Boy and Maid-Mini-(ⅩⅠ)
お花見の話をしていた時、近くで思いっきり窓を閉める音がした。皆がその音に驚きながらも、休憩時間が終わることに気づき、仕事へと戻って行く。
「……あっ」
去って行く後ろ姿は、あの子。
ここに帰って来た日に、私に泣きながら訴えていた男の子。
「今の子、確か…」
「ハルク様だよ」
ベゴニアが教えてくれた。実はまだ兄弟の皆さんの名前を完全に覚えきれていなかった。
「ハルク様か…。何か言い慣れない」
「あんた、いつもお坊っちゃまって言ってたし」
「そうなの?」
「そうそう。いつも漫才のようなやり取りで一緒にいたわよ」
「漫才…。想像が出来ない」
そうなんだ。
あの子、私とたまに目が合うと、何かを訴えるように見てくるんだよね。でも、声をかける前にいつもいなくなっちゃう。
「ハルク様、前はよく笑ってたのよ。それがまったく笑わなくなっちゃったの」
「どうして?」
「アリスが“アリス”じゃなくなったから」
「私?」
言われた意味がよくわからなかった。
その夜。
自室に戻ってからも、ベゴニアに言われたことが引っかかっていた。
「あれ、どういう意味なんだろう…」
聞いても、彼女はそれ以上は教えてくれない。意地悪しているようではない。
あんたが自分で見つけないとダメだから、と。
そういえば、私、部屋の鍵がまだ見つかってないんだよね。今はスペアを借りてるから、早く鍵を見つけなくちゃいけない。今から探しに行こうかな。明日は休みだし。
もうないかもしれない。でも、落とし物には届いていないし。あるとしたら、私が落ちていたという階段付近しかない。私は部屋を出て、メイド長のところに向かった。
メイド長に理由を話すと、別館の鍵を借してくれた。
「………やっぱりないなー。私の鍵…」
懐中電灯を照らしながら、這いつくばるように階段付近を捜索する。
誰か持って行っちゃったのかな。もしくは捨てられたか。後者だとちょっと問題だよね。
「……………何してんの?」
後ろから男の子の声がしたが、私は探し物に夢中で相手を見なかった。
「えっと、ちょっと探し物を…」
「ふーん…」
聞いておいて興味なさそうだな。ま、いいや。階段は諦めて、次は階段近くの廊下辺りを探そう。
「…なあ。これ、お前の?」
「え?」
そう言って、私は顔を上げた。そこにいたのは、例の男の子。名前が確かハルク様、だっけ?
その子に渡されたのは、鍵だった。スペアで借りている鍵と同じ形、そこに書かれている部屋の番号も同じ。
「私のです!良かった…」
「……」
でも、何かが足らない気がした。そのまま立ち去ろうとする男の子に声をかける。
「あの、これだけですか?」
「何が?」
「他に何かついてませんでした?」
「……それだけだよ。何で?」
「私も何がついてたか思い出せないんですけど、大事なものがついてたような気がして…」
この鍵に私は“何か”をつけていた。
それを忘れてはいけない気がする。何をつけていたんだろう。
「あ、すみません。呼び止めてしまって。鍵を見つけてくださって、ありがとうございました!」
彼に頭を下げて、私は階段を離れた。
しかし、何がついていたかもわからずに探すのは大変だけど、探していればそのうち思い出すだろう。
よし。階段はなかったから、次!階段近くの廊下を捜索するぞー。
懐中電灯をあてながら見ていくが、何も落ちていない。それに私は何をつけていたのかもわからないため、余計に捜索は進まない。
うーん。私は鍵に何をつけていたんだろう?キーホルダー?ストラップ?何の形をしていたんだろう?
“もういい!”
私はあの時、お坊っちゃまを怒らせた。そして、投げつけられたものは、確か…
「イルカ、のキーホルダーだ…」
私は懐中電灯をあてながら、廊下を探し回る。
ない!ない!イルカのキーホルダー。どこに行っちゃったの!
このまま見つからなかったら、どうしよう…。
「お坊っちゃま…ごめんなさい…」
「え…」
ん。後ろから声がしたような?振り返ると、お坊っちゃまが立っていた。そうだ。謝らないと!
「私があの時、無神経なこと言ったから怒ったんですよね…」
「アリス…?」
どうしたんだろう?変な顔して…。
あっ!!私、話しかけるなって言われてるんだったー!しまった。またやってしまった。
「すみません!失礼しました!!」
いけない。これ以上、怒らせる前にお坊っちゃまから離れなくては!
「アリス!ねぇ。記憶、戻ったの!?」
記憶戻った?どういうこと??
「ねぇ!」
「話しかけてごめんなさい!!」
私はお坊っちゃまから逃げることを選択した。
取りあえず鍵は見つかったから、スペアの鍵はメイド長に返さないとね。
はあ。それにしても、イルカのキーホルダーはどこに行っちゃったんだろう。お坊っちゃまからもらったばかりなのに…。
その後、メイド長に別館の鍵と一緒にスペアも返した。
久しぶりに全力疾走したら疲れた。明日は筋肉痛かもしれない。ま、休みだから部屋でのんびり本を読んで過ごそうっと!
【続】
「……あっ」
去って行く後ろ姿は、あの子。
ここに帰って来た日に、私に泣きながら訴えていた男の子。
「今の子、確か…」
「ハルク様だよ」
ベゴニアが教えてくれた。実はまだ兄弟の皆さんの名前を完全に覚えきれていなかった。
「ハルク様か…。何か言い慣れない」
「あんた、いつもお坊っちゃまって言ってたし」
「そうなの?」
「そうそう。いつも漫才のようなやり取りで一緒にいたわよ」
「漫才…。想像が出来ない」
そうなんだ。
あの子、私とたまに目が合うと、何かを訴えるように見てくるんだよね。でも、声をかける前にいつもいなくなっちゃう。
「ハルク様、前はよく笑ってたのよ。それがまったく笑わなくなっちゃったの」
「どうして?」
「アリスが“アリス”じゃなくなったから」
「私?」
言われた意味がよくわからなかった。
その夜。
自室に戻ってからも、ベゴニアに言われたことが引っかかっていた。
「あれ、どういう意味なんだろう…」
聞いても、彼女はそれ以上は教えてくれない。意地悪しているようではない。
あんたが自分で見つけないとダメだから、と。
そういえば、私、部屋の鍵がまだ見つかってないんだよね。今はスペアを借りてるから、早く鍵を見つけなくちゃいけない。今から探しに行こうかな。明日は休みだし。
もうないかもしれない。でも、落とし物には届いていないし。あるとしたら、私が落ちていたという階段付近しかない。私は部屋を出て、メイド長のところに向かった。
メイド長に理由を話すと、別館の鍵を借してくれた。
「………やっぱりないなー。私の鍵…」
懐中電灯を照らしながら、這いつくばるように階段付近を捜索する。
誰か持って行っちゃったのかな。もしくは捨てられたか。後者だとちょっと問題だよね。
「……………何してんの?」
後ろから男の子の声がしたが、私は探し物に夢中で相手を見なかった。
「えっと、ちょっと探し物を…」
「ふーん…」
聞いておいて興味なさそうだな。ま、いいや。階段は諦めて、次は階段近くの廊下辺りを探そう。
「…なあ。これ、お前の?」
「え?」
そう言って、私は顔を上げた。そこにいたのは、例の男の子。名前が確かハルク様、だっけ?
その子に渡されたのは、鍵だった。スペアで借りている鍵と同じ形、そこに書かれている部屋の番号も同じ。
「私のです!良かった…」
「……」
でも、何かが足らない気がした。そのまま立ち去ろうとする男の子に声をかける。
「あの、これだけですか?」
「何が?」
「他に何かついてませんでした?」
「……それだけだよ。何で?」
「私も何がついてたか思い出せないんですけど、大事なものがついてたような気がして…」
この鍵に私は“何か”をつけていた。
それを忘れてはいけない気がする。何をつけていたんだろう。
「あ、すみません。呼び止めてしまって。鍵を見つけてくださって、ありがとうございました!」
彼に頭を下げて、私は階段を離れた。
しかし、何がついていたかもわからずに探すのは大変だけど、探していればそのうち思い出すだろう。
よし。階段はなかったから、次!階段近くの廊下を捜索するぞー。
懐中電灯をあてながら見ていくが、何も落ちていない。それに私は何をつけていたのかもわからないため、余計に捜索は進まない。
うーん。私は鍵に何をつけていたんだろう?キーホルダー?ストラップ?何の形をしていたんだろう?
“もういい!”
私はあの時、お坊っちゃまを怒らせた。そして、投げつけられたものは、確か…
「イルカ、のキーホルダーだ…」
私は懐中電灯をあてながら、廊下を探し回る。
ない!ない!イルカのキーホルダー。どこに行っちゃったの!
このまま見つからなかったら、どうしよう…。
「お坊っちゃま…ごめんなさい…」
「え…」
ん。後ろから声がしたような?振り返ると、お坊っちゃまが立っていた。そうだ。謝らないと!
「私があの時、無神経なこと言ったから怒ったんですよね…」
「アリス…?」
どうしたんだろう?変な顔して…。
あっ!!私、話しかけるなって言われてるんだったー!しまった。またやってしまった。
「すみません!失礼しました!!」
いけない。これ以上、怒らせる前にお坊っちゃまから離れなくては!
「アリス!ねぇ。記憶、戻ったの!?」
記憶戻った?どういうこと??
「ねぇ!」
「話しかけてごめんなさい!!」
私はお坊っちゃまから逃げることを選択した。
取りあえず鍵は見つかったから、スペアの鍵はメイド長に返さないとね。
はあ。それにしても、イルカのキーホルダーはどこに行っちゃったんだろう。お坊っちゃまからもらったばかりなのに…。
その後、メイド長に別館の鍵と一緒にスペアも返した。
久しぶりに全力疾走したら疲れた。明日は筋肉痛かもしれない。ま、休みだから部屋でのんびり本を読んで過ごそうっと!
【続】
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