未来if編 Ⅰ




「アリス、冗談だろ…?目を覚ましてくれよ…」

「お坊っちゃま、アリスさんはもう…」

「嘘だ!起きてくれよ!早く…!起きて。オレを…お坊っちゃまって、呼んでくれよ!!」


必死に泣き叫ぶものの、アリスが目を覚ますことはなかった。二度と動かねェモノになっちまった。


「アリス!!うわあああああ…っ」





アリスが亡くなってから、6年が経った。

婚約者がいながらも、複数の女達と関係を持ち、その中の一人の女が今注目されてる人気のケーキ店に行きたいというから、一緒に行くことになった。テイクアウトも出来るが、レストランも併設されてるらしい。

ケーキか。
そういえば、よく昔は食べていたな。アイツが亡くなってからはまったく食べなくなったけど。どんなケーキを食べても、うまいと感じなくなったんだよな。


“お坊っちゃま、本当においしそうに食べますよね”

“アリスの作るケーキ、うまいし!料理長のより好きだ!”

“そんなこと言うのお坊っちゃまくらいですよ。でも、ありがとうございます”


あの頃に戻りてェな。……もう戻れないけど。
アリスが今も生きていたら、こうして二人で出かけてたのかな…。


“あの娘とお前が一緒になれることはない。バカな考えは捨てろ”

ちっ。ムカつくことまで思い出しちまった。親父に言われたことまで。

オレが普通の家庭に生まれていたら、一緒になれてたのか。いや、ねェな。アイツ、かなり鈍いし。ハッキリ言わねェと、気づかないくらいだったし。


「やっぱり並んでるね。でも、待てば、食べられそうだし。私達も並ぼうよ!」

「……ああ」

人気があるのか、混んでいた。しばらく待っていると、いつの間にか順番が来て、席に案内された。待っている間に頼むものは決まっていたから、ダイヤがすぐに店員を呼んだ。


「お待たせしました。ご注文をどうぞ」

呼ばれた店員が横に立つ。何気なく顔を上げると、その店員の顔を見て、オレは驚く。


「ショートケーキのセット、一つ…」

「はい。こちらのセットにはドリンクがつきますが、何になさいますか?」

アリスだった。
いや、アイツは死んだんだ。目の前にいる女は別人だ。髪は、肩くらいの長さで結わいていたが、それ以外は顔も声も体型もアリスと同じだった。


「ちょっとハルク!」

「な、なんだよ…」

「さっきから呼んでるんだから返事してよ!ドリンクは何にするの?」

「……同じのでいい」

「かしこまりました。それでは、メニューをお下げしますね」

そう言って、メニューを持って、厨房の方へ行ってしまった。

それから後のことは覚えてねェ。
店内にいるアイツの姿ばかりを追ってしまって、ダイヤが話しかけてきても、ろくに聞いてなかった。

お店出る時もアイツを見ていたら、目が合った。


「ありがとうございました。またお越しくださいませ!」

笑顔で見送られた。
接客業だから、そう挨拶しただけかもしんねェ。でも、オレはまた来ようと決めていた。


「いらっしゃいませ!」

数日後、オレは一人で店に来た。雨なせいか、店内は少ない。アイツの姿は………いた。席に案内され、腰を下ろす。


「ご注文は、お決まりですか?」

「おま……あんたのオススメ、何?」

「オススメですか?今日は、イチゴのタルトがオススメですよ」

イチゴのタルト。よく作ってくれたよな…。オレが一番好きだって言ってたからかな。


「お前もイチゴのタルト、よく作ってたよな…」

「え…?」

やべっ。
つい口を滑らせてしまった。


「悪ぃ。あんたとすげー似たヤツがいてさ、ソイツと間違えた」

「そうなんですか?ふふ、ちょっと驚きました。私もイチゴのタルトは家で作っているので」

「ここで出さねェの?」

「いえいえ!お店に出せるほどのものじゃないので!私は家族や友達に食べてもらって、おいしいと喜んでもらえるだけでいいんです」

本当にそっくりだ。
アリスも同じことを言っていた。目の前にいるコイツは、もしかしたら……と考えちまう。まだ結論を出すには、まだ早い。様子を見るか。

それから週に二回くらいは、あの店に行くようになって、流石にアイツに顔も覚えられた。多分、男だったからもあるかもしんねェ。周りは女ばっかだったし。


「いらっしゃいませ。今日も来てくれたんですね!」

「近くだったから、寄った…」

「ありがとうございます。ここのケーキ、気に入ってくれたんですね!」

ケーキじゃなくて、お前に会いに来てる…なんて言えるかよ!エドじゃあるまいし、あんな真似出来ねェよ。


「まあな…」

「お席にご案内しますね」

アイツの背中を見つめる。本当は抱きしめてェ。だけど、必死に堪えた。まだアリスかもわかんねェし。でも、もしも本物だったら…そう思うと諦められないでいた。

もしも、この女が本物のアリスならば、あの遺体は一体…?



.
1/2ページ
スキ