Boy and Maid 6

行き先も決めずに、ドライブへと出かけた。高速を使いながら、しばらく車を走らせ、なんと海の近くまでやって来た。

アガットさんは久々に車で遠出をしたせいか、休みがてら仮眠を取っている。

その仮眠が終わるまで、私は海を見ていることにした。


海にはあまり人はいない。たまにいても、犬の散歩している人を見かけるだけ。

流石に4月だからまだ水が冷たいから入れないが、砂浜から海を見ていた。何か落ちつく。海を見てるだけなのに。聞こえるのも波の音だけ…。

足が濡れないように波打ち際ギリギリ辺りに私は立っていた。





「アリス」

「お坊っちゃま、どうしました?」


顔を上げると、隣にお坊っちゃまがいた。制服のジャケットとネクタイは車に置いてきたのか、していなかった。Yシャツのボタンも二番目あたりまではずしていた。



「そういえばさ、アイツがいた…」

「アイツ??」

「こないだお前と話してたヤツだよ!」

「リゼルですか?」

「そう、ソイツ。しかも、同じクラスだった。向こうもオレの顔を見て、イヤな顔してたけどな」


確かにこないだ顔を合わせた時から、お互い気に食わないような感じはしてたけど。せっかく同じクラスになったんだから、仲良くすればいいのに。



「仲良くなれないんですか?」

「冗談だろ?無理だって。アイツ、絶対…」

「絶対?」

「…な、んでもねェよ!」


また何か言いかけて止めちゃった。
そういえば、昔リゼルも似たようなことあったな。もしや、二人は似ているから、苦手なのかな?同族嫌悪とか。



「お坊っちゃまも中学生になったんですね」

「まだ中学生じゃん。オレ、早く大人になりてェし」

「大人に?何かあるんですか?」

「大人にならなきゃ、意識してくんねェし。今のままじゃ子供扱いされたままなんだよ…」


意識してくれない?子供扱い?

そういえば、前にライ様がお坊っちゃまには好きな人がいるって言っていたような…。
確か、年上の人。その人に釣り合いたくて、だから、早く大人になりたいのか。でも。



「そんなに急がなくてもいいと思いますよ」

「何で。急がねェと…」

「その人は待ってくれますよ!」

「……本当に?」

「はい。いきなり大人になるよりも、お坊っちゃまのペースで大人になればいいんです。私ならその方が…」

「その言葉、絶対に忘れんなよ?」


……………ん?何故、私??
それはちゃんと好きな人に言った方がいいのでは。



「お坊っちゃま、それは私じゃなくてちゃんと好きな人に言った方が……痛っ!」

「本当に上げては落とすよな、お前…」


いきなりお坊っちゃまに額をでこぴんされた。私よりも身長は低いのに…。あれ?



「お坊っちゃま、少し背伸びました?」

「何で?」

「前より目線が近い気がして」


それでもまだ私の方が高いけど。
すると、お坊っちゃまは笑いながら答える。



「少しは伸びたかもな。まだ全然足りねェけど」

「どのくらいまで大きくなりたいんですか?」

「取りあえずアガットくらいは欲しい」

「アガットさん、いくつあるんですか?」

「177センチ」


そんなにあるのか。アガットさん、なんか雰囲気からだとそんなに大きく感じないけど。
専属執事の人達、皆、身長高い人が多いからな。



「大きくなれるといいですね」

「なるに決まってんだろ!すぐにアリスの身長、越えてやるからな」

「待ってますよ」


高校生になったら、お坊っちゃまに身長を抜かれてしまうだろう。

それまでに私がここに居られればだけど───。





【END】
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