Boy and Maid-Mini-(Ⅱ)

その夜、オレはアリスを探していた。
近くにいたメイドに居場所を聞くと、娯楽室にいるらしい。早速、向かってみると掃除を終えて、道具を片そうとしているアリスの姿。



「あれ?お坊っちゃま…」


オレがいることに目を丸くしていた。



「何かありました?」

「何かないと来ちゃいけないのかよ…」

「そういうわけではないですけど、ちょっと待ってください。道具だけ片しますから」


アリスが片付け終わるのを静かに待った。



「お待たせしました」

「これ、やる」

「何ですか?これ」

「この間のハリネズミのお礼…」


昼間に買ったイニシャルが入ったイルカのキーホルダーをアリスに差し出す。透明だけど、袋には入れてもらった。喜んでくれるか。内心ドキドキだった。

しかし、アリスの反応はまったく違った。



「一緒にいた女の子にあげたら、どうですか?」

「え、何で知って…」

「実は私も水族館にいたんですよ。おみやげのところでお坊っちゃま達を見かけたので」

「声かければいいじゃん」

「邪魔しちゃ悪いと思いまして」


邪魔じゃねェし。来てくれたら、その後、一緒に回れたじゃん。何で変なところで気を遣うんだよ。



「すっごくお似合いでしたよ!あんな可愛い彼女がいたんですね。言ってくれれば良かっ…」

「もういい!」


頭にきたオレはアリスに向かって、イルカのキーホルダーを投げつけて、駆け出した。

中から鍵をかけて、中に入れないようにする。すると、すぐにアリスも追っかけて来て、ドアを叩く。今、部屋の鍵は持っていないのか、開けて入って来ない。



「ここを開けてください!」

「うるせェな!帰れよ!」

「お坊っちゃま!」

「もうお前の顔なんて見たくねェ!今度こそ世話係から外してやる!!だから、帰れよ!」


全然意識してくれない。鈍いにも程がある。オレばっかこんな想いするならもういらない。
アリスなんか大っ嫌いだ。



「……お坊っちゃま…」

「うるさい!早くあっち行け!!」


叩いていた音は鳴り止んだ。ドアの外から、アリスの弱々しい声。



「…わかりました。失礼しました」


返事はしなかった。





その後、オレはアリスを世話係から外すことをボルドーに伝えた。



「よろしいんですか?アリスを外して」

「世話係なんかもういらねェよ。さっさとアイツに伝えて」

「かしこまりました」


これでいい。
離れてしまえば、もうアイツのことで悩むことはないんだから。





部屋に戻り、机の上に置いてあったイルカのキーホルダーが目に入る。イニシャルはA。



「こんなもの…っ!」


キーホルダーを握り絞め、投げつけようとした。でも、何故か出来なかった。



「喜んでくれるかと思ったのに…」


涙が零れた。



“可愛いです!お坊っちゃまにしては、可愛いものを選べたんですね”

“どういう意味だよ!”

“ふふふ、冗談です。ありがとうございます”


笑って受け取ってくれると思った。あの笑顔を見せてくれるって。
それなのに、アイツは…。



“一緒にいた女の子にあげたら、どうですか?”


それだけならまだ許せた。
でも、アリスは…!



“すっごくお似合いでしたよ!あんな可愛い彼女がいたんですね。言ってくれれば良かっ…”


一番言われたくなかった言葉。
あれを聞いた瞬間、アリスに向かって、キーホルダーを投げていた。



オレが渡したかったのは、お前だったのに!

イルカのキーホルダーを机の引き出しに突っ込んで、ベッドに寝転ぶ。天井を睨みながら、オレは決意する。


もうアリスなんか知らねェ。
アイツのことなんか忘れてやる!





【続】
1/1ページ
    スキ