Boy and Maid-Mini-(Ⅸ)

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だが、何も起こらない。
おそるおそる目を開けてみると、ライさんは床に倒れていた。



「あれ、どうなってるの…?」

「大丈夫ですか?アリスさん」


顔を上げると、口元にホクロがある執事服を来た人が立っていた。いつの間に入って来たんだろう。



「はい。ありがとうございます…」

「良かったです。アリスさんがライ様に連れて行かれたと聞いたので。ライ様、絶対に狙ってくるんじゃないかと思っていたんですが、いつ帰って来るかがわからなくて…」


助かった。
確かにあの人、話がまったく通じなくて、宇宙人と話しているかと思ったわ。
リクさん達の言うことを素直に聞いていれば良かった。よし、今後は気をつけよう。

二人で彼をベッドに寝かせてから、私達は部屋を出る。



「そういえば、どうして、私がここにいるってわかったんですか?」

「それは…」

「それは?」

「あなたのことが心配でたまらない妖精さんからです」

「妖精さん??」


え、妖精さん??
きっとこの屋敷にいる誰かなんだろうけど、私に知られたくないのかな?もしや嫌われてる?でも、ライさんからは助けてくれたし。
どうなってるの?



「すみません。本人からの希望で名前は言えないんです」

「そうですか。でも、その妖精さんのお陰で助かったので、お礼を伝えてもらえますか?ありがとうございますって」

「はい。必ず伝えますね」










その夜。
うーん、やっぱり助けてもらったんだから、気持ちだけじゃなくて、お礼もしたい。明日はお昼からだし。材料もあるし、これからキッチンを借りて、お菓子を作ろうかな?でも、甘いのがだめだったら、どうしよう。もし、いらないって言われたら、自分で食べればいいんだし。

使用人の屋敷にあるキッチンを借りて、私はマドレーヌを作った。



「……出来た!」


久々に作ったせいで、失敗作が多かったが、取りあえず成功したものを選んで、それぞれの小袋に入れた。一つは助けてくれたアガットさんに、もう一つはそのアガットさんに伝えてくれた人に。
もらってくれればいいんだけど。





翌日。
私はラッピングした小袋を二つ抱えて、屋敷内を歩き回る。

アガットさん、どこにいるんだろう?やたらキョロキョロして目立っていたのか、声をかけられた。



「アリス?誰か探してるの」

「ドラ様、おはようございます!」


学校の制服の制服を着たドラ様とその執事のピアニーさんがこちらにやって来た。



「アガットさんを探してるんですけど」

「アガットならもう来るはずだよ?あ、来たよ。アガット!」


ピアニーさんが丁度、こちらにやってくるアガットさんに手を振る。アガットさんの少し後ろには、ドラ様と同じ制服を来たあの男の子がいた。

私はアガットさんを呼んでくれたピアニーさんとドラ様に頭を下げて、アガットさんの方に近づく。



「おはようございます、アガットさん!」

「おはようございます。アリスさん。どうかしました?」


不思議そうな顔をするアガットさんに私は持っていた小袋を渡す。



「昨日、助けていただいて、ありがとうございます!大したものじゃないんですが、お礼にお菓子を作ったので。宜しかったらどうぞ!もらってください!」

「俺、そんなつもりじゃ…」

「いえ、本当にアガットさんには助けていただけたので!命の恩人です!!あ、お菓子が苦手だったのなら、いいんです…」

「お菓子は好きです。では、遠慮なくいただきますね。ありがとうございます」


良かった。
アガットさんは受け取ってくれた。



「あと、もう一つお願いがありまして…」

「はい?」

「知らせてくれた妖精さんにもこれを渡してくれませんか?受け取ってくれるかはわからないんですけど。……だめですかね?」

「……」

「本当は自分から渡したいんですけど。名前を言いたがらないってことは、私と会いたくないんでしょうし…」


私は何言ってるんだろう。アガットさんにそんなこと言っても仕方ないのはわかってるんだけど。



「いいですよ。俺から渡しておきます」

「良かったです。あ、その人、甘いの苦手だったらどうしましょうか…」

「大丈夫です。妖精さん、あなたのお菓子は大好きですから喜びます」


アガットさんが笑って、そう言った。その時、男の子がアガットさんを呼ぶ。



「アガット」

「お坊っちゃま、今行きます。それでは、ありがとうございます。アリスさん」

「こちらこそありがとうございました」


そこでアガットさんと別れた。
男の子がジッと私を見ていたから、慌てて頭を下げた。しかし、男の子は何も言わず、車に乗り込み、行ってしまった。

やっぱり嫌われてるのかな、私。





【続】
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