Riku(叶)

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ふと目を覚ますと、車は停まっていた。
周りを見回せば、自分の屋敷に着いていた。運転席にクロッカスの姿がない。

変だな。いつもなら、僕を起こしてくれるのに…。何かあったのかな?
なんて、思いながら、車から降りて、立ち上がる。身体は、まだ少し怠さが残っていた。もう夜は食べずに、シャワーだけ浴びて寝よう。

自分の部屋へと歩き出そうとしたその時、



「リク様」


背後から誰かに声をかけられた。
この声は───思わず振り返ると、アリスさんが立っていた。



「アリス、さん…」

「おかえりなさい。リク様!」

「……ただいま、帰りました」


五日ぶりにアリスさんと会った。
あの場所にいた時、一番会いたかった人。行為中は、ひたすらに彼女のことだけを考えていた。

おかえりなさいなんて、屋敷に帰れば、必ず聞く言葉なのに、今日はそれを聞いただけで涙が溢れた。しかも、それを言ってくれたのは、アリスさんだ。それで僕は、ようやく帰って来たという実感が出来た。



「リ、リ、リ、リ、リク様!?だ、だ、だ、大丈夫ですか!?どうしましょう!ハンカチ、ハンカチ…私、持ってたよね…」


涙を流す僕にアリスさんが慌て、ポケットにハンカチがないかを探している。その姿に僕は、ついおかしくなって、吹き出した。



「……ぷっ!はは、あははは!」

「リク、さま…?」


僕にハンカチを差し出しながら、アリスさんが困惑していた。それを受け取りながらも、笑いは治まらない。



「す、すみません。アリスさんを見てたら、つい…ははは!」

「え、私を見て、笑うんですか?……Σまさか、私の顔に何かついてます!?え、それは困ります!」


アリスさんが見当違いなことを言うから、僕は更に笑いが止まらなくなった。アリスさんは、汚れてもないのに、エプロンで顔を何度も拭っていた。

あんなことがあったのに、僕は笑えたんだな。笑えないと思っていたのに…。


きっと僕はアリスさんがいるから、笑えるんだ。じゃなきゃ、ずっと笑えないまま、あの場所での記憶に苦しめられていたはずだ。



「ありがとう、ございます。アリスさん……ふふっ」

「そう言いながら、笑ってますよ!リク様。……でも、リク様が楽しいなら、私はいつでもピエロになります!どんどん笑ってください」


僕の好きな笑顔で、彼女はそう言ってくれた。

やっと自覚が出来た。

やっとわかった。

僕は、彼女のことが好きだと───。





【END】
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