Edo




家に帰ると、真っ直ぐバスルームに向かう。館内は静かだった。流石に誰も起きてないか。もう1時過ぎてるしね。
いつもならこの時間でも、電気のついている部屋もあるが、今日は珍しくどこもついていない。脱衣所に来れば、やはり誰もいない。僕はすぐに服を脱いで、バスルームに入った。

シャワーを浴びて、髪と身体だけ洗うと、すぐに出た。今は、浴槽でゆっくり入りたい気分でもなかったから。

ボクサーとズボンだけを履いて、タオルで髪を拭いていると、いきなりドアが開いて、誰かが入って来た。顔を上げれば、全裸のラーだった。


「うわっ!ビックリしたー!エドか。良かったー。鍵かかってねーのに、電気ついてるからさ…」

「おや、驚かせちゃった?ところで、ラーは何で裸なのかな?」

「エドなら言わなくてもわかんだろ?」

「そうだね」

いたのが、まだ僕だから良かったけど、これが使用人の子達なら大騒ぎになっていただろうし、兄弟でもカルやリィ辺りに見つかれば、怒るだろう。あの二人、思っているよりもかなり真面目だからね。堅物というべきか。
一方、ラーは汗をかいていて、少し汗くさかった。今裸なのも、部屋で誰かと及んでいた。おそらく今、ラーの部屋にいるのだろう。今日の相手が男か女かの判断はつかないけど。


「もしかして、これからここでもするつもりだった?」

「当たり!いやー。エドはわかってるな!汗かいたから、ついでに風呂でもヤりたいって、言い出してさー!ま、おれも悪くないかなって」

「正直だね。それじゃあ、僕はシャワーは浴びたから、部屋に戻るよ。あまり散らかしたままにしておくと、ボルドーが怖いよ?気をつけてね」

「わかった!」

僕もライも一旦、バスルームから出た。流石に今、ライと同じ方向に行くと、相手と会ってしまうから、僕は少し遠回りして戻ることにした。


ふと書斎の前を通った。いつもなら入らないんだけど、何となく入ろうという気分になった。ドアノブをひねると、鍵はかかってない。夜の間は鍵をかけると、ボルドーは言っていたのに忘れちゃったのかな…。

中に入れば、電気がついていた。いるとすれば、カルかリィのどちらか。丁度、ソファーに誰か座っていたが、それは僕が予想してた二人ではない。


「あれ?グレだったんだ…」

「エドこそ。こんな時間に書斎になんて滅多に来ないのに、どうしたの?」

僕の声にグレが顔だけ振り返った。ソファーに近づき、空いてるところに座ると、先程のラーのことを話した。その相手が来ていることを知ってたのか、苦笑いしていた。


「夕食の後に誰か来たのは、知ってたけど、ライの相手だったのか。あの二人…」

「え、二人?」

「うん。双子の女の子だよ。エドが知らないのは、当然だよ。カメリアとのベッドでの遊戯に夢中だったからね」

グレも僕をからかうようにそう言った。ここで僕は、グレに尋ねる。


「ここにいるのは、グレだけ?」

「違うよ」

「グレン。俺に本を探させといて、何を呑気にエドと話してるのさ」

眉を寄せながら、数冊の本を持ったカルがやって来た。やっぱりカルか。兄弟で書斎の鍵を持つのは、カル、リィ、ドラの三人だけ。昼間はなくとも入れるが、夜は鍵がないと入れない。その場合は、三人の誰かに声をかけるか、ボルドーに鍵を借りるかになる。


「二人で何か調べ物?」

「俺じゃない。グレンが明日までにレポート出さないといけないのを忘れて、本がないと書けないって、寝る前にいきなり泣きついて来たんだよ」

「だって、フリード教授、超厳しいんだよ?指定された日時の時間までに出さないと、受け取ってくれないんだから!」

「ああ。僕と同じ学部の子もそう言っていたよ。1分遅れただけで、アウトだったって」

「やっぱり鬼だ!フリード教授」

「何言ってるんだよ。当たり前だろ。ほら、グレンは口を動かしてないで、手を動かす!本は用意してあげたんだから」

「げー。鬼が目の前にもいた…」

「俺のどこが鬼!?」

「今、正にその顔が鬼の形相だよ…」

「そう言うなら、俺、部屋に戻るよ。後は一人で頑張って。鍵は後で返しに来てくれたらいいから」

怒ったカルが離れようとすると、グレが慌てて引き止める。


「あー!!嘘です!カルちゃんは鬼じゃないです!天使です!お願いだから、手伝ってー!」

「………対価は?」

「学食、一週間おごる!好きな物、何でも食べていいから!」

「俺、学食じゃなくて、アマデウスがいい」

カルの提案にグレが言葉を失う。
うちの大学近くにある喫茶店・アマデウスは、食事メニューがかなり豊富で、金額は普通だが、味は最高と評判の店だ。更にデザートも豊富で、期間限定のまであるらしい。カル、こう見えて、甘い物が好きだからな。僕も嫌いではないけどね。


「アマデウス!?」

「そう。メインとデザート付きで、二ヶ月間」

「しかも、二ヶ月!?長い。一ヶ月じゃダメ?」

「おやすみ、グレン」

笑顔で去ろうとするカルにグレが泣く泣く折れた。


「わかったよ。それでいいから、お願いします!」

「交渉成立だね。はい。さっさとやるよ!」

「はーい…」

二人のやりとりを見て、つい笑ってしまう。これ以上、二人の邪魔するのを悪いから、僕は先に休むことを告げて、書斎を出た。きっとカルは、グレのレポートが終わるまで付き合うのだろう。何だかんだ言いながらも、最後まで面倒を見るのだから。

再び、自分の部屋に向かいながら歩いていると、微かな声が聞こえた。声というよりは、甘まえるような喘ぐ声。近くにあるドアが少し開いていた。これは、ドアの近くでしているのだろう。ライは、まだバスルームにいる。となると、この部屋は……。

ドアにかけられたイニシャルは、S。スーの部屋。珍しく部屋に連れて来たのか。スーが自分の部屋でする相手は、リアともう一人だけ。リアは僕といたから、後者だろう。名は確か、ヒヤシンスといったかな。あの子は、スーに惚れていたから。


ようやく部屋に戻ると、出る前と違い、何もかも片付けられていて、ベッドも整えられていた。

ウィルは、仕事が早いな。僕らが出た後に片付けてくれたのだろう。眠りたかった僕は、早々にベッドに入り込んで、目を閉じた───。





【END】
3/3ページ
スキ