小ネタ集1
❰試験結果❱
学園から帰って来たお坊っちゃまは、私のところに来るなり、俯いたままの状態で、
「テスト、全部返って来た…」
そう呟く。
いつもの元気はどうしたのよ。何で今日に限って、こんなに静かなの。
すると、鞄から取り出すと、裏面に向けた答案用紙を渡される。
「……はい」
「見ていいの?」
黙って頷くお坊っちゃま。
あんなに勉強したのに、だめだったのか。
私が一つでも満点を取り、なおかつ全教科80点以上取ることなんて求めたから。厳しくし過ぎたのかな。ベゴニア達にも言われちゃったし。
「勉強を頑張っていたのはわかってるから」
「え…」
「リク様に教わりながら勉強していたのは聞いてたし、試験の結果がだめだったとしても、お弁当とお菓子は作ってあげるから!」
「……っ!」
「だから、元気出し…」
「あははは!」
お坊っちゃまはいきなり笑い出す。
一体、何がおかしいのよ。こっちは心配で…。
「答案、見てみれば?」
そう言われ、答案用紙をひっくり返した。
満点が1つ、それ以外は90点以上の点数がついていた。
「クリアしてるじゃない!てっきりだめだったのかと思って…」
「オレ、ダメだったってひと言も言ってねェし」
「帰って来た時のあれは何なのよ!」
「わざとに決まってんじゃん。お前の反応を試してたら、もうおかしくてさ!笑い堪えるの大変だったぜ」
「騙された…」
「クリアしたんだから、わかってるよな?」
「わ、わかってるわよ」
「約束通り、果たしてもらうから」
夜。
仕事を終えて、使用人の屋敷にある食堂で夕食を食べていたら、ベゴニアが隣にやって来た。
「アリス。今日だったんでしょう?で、どうだったの?ハルク様の結果は」
「……クリアしてた」
「やっぱりね。ハルク様はそれだけアリスと一緒にいたいのよ」
「一緒?」
私はお弁当とお菓子を作って渡すだけで、一緒になんて行かない。ベゴニアは何を言っているんだろう。
「何変な顔をしてるのよ。あんたがハルク様に言ったんでしょ?クリアしたら、お弁当とお菓子を作って、ピクニックに連れてってあげるって…」
「私が連れて行くの!?」
「あんた以外に誰がいるのよ…」
「あのくらいの歳の子なら、友達と行くはずだよ!」
「ハルク様は友達と行くって行ったの?」
「約束通り、果たしてもらうからとは言ってたけど」
「つまりはあんたでしょ?」
「……」
私が連れて行くのはスルーかと思ってたんだけど。だって、何も言わなかったから。
翌日。
お坊っちゃまの服をたたみ、引き出しにしまっていると、話しかけられた。
「お前の休み、次はいつなの?」
「休み?」
「連れて行ってくれるって行ったじゃん」
やっぱり私が連れて行くんだ…。この邸内じゃだめなのかな?
「邸内で食べるのは?」
「絶対嫌だ。からかわれるし、お前の作った弁当を狙って来るヤツいるし」
「そんなバカな…」
からかわれるのはわかるとして、ここの人達は、プロの料理人の作った食事を毎日食べてるんだから、私が作ったのなんて欲しがらないでしょう。
「邸内だとピクニックじゃねェし。邸内はナシだからな。絶対に外!」
「じゃあ、ピクニックは友達と行ったらどうですか?お弁当とお菓子は作りますから」
そう提案したのだが、静かに睨まれた。
何で!?私と行くよりはいいじゃない。友達との方が楽しいし。何で嫌なの!?
「嘘つき!オレ、お前が言ったの全部クリアしたじゃん!ちゃんと約束、守れよ!」
「……わかりました。連れてきますから、場所に文句は言わないでくださいよ?」
「うん!言わねェ!!」
はあ。
でも、流石に近場だと何言われるかわからないから、場所は決めておこう。それからメイド長に相談して、車を使用していいかを聞こう。お坊っちゃまの外出許可もいるだろうしね。車を借りられたらアガットさんに、運転を頼もう。お坊っちゃまの執事だし。
さて、お坊っちゃまをどこに連れて行くかな…。
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