特別番外編Ⅲ
あの頃の僕は、いつもカメリアからの連絡を待っていた。僕からは毎日連絡していたけど、彼女はあまり返事をしてくれなかった。
だから、彼女から会いたいと連絡があった時は、いつも嬉しかったんだ。
大好きな彼女に会えるから。
土曜日の夜。
久々に婚約者のカメリアと食事していた。
このレストランは、カメリアと会う時に必ず来るところで、僕もカメリアも気に入ってる。
デザートを食べ終えた後、カメリアはパウダールームに向かった。その隙に僕は店員を呼び、会計を済ませる。支払い終え、一人席にいた僕は、この後のことを考えていた。
レストランを出たら、僕の家に来て、泊まる。久々に彼女と…。夜のことを想像していると、高鳴る胸とそれに反応する下半身。ヤバイ。ちゃんと用意してたっけ?でも、アレがなくても、僕達は将来一緒になるわけだし。なくても、問題はない。
そこへカメリアが戻って来た。
「セセリ。そろそろ出ましょう?」
「そうだね」
立ち上がり、レストランを出る。駐車場に待たせてある車に向かおうとしていたら───
「カメリア。今日はうちに泊まっ…」
「ごめんね。この後、約束してるの」
「約束…?」
「そう。だから、今日はここでね。じゃあね」
僕に軽くキスをして、カメリアは駆けていく。
きっとカメリアは、他の男の元に向かった。婚約者である僕ではなく…。
くそっ!
その相手が気になった僕は、すぐに後を追う。追ってみれば、カメリアが路肩に停めてあった車に乗り込むのが見えた。あの車は見たことがある。
運転席にいたのは───ブラッド・ドルチェだった。
またドルチェ家の男か!
カメリアは、色んな男達と遊んでいるが、特に多いのがドルチェ家の男達。先日はエドヴァルド、その前はライ、少し前にもスミレとも会っていた。この4人とは、身体の関係を持っていることも僕は知っている。
以前、カメリアが僕の部屋にスマホを置いていってしまったことがあって、見ちゃいけないとわかっていても、誘惑に負けて覗いてしまった。
そこには、ベッドの上や中で色んな男達と裸で映っていた写真が沢山あって、ドルチェ家の4人のもあったのだ。
前々から彼女が男と遊んでいるのは、知っていた。何度か、彼女を問い質したこともある。その度に彼女は言った。
“私にはあなただけ。あなたが一番”だと───
そう言われた時は、嬉しかった。僕が一番ならば、彼女の火遊びくらい許せるくらい心の広い男でいようと。
だが、それもそのうち疑心が生まれた。
本当に彼女は、僕を一番に思っているのか?ならば、何故他の男の元に行くのか?
答えは、簡単だ。
僕だけでは満足出来ないからだ。そう考えれば、辻褄があう。
僕は、カメリアにとって、都合の良い男としか思われていなかった。現に彼女が僕と会うのは、二ヶ月に一度程度。その一度ですら、互いを求め愛し合うこともなく、その日に別れるのだ。
僕は君だけを愛しているのに、君には届いていないんだ。涙が頬を伝う。
ショックでうちしがれていた時、背後からコツコツと靴音がした。
「だから、言ったでしょう?」
「エルシー…」
「カメリアは貴方のことなんて、一番に考えてないわ。結局、あの人は自分が一番なのよ」
否定したいが、否定出来ない。自分でもわかっていたから。
すると、エルシーが僕に笑いかける。
「セセリ。貴方も同じことをすればいいのよ」
「え…」
「だって、貴方はずっとあの人に裏切られ、傷つけられてきたのよ?」
「だからって…」
「このままでいいの?」
エルシーにそう言われ、僕は考える。
僕もカメリアと同じように他の女と?……駄目だ。僕はカメリアを裏切るわけにはいかない。そんなこと出来ない。
だけど!
カメリアは僕が一番だと言いながらも、他の男ばかりを優先する。それはどうなんだ?結婚してからも同じようにされるかもしれない。それなら、今僕が他の女と遊んだって問題はないよな?カメリアだって、楽しそうに遊んでいるのだから。
「セセリ。どうする?」
「………」
「セセリ?……………んっ」
目の前にいるエルシーの唇を奪う。彼女は一瞬、驚いた顔をしたが、僕を受け入れてくれた。
「カメリアが裏切るなら、僕だって…」
「そうよ。カメリアに縛られることはないの。貴方は貴方の人生を歩めばいい」
「ああ!」
再度、エルシーと唇を重ねる。先程よりも深く激しく求め合う。
そして、盛り上がった僕らは一晩を過ごした。
不思議なものだ。本当ならば、カメリアと過ごすはずだったのに…。
「セセリ」
「エルシー」
僕の名を呼び、両腕を僕に伸ばしてくる。呆然としている僕を再度呼ぶ。
「セセリ。抱いて?」
「………っ」
エルシーがとても可愛らしく映った。抱きしめると、唇を重ねた。
僕らが再び繋がったのは、言うまでもない───。
これをきっかけにエルシーとの関係も始まり、更に別の色んな女とも関係を持ち始めた。幸い、僕の顔は女に好かれやすかったから、簡単だった。
カメリアの連絡を待つだけの僕は、もういない。僕は生まれ変わったんだ!
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