特別番外編Ⅱ
【side Smalt】
誰も知らない。
私があの人と“関係”を持っていることは。
誰にも言わない。
友達も、唯一の家族である兄にも。
どうして、こうなったのかわからない。
あの日、近くにいたメイドがたまたま私だったから選ばれただけかもしれない。
最初は拒否しようとした。
だが、この人を拒めば、どうなるかを考えた。拒否する人自体、あまりいないけど、稀にいた。そして、見てきた。この人を拒否した相手がどうなったかを。
─────容赦なく壊された。
その人自身も、その人の大切な人達をも巻き込んで。
私が拒めば、おそらく私の大事な人達に何かする。それだけは間違いない。あの人は、そういう人だ。自分の息子達にさえも容赦などないのだから。
───あの人の傍にいる“彼”にまでも、何かあったら…。それだけは避けたい。
私は大事な人達を守るためにあの人を受け入れた。
別に初めてでもなかったから、行為自体には何も感じなかった。
それからもたまにあの人から連絡が来るようになり、呼び出されれば、私は向かう以外に選択肢はない。ドルチェグループの系列のホテルに呼び出されることが多かった。あの人が仕事であちこち飛び回っているからだろう。
「スマルト」
「何?」
「あんた、顔色悪いわよ。具合悪いの?」
「え」
そう心配そうに声をかけてくるベゴニア。隣のアリスも心配そうな顔で私を見つめていた。私は笑顔で否定する。
「そんなことないわ」
「……。スマルト。ちょっと額、触るね?」
「ええ」
アリスが近づき、私の額に手をあてる。自分の額と私の額の熱を比べていた。
「うーん、熱はないみたいだね。だけど、具合悪いなら、休んでていいよ!ここは私とベゴニアでやっちゃうから」
「平気よ。ちょっとボーっとしただけだから。ありがとう。二人共」
「わかった。でも、具合悪い時はさっさと言うのよ?」
「うん」
こんな私にも心配してくれる友達が出来た。この二人を私のせいで、傷つけられたくはない。私は二人を守りたいんだ。
二人だけじゃない。兄さんも、他の人達も。もう失いたくない。お父さんやお母さんのようになってしまうのは…。
あの人との関係は変わらず続いて、既に半年が経過していた。
あの人に抱かれながら、私はふと感じたことがあった。彼は私が嫌がったり、拒否したりすると、嗤うのだ。そして、こう言う。
「俺をようやく受け入れる気になったか?……エメラルド」
「エメラルド?私は…」
「……っ」
エメラルドは、私の母の名前だ。
何故、彼は私をそう呼んだのか。どうやら自分でも無意識だったらしい。我に返ると、私から離れてしまい、ベッドから下りるとバスルームへと向かってしまう。
エメラルド・ティラミス。
しかし、それは結婚した後の名前。結婚する前は、スノーホワイトだった。アガットさんと同じ。
確か、アガットさんの父親であるコーラル伯父さんとは双子で、左右対称の目のことでよくいじめられていた彼を母が守っていたらしい。母も左右対称だったが、彼とは色が少し違っていた。
そんなある日。
例のように呼ばれた。珍しく屋敷の部屋まで来るように言われた。幸い、兄さんは出張でいない。部屋に行くと、あの人は私を迎える。
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