Boy and Maid 9

ドルチェ家に遊びに来たカメリアは、ライの部屋に一人で向かおうとしていた。何度も来ているため、部屋の場所も把握しているから案内を断ったからだ。
すると、反対側からカルロが歩いてきた。



「カルロ!」

「やあ。カメリア、来ていたんだね」


にこやかに対応するカルロだが、正直カメリアは苦手だった。彼女は少々、厄介な相手で、なかなか思うように動いてくれないからだ。



「ええ。カルロ、遊んでくれない?」

「悪いけど、今日は約束があるんだ。君もライのところに遊びに来たんだろ?」

「そうだけど。カルロ、いつもそう。全然あたしと遊んでくれないじゃない!」

「だって、君には婚約者いるだろ?彼を大事にしなきゃ」


カメリアがカルロに訴えるも、彼は思う。

(遊ぶも何も婚約者がいる相手には、俺でも手を出さない。そこまで困ってないし)

だが、そう言ったところで彼女は聞き入れない。



「ちゃんと言ってるわよ。彼も承知してるんだから。ね?いいでしょ」


そう言うと、カメリアはカルロの腰に腕を回し、抱きつく。彼を上目遣いで見てくるも、何も感じない。胸元が見えるような服でアピールをしていても、彼は全然カメリアに惹かれない。

(その彼はカメリアに惚れてるんだろう。だから、強く言えない。言ったら、カメリアに婚約破棄されるから。外見は良いし、体つきも悪くはない。だけど、カメリアの魅力が俺にはわからない…)


「じゃあ、いつなら遊んでくれる?」

「うーん。君とは遊べないかな…」

「一度だけでもいいから、抱いて!」


(そう言う娘に限って、何度も来るんだよな。はあ、まいったな…)


軽く頭を抱えていた時、「カルロ様」と呼ぶ声がした。そこにいたのは、アリスだった。



「アリス。どうしたの?」

「グレー様とトキワ様がお越しにになってます」

「ああ、二人来たんだ。今行く。それじゃあね、カメリア」

「ちょっ…カルロ!」


カルロはカメリアの腕を離して、呼びに来たアリスの元に向かう。



「二人は?」

「カルロ様の部屋で待ってもらっています」

「そっか。行こうか」

「……はい」


行く前にアリスがカメリアへ一礼する。それからカルロの後ろをついていく。カメリアは睨みつけていた。カルロの後ろを歩く少女を。

そんな一人残されたカメリアのところにライがやってきた。



「あれ?カルロと話してたんじゃねーの?お前、カルロを見つけて、一目散に向かって行ったじゃん」

「メイドが呼びに来て、行っちゃったわよ。客が来たからって」

「トッキー達か。……ふーん。俺の部屋に来る?」

「行く。すぐに忘れさせて」

「いいぜ」


ライが妖しく笑う。そうして、彼らもそこから立ち去った。










一方。カメリアから離れ、彼女の姿が見えなくなったところで、カルロが呟く。



「……助かったよ」

「え?何がですか」

「俺を呼びに来た時に女の子、いたでしょ?あの娘、親父の妹の娘なんだ」

「御当主の妹。確か、双子とは聞いたことありますね。さっきの方は、その娘さんなんですか」

「そう。母親に似て、結構遊んでるんだよ。婚約者もいるのに。ああやって、うちに来る度に俺やリクにまで声をかけてくるんだ」

「え!?リク様にまで…」


アリスが驚く。それもそうだろう。アリスはリクに憧れを抱いているのだから。身分差があるから、一緒になることは考えていないが、やはりリクに女性が近づくのは嫌そうである。



「既にライと関係あるよ。似た者同士だからね。あの娘は、どうやらうちの兄弟に手を出したいみたいなんだよね…」

「他の兄弟!?え、お坊っちゃま達もですか?」

「下三人も狙ってるよ。うちの兄弟を侍らせたいみたいだから」

「理解は出来ませんが、すごいですね…」

「下三人もカメリアには興味ないと思うよ」

「タスク様はリコリス様がいますし、ドラ様もスカーレットと良い関係を築いていますからね。お坊っちゃまも好きな人いるのは聞いたんですが、全然教えてくれないんですよね」

「君はそれが自分だと考えたりはしないんだね」

「私ですか?ないですよ!」

「ふーん…。あいつ、タスクと同じで一途なのに」

「え?それって、まさか…!」

「やっとわかった?ハルクの好きな人」

「お坊っちゃま、やっぱりリコリス様が好きなんですね!」


その答えにカルロは、ずっこけそうになった。何とか平静を繕う。



「やっぱりって、どういうことかな?」

「お坊っちゃま、リコリス様と話す時は楽しそうですから!」

「確かに仲は良いね。でも、あれは違うよ。互いに意識してないからだよ」

「そうなんですか?じゃあ、同級生かな…」


ぶつぶつ言いながら、アリスは呟く。それを見て、カルロは思う。

(この娘は自分に向けられる好意には、まったく気づきもしないな。誰かに好かれると思ってないのかもしれない)


「アリスはさ…」

「はい?」

「二十歳で縁談がきたら、それを受けるの?」

「まずは会ってみて、良さそうな方でしたら、受けるつもりでいます」

「やっぱりリクみたいな人を選ぶの?」

「いえ、リク様みたいな人はそうそうにいませんし、私にとってリク様は特別な存在なんです。リク様に似た人を選ぶことはありません。きっと比べてしまいますから」

「そうなんだ…」


話しているうちにカルロの部屋の前に着く。すると、アリスは一礼して去っていく。その姿をカルロは見つめる。


(アリスも初恋をこじらせてる感じだな。リクに似たやつを選んだら、比べてしまう。だから選ぶつもりはない。気持ちはわかるかな…)

自分の中に好きだった彼女と似た女を抱いても、それは彼女じゃない。同じところを探そうとしても、見つからない。比べては違うと拒否してしまう。彼女とまったく同じ子なんていないのに…。

反対に顔は似てないのに、彼女と同じような感覚を持つ娘に彼女を重ねてしまうことがある。好きになりそうな時もあった。
さっきまで目の前にいたアリスは、カルロの好きだった彼女と中身がかなり似ていた。今まで会った女の子の中で一番それを感じていた。


(流石に兄弟で女の取り合いなんてしたくないし。俺はまだ大丈夫…。アリスは、セピアじゃないんだから)

そう言い聞かせて、彼は自分の部屋に入った。



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