていた。
「すみません!疲れてしまって、つい報告を忘れてしまいました…」
「皆、同じように仕事をしているわ!あなただけではないのよ」
「そうよ!忘れたなんて許されないわ!そうですよね?テラコッタ様」
「その通りですわ!!」
テラコッタの後ろにも女の子が二人いて、三人で一人の子を責めていた。あまり見ていて、気持ちのいいものではない。
あれがベゴニアが言ってたカルロ様親衛隊か。というか、報告するって?何を??二人きりになったから?それは報告して、どうなるの。二人きりだからって、何か起こるわけでもないよね?ま、あの方が迫ってきたなら、話は別だろうけど、そんな話をあの人達にしたら怒りそう…。
少しその場にとどまっていたら、そのうちの一人が私に気づいたようで、真ん中にいたテラコッタに耳打ちする。すると、テラコッタが私の方に振り向いた。
「あら、ハルク様のお世話係のアリスさんではありませんか?こんな時間まで大変でしたわね」
「ハルク様に気に入られて、お世話係になったのよね。しかも、手作りのお菓子で釣るなんて」
「ハルク様はまだ子供だから、お菓子で釣れると思ったのかしら?」
「そんなこと言われても、お菓子を気に入ったのはお坊っちゃまの方なんだし。釣るって言い方はおかしいわよ」
「何ですって!」
「ま、いいじゃありませんか。カルロ様が食べるわけではないのですから」
「そうですね!テラコッタ様」
「そうですよ!カルロ様は大人なんですから」
そう言って、親衛隊達は言いたいことだけ言って去ってく。いや、カルロ様もお菓子を食べてるから。言ったら面倒になるから黙っていよう。
はあー。何か更に疲れた気がする。テラコッタ達に責められていた子は、いつの間にかいなくなってるし。早くお風呂に入ろう。
部屋に行き、着替えを持ってから、私は使用人用のお風呂へ向かった。
お風呂場に着くと、丁度来たばかりのスマルトと出くわす。そして、さっきあったことを一緒にお風呂に入りながら話した。
お風呂は私達で最後なのか、他に誰もいなかった。
「アリスも見たんだ。あの親衛隊」
「見たよ。てか、カルロ様と二人きりになったら、どんな報告するの?「見つめられてしまいました」…なんて言うの?その方が怒るんじゃないの?あの人達」
「アリスの言いたいことはわかるわよ。でも、あの人達には通じないから。特にテラコッタには…」
「カルロ様親衛隊じゃなくて、カルロ様同担拒否部隊に変えた方がいいんじゃない?」
「言えてる。一緒にキャーキャー騒ぐんじゃなく、完全に同担拒否の感じだからね、あの親衛隊は。「あなたの愛はそれだけ?わたくしの方があなたよりも倍…いえ何十倍、何百倍もカルロ様を愛してますわ」とかテラコッタは言うでしょ」
「スマルト、今の似てた!」
「ふふ。私、モノマネは得意なのよ!」
スマルトはこの屋敷内にいるメイドや執事、使用人達のモノマネを次々と披露していく。全部本人と見間違うくらいソックリで大笑いしてしまった。
「テラコッタがカルロ様は私の作ったお菓子なんて食べないとか言われたんだけど、あの人、結構食べに来るんだよ。お陰でお坊っちゃまが私に言ってくるんだから」
「ハルク様か…。「カルロのいねェところでお菓子を用意しろ!」……こんな感じかしら?」
「セリフといい、声までまったく同じ!」
見てたの?と言うくらいにスマルトのモノマネは似ていた。
だって、お坊っちゃま。次からはカルロが来ない場所で食べようってうるさいんだもの。こないだ、ガトーショコラをカルロ様が食べる度にお坊っちゃまが私に訴えてくるし。お菓子がなくなっちまう!アイツ、止めろよって…。
「ハルク様はアリスのお菓子を独り占めしたいんでしょうね。…ま、お菓子だけじゃなくて、作った本人もなんだろうけど」
「そんなことはありません。お坊っちゃまは完全にお菓子しか見えてないから」
「そう思ってるのは、アリスだけだって。あ、そろそろ上がろうか。就寝時間までに戻らないと注意されちゃう」
「そうだった!急ごう」
私達は慌てて、お風呂から出て、急いで着替えるとそれぞれ自分の部屋に戻った。
翌日。
お坊っちゃまの部屋の窓を拭いていたら、「カルロ様!」と呼ぶ声。この声って、テラコッタだよね?
そちらに向いてみると、テラスのところにいたカルロ様にテラコッタと親衛隊のメンバーが数人いて、話しかけていた。珍しくカルロ様の執事であるアンバーさんの姿はない。たまたま今、いないだけなのかな?
「何見てんだよ」
「うわっ!…驚かせないでくださいよ!」
お坊っちゃまがテラスにいるカルロ様とテラコッタ達を見て、「あの女…」と呟く。
「あの真ん中にいるヤツって、いつもカルロ、カルロって甲高い声出してるうるせェメイドだよな?」
「うるせェメイドって、確かにそうなんですけどね…」
「カルロとリク兄は知らねェけど、それ以外の兄弟は全員アイツが嫌いだし」
だろうね。私もテラコッタは苦手だ。
入って来たばかりはそんなでもなかったのに、お坊っちゃまの世話係になってから睨まれるようになって、カルロ様に話しかけられるようになってからは完全に目の敵にされるようになって、絡んでくるし。
「カルロ様親衛隊か…」
「何だ、それ?」
「今カルロ様と話してる人達がそう呼ばれてる人達の集まりなんですよ」
「わけわかんねェ…」
お坊っちゃまが理解出来ないって顔をしていた。私はリク様以外は興味ないけれど。
でも、リク様のことを話せる相手がいたら、楽しいんだろうな。そこは親衛隊が羨ましいかも。
ベゴニアやスマルト辺りにリク様のこと語っても、まともに聞いてくれないし。それが悲しいのよ。
「…いいな」
「何が?」
「私もリク様の親衛隊を作りたいなと思いまして…」
「リク兄、嫌がるぜ」
「そうですよね…」
リク様に迷惑かけるだけか。
でも、次に新しくメイドが入る時にリク様の話を出来る子が入って来たらいいな。
【END】
(2022.02.23)
4/4ページ