Boy and Maid-Mini-(Ⅳ)
別の日。
廊下を歩いていたら、中庭でアリスがリク兄と話をしているのを見かけた。アイツはリク兄と話せて、嬉しそうだった。オレがいなくなっても、アリスは笑えるんだ。
「オレ、全然笑えなくなったのに…」
「お坊っちゃま?」
「アリスはオレがいなくても、平気で笑えてる…」
「お坊っちゃま、それは違います!」
「違くねェじゃん!今、リク兄と笑ってる!」
許せない。誰かと笑ってるアイツが。オレはお前のせいで笑えなくなったのに!
そんなある日。
アガットと中庭にいた時、誰かがこちらに向かって駆け寄ってきた。アリスだった。
「お坊っちゃま!あの、今、時間ありますか?」
「……」
「私、お坊っちゃまにお話があっ…」
「アガット。その女、どっかやって」
何しに来たんだよ。オレはお前と話なんてない。目障りなんだよ。さっさと消えろ。
「え?お坊っちゃま…」
「待っ…!」
行こうとするオレの手をアリスが掴もうとした。だが、その手が触れる前に思い切り振り払った。
「触んな!メイドがオレに話しかけんな!!」
「お坊っちゃま…」
オレに振り払われると思ってなかったのか、アリスがショックを受けた顔をしていた。その顔にオレは一瞬、動揺したが、すぐにアリスに対して睨んだ。
「ハルクお坊っちゃま、それは流石に…!」
「知るかよ。たかがメイドだろ。お前がどっか行かないなら、オレが行く。アガット、行くぞ」
二度とオレに近寄るな。そう目で訴えるようにアリスを睨みながら、その場を離れる。
少ししてから、アガットが後を追いかけてきた。
「お坊っちゃま」
「……何?」
「アリスさんに対して、あの態度はないと思います」
「オレは悪くねェし!あのメイドが勝手に…」
「彼女、泣いてました」
え。泣いてた?いや、そんなの関係ねェし。アリスが泣いたって知るかよ。もう関わることもないんだから。
「知らねェよ。あんなヤツのことなんて…」
「わかりました。俺もこれ以上は何も言いません。ですが、一つだけ」
「何?」
「後悔したくないなら、今すぐに彼女のところに行ってください」
「後悔なんかしねェよ!」
「そうですか。お坊っちゃまがそう選んだなら、いいです。でも、後から後悔しても知りませんよ」
この時、アガットの言うままにオレがアリスの元へ行っていたら、あんなことにはならなかったかもしれなかった。
だけど、素直になれなかったオレは行かないことを選んだ。
この選択をオレが間違いだと気づいたのは、後になってから───。
【続】
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