Guren




「カールちゃん!」

「……げっ」


いきなり現れた兄のグレンにカルロは、あからさまに嫌な顔をした。



「げって何よ!このお兄ちゃんに向かって…」

「半分しか血は繋がってないだろ…」

「でも、もう半分は血が繋がってるでしょ!ちゃんとお兄ちゃんと呼びなさい」

「同い年で何でそう呼ばないといけないんだよ」

「俺は4月、カルちゃんは3月だからだよ。約一年違うし」

「たかだか、それだけじゃないか。呼ぶ意味ないよ」

「カルちゃん!」

「………はいはい。わかったよ」

「返事は、一回だよ」

(……本っ当に面倒くさい…)


その後、お兄ちゃんと呼ぶまでグレンが離れなかったのである。渋々呼ぶと、ようやく満足したのか、グレンはニコニコしながら去って行った。

カルロは自分の部屋に戻らず、兄弟達が本を置いている書斎に来て、珍しく本を読まずにそこにあるソファーでぐったりしていた。使用人もほとんど入って来ないので、気にせず、ソファーの上で横になる。


(ここなら、グレンはあまり来ないから休める…)


そこへ先に書斎にいて、本棚に本を置きに来ていた弟のリクがソファーにいるカルロに気づく。



「カルロ兄さん。どうしたの?すっごい疲れた顔してるけど」

「リク。さっきまで、グレンに絡まれてたんだよ…」

「グレン兄さんに?あー、もしかして、またお兄ちゃんと呼びなさいって言われたの?」

「その通りだよ」

「普段からそう呼んであげればいいのに」

「やだよ。何で同い年の兄弟にお兄ちゃんなんて言わなくちゃいけないんだよ」

「そしたら、満足するんじゃない?グレン兄さんなら」

「それはない。言えば最後。グレンの場合、絶対に新たな要求をしてくるね」

「カルロ兄さんって、グレン兄さんには厳しいよね」

「グレンは優しくすれば、図に乗るからだよ」


カルロはため息をつく。
リクはそんなカルロを見ながらも、グレンが何故ここまでカルロに関わりたがるのかを考えていた。



(同い年だから、色々と比べられたんだよね。カルロ兄さん、昔は今と全然違って、かなりおとなしかったし。でも、グレン兄さんって、カルロ兄さんのことが一番気に入ってるから構うのにね。それを言うと、カルロ兄さんは嫌がるから言わないけど。………あ)


リクが何かに気づく。
いつから入って来たのか、カルロのいるソファーの後ろにグレンがいたのだ。口元に人差し指を当てていた。おそらく黙っていろということなのだろう。幸い、カルロはグレンに気づいていない。

元よりリクは、カルロに教える気などはなかった。すると、グレンは───



?「カルロ兄さん」

カ「何?リク」

リ「僕、呼んでないけど」

カ「え?だって、今…」


確かにリクの声だった。しかし、リクは呼んでいない。今のはグレンが呼んだのだから。堪えきれなくなったグレンがカルロの後ろから姿を現す。



グ「俺がリクの声を真似て、カルちゃんを呼んでみましたー!」

カ「グレン!?何でここに…」


カルロがようやくグレンに気づいて、後ろを振り返る。グレンは、カルロを驚かすことに成功して喜んでいた。
そんな二人のやりとりを見ながら、リクは思う。



(何だかんだ言いながら、仲は良いよね…。本当に嫌なら、無視すればいいんだから。カルロ兄さん、昔いじめられてる時に庇ってくれた男の子が頼もしくて、あんなお兄さんがいたら良かったとか話していたし。その後に本当にグレン兄さんが来たけど、予想とは違ったみたいなんだよね)


そこへドアをノックする音。兄弟ならノックをせずに入って来る。そうしないのは使用人だから。一番近くにいたグレンが返事をすれば、「失礼します」と言ってから、ドアが開く。
そして、開けて入って来たのは、ハルクの専属執事であるアガットだった。本来なら、ハルクの部屋にいるはずなのだが───



ア「あの、すみません。どなたか、お坊っちゃまを見ていませんか?」

リ「ハルク?見てないよ」

グ「んー。今日は見てないね」

ア「そうですか…」


アガットをガックリと項垂れる。どうやら彼は、ハルクを探しているらしい。話し声がしたから、ここにいるのかと期待をしていたのかもしれない。

しかし、ハルクがこの書斎に来たことはほとんどない。



カ「ハルクなら、使用人用の屋敷辺りにいるはずだよ」

ア「使用人用の屋敷?お坊っちゃま、まさか…。カルロ様、ありがとうございます。失礼しました!」


アガットは一礼をしてから、部屋を出て行った。



リ「カルロ兄さん、何でハルクの居場所を知ってるの?」

カ「ああ。それは昨日、見かけたからだよ。あいつ、気になった女の子を見つけたらしくて、ずっとしがみついて離れようとしなかったし。きっと今もその子から離れないんだよ」

グ「ルクが使用人の娘を追いかけてるって噂は本当だったんだ」

リ「え、そうなの?」

グ「知らなかった?かなり噂になってるよ。女性の使用人には滅多に近づかないじゃない?ルクは」

リ「知らない…」

カ「ハルクが追いかけてる相手は、リクがたまに話す娘だよ。ほら、金髪で二つに結わいた…」

リ「え、アリスさん…」

グ「あー!あの娘か。真面目なんだけど、仕事で色々やらかしては、ボルドーに叱られてる」

リ「そんなに叱られてるの?アリスさん」

グ「うん。ボルドーの中では今年一番の問題児に認定されてるよ。真面目なのはわかっているんだけど、反射的に叱ってしまうって…。サルファーは面白いって、気に入ってるみたいだけどね」

カ「あの娘さ、珍しく俺達に仕事以外で話しかけては来ないんだよ。リクには違うみたいだけどね」

リ「僕は入る前からの知り合いだからね。去年の秋くらいにアリスさんとは何度か会うことがあって、話すようになったんだよ。一時期、会えないこともあったし…。まさか、うちで再会するとは思わなかったけど」

グ「リクが特定の女の子と仲良くするのも珍しいね」

リ「彼女も本が好きなんだ。読む作家も僕と同じ感じだったから。………二人共、何その顔」


リクは目の前にいる二人の兄のニヤニヤする顔を見て、呆れていた。



グ「だってね、カルちゃん」

カ「だってさ、グレン」

リ「(こういう時だけは仲が良いんだから)それで言いたいことがあるなら、どうぞ」

グ「リク、顔が怖い。親父そっくりだよ?」

カ「バカ。リクにそれは禁句だから」

グ「もっと早く言ってよ!カルちゃん」

リ「……。どうやら二人は、僕を怒らせたいみたいだね」


リクが笑顔を浮かべながら、静かにキレていた。二人の兄は、慌ててリクに謝ったのだった。





【END】
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