未来if編 Ⅱ




目を覚ますと、アリスがいた。


「お坊っちゃま、大丈夫ですか?」

「……アリ、ス…」

「はい。どうしました?私の顔に何かついてます?」

今のは夢?だって、アリスは…。
でも、オレの目の前にアリスがいる。生きている。


「汗かいてるなら、着替え用意してありますよ。着替えますか?」

「平気…」

ベッドから体を起こした。
今までの全部夢だったのか?やけにすげーリアルだったけど。

やっぱりあれは夢だったんだ。そうだよな。アリスがいなくなるわけがない。約束したんだから。


「タオル、温くなってますね。ついでに水も取り替えてきます!」

「え?」

「すぐ戻りますから。お坊っちゃまは、寝ていてください」

「アリス。待って!行かないで!!」

だが、アリスは部屋から出て行ってしまう。

慌てて追いかけようと前に乗り出したら、体勢を崩して、ベッドから落ちた。


「……痛てっ!」

床から体を起こすと、オレは何も着ていなかった。用意されてあった服も落ちていない。ということは、今のも夢?顔を上げた。

違う。ここはオレの部屋じゃない。
女の部屋だ。オレのいたベッドに裸の女が寝ていた。

……なんだ。さっきのも夢かよ。
そうだよな。アイツはもういねェんだから…。


「……」

アイツがいなくなってから、夢を見ない日なんてない。いつもアリスの夢を見た。


「お坊っちゃま!」

オレを呼びながら、笑みを向けてくれる。

ずっと夢にいたい。夢から覚めなければいいのにと願っても、必ず覚めてしまう。夢の中でなら一緒にいられるのに…。


「アリス…」

「どうしました?」

「ずっと傍にいて!」

すると、笑っていたアリスが悲しい顔をする。


「それは出来ません…」

「なんで!?約束したじゃん!」

「約束を破ったのはお坊っちゃまでしょ?」

「えっ…」

「無理やり私を……したくせに」

「それは!でも、オレ…」

「言い訳なんか聞きたくありません!私はお坊っちゃまのことを許さない!!」

オレを睨みつけるアリス。
ずっと好きだった。誰かに取られたくなくて、先に奪った。一度奪ったら、ズルズルと関係を持った。オレだけのものにしたら、一緒にいられると信じていた。離れないと約束をしたから。

誰にも見つからないように、隠れてアリスを抱いた。オレの部屋が主だったが、たまに屋敷内のあまり人が来ない場所やうちの系列のホテルに連れ込んだりもした。成績は、どんどん落ちたけど、気にもならねェ。アリスさえいたら、それだけで良かったから。

それなのに、親父にアリスを奪われた。

探しに行こうとしたら、地下牢に閉じ込められた。ずっとアリスの名前を叫び続けた。やっと出られてアリスを探しに行こうとしたら、もうアリスはいない。死んだと聞かされた。

それから金髪で長い髪の女を見かける度、つい目で追いかけてしまう。すぐに別人とわかって、ガッカリする。アリスはもういねェとわかっても、心の奥ではどこかにいるんじゃないかと期待してしまう。

もうオレのスマホの中にしかいないのに…。


「この女、誰!」

「オレのスマホ!返せよ!!」

「アタシがいるのに、他の女の写真なんかいらないでしょ!消してよ!」

「消さねェよ!」

「消さないなら、アタシが消してあげる!」

ソイツがオレのスマホから、アリスの画像を消した。動画もすべて。そのスマホの中のアリスが全て消えたのだ。オレもソイツに対しての情は、失くなった。


「もう別れようぜ」

「なんで!?」

「もうお前のことなんか、どうでもよくなった。二度と連絡してくるな。じゃあな」

「待ってよ!ハルク」

スマホを奪い返して、女の傍から立ち去る。
一応、他のスマホにバックデータはとってあるから、まだ良かった。じゃなきゃ、あの女のこと、絶対に許さなかった。
この際だからこのスマホは、解約するか。このスマホに入ってるヤツらは、そんなに必要なヤツでもないし。そうしよう。その足でスマホを解約しに行った。

誰も越えられない。
アリス以上になれない。アリス以上になれるわけない。なれるのは、本人だけ。


あれから、10年が経ち、オレは社会人として3年目を迎えた。結婚はまだしてねェけど、相変わらず色んな女と関係を持ったまま。たまに親父が婚約者候補の女と会うように言って来て会うも、その先は続かない。

そんな時、同じ会社の別部署に用があって、行った。そこでアリスに似た女がいた。髪色、髪型は違うけど、顔がそっくりで声も同じ。しかし、オレを見ても、無反応。

だけど、彼女をよく観察していたら、アリスとまったく同じ行動をしていた。その部署にちょくちょく向かっていたら、向こうもオレの顔を覚えてくれたらしく、少しだけ話すようになった。

ソイツと話す度にアリスにしか見えなかった。

何もかもがオレの記憶のままのアリスだったから。

だけど、左手の薬指に指輪があった。他の社員に聞いてみると、結婚するらしい。もうじき会社も辞めてしまうことも。

彼女が辞める前にアリスなのかを調べたい。

確かめる方法は、ひとつ。身体を見ればわかる。何故なら、アイツの背中には3つのホクロが並んであるから。


一週間後、会社の合同送別会がやって来た。
オレは何気なく、近くの席をキープして、アイツにお酒を沢山飲ませることにした。断れないのか、アイツはお酒をどんどん呑んでいく。オレは内心ほくそ笑みながら、コイツが一人では帰れないように酔わせることに成功した。

案の定、送別会が終わる頃には、足元がおぼつかないアイツにオレは近づく。


「大丈夫ですか?何かフラフラしてますけど」

「ドルチェくん…大丈夫だよ!」

「全然、大丈夫じゃないです。このままは危ないですよ。オレが送っていきます。幸い、帰り方向も同じですから」

餞別の花束を抱えたソイツに肩を貸しながら、道路に出て、タクシーを見つけると、手を上げる。運が良かったのか、すぐに一台のタクシーが停まった。先にアイツを乗せて、オレも一緒に乗る。


「●●までお願いします。……ドルチェくん。着いたら、起こしてくれる?」

「いいですよ」

「ありがとう」

そう言って、そのまま眠ってしまった。こういう無防備なところもそっくりだな。

オレはアリスの言った行き先ではなく、別の行き先を運転手に告げた。

15分後。
オレのマンション前に到着し、タクシーから降りて、エレベーターでアイツを部屋に連れて来た。鍵を開けて、中に入れば、真っ直ぐベッドルームに行き、寝かせる。
まだ起きそうにないから、先にシャワーを軽く浴びてくることにした。

シャワーから出て来たオレは、下はズボンを履いたが、上半身は何も着てない。肩にタオルがかかっただけ。すると、寝ていたアイツが起き上がり、辺りをキョロキョロしていた。


「あれ?ここ、どこ…」

「オレの部屋ですよ」

「ええ、ドルチェくん!?私、家に帰ったんじゃ…」

「帰らせませんよ。まだ確かめたいことがあるんで」
 
「ドルチェくん?何かいつもと雰囲気が違っ…」


まだ寝ぼけてるみたいだな。そろそろわからせねェと。ゆっくりと近づいて、本来の喋り方に変えた。


「昔みたいにお坊っちゃまって言ってくれねェの?」

「何を言って…」

「アリス」

「私はアリスなんて名前じゃ……っ!?」


近くに置いたネクタイでアリスの両腕を縛る。抵抗するも、力はこっちが有利。ソイツの服を脱がしていく。

下着姿になり、体を見られたくないのか、オレに背を向ける。好都合。背中を見た。

……思っていた通りだ。背中に3つのホクロがあった。やっぱりコイツはアリスだ。


「会いたかったよ、アリス」

「……っ!」

ホクロのある場所にキスをする。アリスは体を強ばらせた。


「やめてください!私は“アリス”なんて名前じゃない!!」

「否定したって、お前がアリスなのはわかってんだよ」

「私、結婚するんです!彼以外に触られたくなんかない!!」

オレだって、お前を他のヤツに触らせたくねェし、奪われたくねェよ。だから、その男からお前を奪い返してやる。





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