特別番外編Ⅰ
【side Ash】
中庭で双子の弟のエボニーの後ろ姿が見えたから、声をかけようとした。だが、声をかける前にエボニーが一人ではないことに気づく。
誰かいる?俺は思わず隠れて、エボニーの隣にいるやつを確認する。
てか、エボニー、顔が赤くないか??もしや女?
その時、エボニーが誰かと抱き合い、キスをした。流石に身内のラブシーンは見たくなかったが、同時に相手の女の顔が見えた。その相手を見て、俺はその場から立ち去った。
なんで。なんで、よりにもよって、あの女なんだよ!
時は、数日前に遡る───
「アッシュ。ぼく、好きな人がいるんだ」
「……………は?」
それは、片割れからの突然の告白だった。
「好きな人?」
「うん。カメリア様が好きなんだ」
しかも、相手はよりにもよって、アメジスト様の妹の娘であるカメリアだ。ロクな噂を聞かねーのに。何であんな女を好きになったんだよ!他にもいるだろ。
「あれのどこがいいんだよ!確かに顔やスタイルは良いが、中身は最悪だぞ!?」
「そんなことないよ。カメリア様は素敵だよ」
「……」
そう話すエボニーに俺は、言葉を失った。
これはマジであの女に恋してる。俺からしたら、好きになる要素はない。あれのどこが…?良いのは顔とスタイルだけだろ。確かにあの女、男の使用人には挨拶したり、声をかけてくるからか、他のやつもあの女に対しての評判は悪くない。
だが、使用人の女達からの評判は最悪。女は無視するらしく、あのうるせー集団のテラコッタ達が怒ってるのはよく見ていた。他の女達もあの女に関しては、普段そんなことを言わないやつでさえも、苦手や関わりたくないと話していたっけ。あの温厚なジョーヌさんでさえも、静かに怒っていたからな。いつだったか、「あの女(アマ)…」って呟いてたし。
それにしても、カメリアかよ。無理…。
一人じゃ抱えきれなくて、誰かに話を聞いてもらいたくて、メイに連絡した。すると、メイから夜にこっちに来るとLIMEが入り、その夜の仕事が終わってから、俺の部屋に来てくれた。
「わざわざ悪い。メイ」
「いーって。今日は早めに終わったしさ」
俺は用意していた炭酸の飲み物をメイに渡す。メイは「ありがと」と受け取ると、すぐに開けて、一口飲む。俺も自分の分の飲み物を一口飲んだ。
メイの部屋は、こちらの一般の使用人達が使っている棟にはない。専属執事だけが集まっている棟があり、そこにある。兄貴の部屋も同じ。何度か入ったことはあるが、俺達の部屋とは全然比較になんない。給料から違うもんな。俺らの給料でも普通よりは高いのに…。
メイは、俺の部屋にあるイスを引き寄せて、ベッドの上に座る俺の近くに来る。俺はエボニーのことを話す。メイは口を挟むことなく、最後まで話を聞いてくれた。
「メイ。どうしたらいい?」
「エボくん、カメリア様の虜になっちまってんだー。意外。女王様みたいなのがタイプだったとは」
「俺も思った。それから毎日あの女の話を聞かされんだよ、こっちは」
「初めての恋に浮かれているんだね、あのエボくんが。でも、カメリア様からしたら、おそらく身代わりだろうな」
「身代わり?」
メイの台詞を思わず繰り返す。と、メイはその意味を教えてくれた。
「そ。エボくんって、少しアガくんに似てるじゃん?」
「俺よりかは、兄貴に近いかもな。でも、何でそこで兄貴が出てくんだよ」
「それは、カメリア様がアガくんを狙ってるからだよ。ほら、言うだろ?的を得んとするには、まずは馬を…っていうことわざが」
「エボニーは馬じゃねーよ!あんな優しい弟は他にいないだろうが!!」
「例えだって!アッシュもアガくんに似て、ブラコンなんだから」
アッシュも、ってなんだよ!俺はブラコンじゃない。ただ心配してるだけだっつーの。兄貴は俺らを含む弟達をすげー溺愛してるけど、あそこまでひどくねーし。ったく、メイのやつ。
「アッシュはカメリア様から声はかからないの?一応、アガくんの弟だし」
「一応じゃねーわ。マジの弟だっつーの!」
「で、どうなの?」
「挨拶だけだぜ。あ、そういえば、一度だけすげー至近距離で顔を近づけられたことあったけど、特に何もなかったな。好みのタイプでもないから、全然ドキドキもしなかったし」
「カメリア様、美人なのに?しかも、あの胸でノックアウトされるやつもいるんだよ。あー、アッシュはジョーヌさんがタイプだもんな!」
「そんなんじゃない!憧れてるだけだ!」
「ジョーヌさんも胸でかいし」
「メイ!!」
ニヤニヤとしながら、俺を見るメイを怒鳴る。俺は外見とかじゃなくて、中身で好きになったんだ!ま、確かにそういう想像もしなくはないけどさ。俺も男だし。
「カメリア様の話に戻るけどさ、最初はシトリン様から言われて、近づいたらしいよ。それがだんだん興味がわいて、アガくんを見たら、近寄るようになってるし。親子だから好みが似るんだろうね。アガくんも綺麗で色気のある顔してるし」
「兄貴の場合、黙ってればだろ」
「アガくんは話すと、また印象が変わるからね。女子達の間で、ギャップある癒し系って言われてるんだって」
「ギャップある癒し系?どこがだよ!兄貴はのほほーんってしてるだけだぞ」
「アガくん、ここの使用人女子の間で人気高いんだよ?グレン様やカルロ様に次いでなんだから。むしろ黙ってればは、アンくんだから」
「アンバーさんはそうだな。黙ってれば、な」
「アッシュもそう思ってんじゃん!でも、アンくんもあれでモテるんだよね。てか、22歳組の人気は凄いから」
「22歳組??」
不思議に思っていると、メイが教えてくれた。
22歳組とは、グレン様、カルロ様、セージさん、アンバーさんと兄貴の5人のことを指すらしい。
「確かに濃いわ。この5人…」
「でしょ?いつだったか、この5人が集まっているのを見た女子達がすげー騒いでたからね。アイドルのように」
騒ぐって、アイドルじゃねーのに。
兄貴、意外に自分の顔をよくわかってねーんだよな。前、一緒に出かけた時、困ってる女達がいたから、ただ声をかけただけなのに、いつの間にか逆ナンされてたし。その後、別れてから「皆、顔が赤かったけど、熱あったのかな?大丈夫かな?」とか呟いてたな。逆ナンされてること自体、わかってなかったわ。あの顔で天然はないだろ…。むしろ、あの顔なら女をめっちゃ食ってる雰囲気なのにな。
「……それにしても、シトリン様か」
何度か見たことはあるけど、美人ですげー色香で男を惑わせそうな感じがしたな。あの人に絶対狂わされた男は沢山いるだろうな。俺はああいうタイプが苦手だから、興味ねーけど。
てか、街でも男と一緒にいるの見たことあんだよ。毎回、男は違うし。あの女も母親に似たのか、見るたびに違う男と歩いてるのを見たことある。屋敷でもライ様やスミレ様と関係を持ってるしな。グレン様、カルロ様やリク様にも近づいているみたいだが、まったく相手にされないらしい。グレン様やリク様は難しいけど、カルロ様が相手にしないのは珍しいな。系統的にあの女も当てはまるはずなのに…。
てか、エボニー、あの女とヤッてねーよな?
「メイ。エボニーって、あの女と…」
「間違いなく喰われただろうね。てか、アッシュだって、見たんでしょ?エボくんがカメリア様とキスしてるところ」
「見たくなかったけどな!」
「カメリア様、気に入ればすぐ喰っちまうから。飽きたらポイだし。気に入ったとしても、あの人、基本的に飽きやすいから、長くは続かないんじゃない。ライ様は別だろうけど。あの二人はお仲間だから、続いてるんだし」
「ライ様だけじゃねーだろ。スミレ様も…」
「ライ様のことは気に入ってるけど、スミレ様はそうでもないよ」
え?だって、たまに一緒にいるところは見るぞ。
「スミレ様は、カメリア様を好きだけど、カメリア様は遊んでるだけ。他の男と立場は変わらないんだよ」
「最悪な女じゃねーか!てか、メイ。やけに詳しくね?」
「俺、一度だけカメリア様とヤッたことあるから」
さらっと爆弾発言しやがった。
メイの顔ならば、女には困らないだろうな。過去にも女がいたし。誰も長く続かないけど。
「って、はあああ!?」
「アッシュ、うるさ。俺もいつもなら受け流すんだけど、その時、すげーむしゃくしゃしてたから、ついヤッちゃったんだよねー。そしたらカメリア様に気に入られちゃって、これからも関係を続けないかって言われたけど、即断った。カメリア様、男慣れし過ぎてるし。一番にタイプじゃない」
「お前もある意味、すげーわ」
「うちの専属執事でカメリア様とヤッたことあるのは、あとはピアさんくらいかな。あ、辞めたマホさんもだ。皆、一回限りだけど」
あの女、手が早すぎだろ。
俺は流石に好きでもない女は抱けない。ましてや、カメリアとなんて嫌だ。
「あと意外なんだけど、エド様はカメリア様とはヤッてないんだよな」
「え、マジ?」
「マジ。エド様の場合もカメリア様はタイプじゃないんだよ。あの人、気の強い女はあんま好きじゃないからね。エド様、意外に庶民の女が好きみたいだね。うちの使用人に手を出してるから、何人かはセフレにしてるし」
「知ってる。てか、使用人に手を出してんのはライ様もだろ」
「ライ様は性別関係ないからな。気に入れば、男でも口説く。アガくんなんて、ひきつった顔を見せるから、余計にライ様に興味を持たせちゃうんだよ。
毎回抱きつかれて、身体を触られてるし」
「いや、お前もライ様に狙われてるだろ。何しれっと関係ないって顔して話すんだよ」
「アガくんよりは平気だよ。適当に触らせてれば、すぐに満足していなくなるし」
何度か見たことがある。メイがライ様に言い寄られているところを。メイは身体を触られても、嫌がりもせず、にこにこしていた。俺なら耐えられない。絶対に殴りそうになる。
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