小ネタ集1
❰ティータイム❱
とある日曜日の午後、テラスにて。
テーブルにカルロとリクが向かい合って、座っていた。カルロの執事が二人の前にカップを置き、紅茶を注ぐ。
最初に口を開いたのは…
カ「リク、知ってた?最初はハルクとリコリス嬢で婚約させるはずだったらしいよ」
リ「あそこのご令嬢にハルクが気に入られたからでしょ?以前からパーティーの時によくハルクの傍にいたし。父さんとしても、前からあそこの家と繋がりは考えていたはず」
カ「そう。だけど、うちにリコリス嬢が遊びに来た時にタスクが一目惚れしちゃって、変えたんだよ。変えたというよりはタスクが親父に直談判したんだけど」
リ「ハルクは何も言わなかったの?」
カ「言わないよ。むしろ、婚約は嫌だったから安心していたかな。リコリス嬢、結構可愛いのにね」
リ「異性として見てなかったんじゃない。ハルク、そういうのは鈍いから」
リクがカップを手に取り、口に含む。それを見ながら、カルロは笑う。
カ「昔からそういうところはあったね、ハルクは。女の子に好かれていても気づかないことはしょっちゅうで、怒られていても全然わからない」
リ「見ているこっちは何で気づかないんだってなるんだけどね。それくらい鈍感…」
カ「兄弟で一番色恋に鈍いのは、ハルクかもね。ま、そんなハルクにもようやく自覚が芽生えた。そんなアイツを意識させたのは…。リク。アイツのお世話係は誰だっけ?」
リ「アリスさんだよね」
リクがカップを置きながらそう答える。
カ「そう。お前の大ファンのアリス。噂によると、荒れていたハルクを元に戻したのは彼女らしいよ」
リ「……アリスさんが?」
カ「そう。家でも学園でも暴れて大変なことあっただろ?お前もアイツを止めようとしてケガした時が…」
リ「あれは大したケガじゃないよ」
カ「治りに随分時間がかかっていたけど?」
リ「ハルクには言わないでね。気にするから」
カ「はーい。話は戻すけど、あの暴れん坊が今では彼女にお菓子、お菓子って言ってるんだよ?人生って本当にどうなるかわからないよね…」
リ「そうだね。でも、あの頃の誰でも傷つけていたより、楽しそうにいるならそれでいいと思うけど」
カ「同感。ハルクがアリスにお菓子を作ってもらってるのは知ってる?」
リ「よくハルクがアリスさんにお菓子を作ってって催促してるのは見たよ。多分、知らない人はいないんじゃない?」
カ「あれね。やり取りが漫才みたいでおかしくてさ。見る度に面白いんだよ、あの二人…」
リ「兄さんとタスクがいつも笑っていたね。僕にはそこまで笑える方がよくわからないんだけど」
カ「面白いじゃん。それでいつからか、ハルクがアリスにお菓子を作ってもらえるようになったんだけどさ。何回か食べてるところを見かけたんだよ。ハルクが嬉しそうに食べて…」
リ「そうなんだ…って、まさか、カルロ兄さん…」
カ「まだ言ってないんだけど」
リ「アリスさんが作ったお菓子を勝手に食べたんでしょ?そしたら、ハルクが怒り出した」
カ「まるで見ていたみたいに言うね、リク」
リ「見てなくてもわかるよ。カルロ兄さんがやりそうなことは」
リクが再びカップを口に運ぶ。カルロはそれを見ながら、頬杖をつく。
カ「一つくらいいいかなと思ったんだよ。そしたら、結構おいしくてさ、つい手が伸びちゃったんだ。そしたら、ハルクが「これ以上は食うな!すげー減ってるし!もうやんねェ!!」って怒ってお菓子を隠すんだよ。ひどくない?」
リ「だから、嫌がったんだよ…」
カ「アリスの方も俺達を見ながら呆れてたよ」
リ「アリスさん、そんな顔するの?見たことないな…」
カ「リクの前では絶対にしないだろうね。あの子、お前以外の兄弟には結構ドライだから。いや、ドラにはそうじゃないかな。リクは一体、彼女に何をしたの?」
リ「……。さあ?どうだったかな。さてと、これから出かけるから、僕はこれで」
リクがカップを置き、イスから立ち上がる。カルロは少し驚きながら言った。
カ「今から出かけるの?」
リ「うん。じゃあ、カルロ兄さん。ごちそうさま。また誘ってね」
そう言い、リクがテラスから去って行く。姿が見えなくなってから、カルロが呟く。
カ「……食えないなー。リクは」
ア「それはあなたも同じでは?」
カ「血の繋がった兄弟だからね。ライは簡単だけどさ、リクはそう簡単じゃないよ。なかなか本心は見せない」
ア「皆さん、兄弟では?」
カ「俺とリク、ライは同じだよ。同じ母親から生まれたね。でも、下の三人は母親が違う。タスクとハルクは同じだったかな?ドラはまた違う母親だ」
ア「それ、私に話しても良かったのですか?」
カ「別に隠す話でもないよ、アンバー。でもさ、あの親父なら隠し子がいてもおかしくないかもね」
ア「カルロ様、そういうことは言わない方がいいかと」
カ「なんで?そのうちにひょっこりと現れるかもしれないよ?」
そう言って、彼は胸のポケットから写真を取り出す。そこには目つきが悪く、耳に何個もピアスを開けた少年が写っていた。
カ「吉と出るか、凶と出るか。君はどっちだろうね?」
一方、玄関を出ると、既に車が待機していた。そこにリクが向かうとリクの執事であるクロッカスがドアを開ける。
「リク様」
「ごめんね。待たせちゃったかな?」
「いえ、問題ありません。どうぞ」
「ありがとう、クロッカス」
そう言って、車に乗り込む。クロッカスはドアを閉めると、運転席に乗り込み、シートベルトをしてから車を発進させた。
リ「カルロ兄さんは気になって、仕方ないんだろうな」
ク「何をですか?」
リ「さっき、テラスで一緒にお茶を飲んでたんだ。少し話もして、そこでアリスさんとのことを聞かれてね」
ク「話されたんですか?」
リ「まさか。話してないよ」
ク「だろうと思いました」
リ「この話は誰にも話す気はないよ」
窓の景色を眺めながら、彼は思う。
(きっと彼女は僕に助けられたと思ってる。でも、僕も彼女に助けられたんだ…)
リ「クロッカス。着くまでにまだ時間あるよね?」
ク「ええ。少し渋滞もしているようなので」
リ「それじゃあ、少し休んでもいいかな?着いたら、教えてくれる?」
ク「かしこまりました」
眼鏡を外し、落とさぬように横に置き、目を閉じる。
(そういえば、あの夢を見なくなったな。彼女と出会ってから…)
夜、眠る度に見ていた悪夢。
なかなか眠れず、たとえ眠れていても悪夢で何度も起こされて、睡眠薬を使わなければ眠れない日もあった。それが今ではまったく悪夢を見なくなった。睡眠薬も飲んでいない。
(……アリス。彼女を見ていると、何故か…)
彼はそう思いながら、静かに眠りに落ちた。
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