Even if I wish that I want the heart
君に近づく度に遠ざかる。
遠ざかる度に近づく。
さて、二人の距離はどうなる?
━アリス視点━
お風呂から上がり、部屋へと戻ろうとしていたら…。
「アリス。ちょっと、ちょっと!」
タスクさんに呼び止められた。
「…はい?何ですか、タスクさん」
「今ヒマ?ヒマだよね?はい!アリスも参加決定~」
「え?ええっ!?」
有無を言わさずにタスクさんに腕を掴まれた。
本当は、断りたかったのだが、そうすると後が怖い。
だから、私は後を付いて行くしかなかった。
だけど、これが悪夢の始まりだったことを私はまだ知らなかった───。
───────
─────
リビングで私、ハルク、タスクさん、セツナ、ラセンの五人で王様ゲームをしていた。
何故これなのか、おそらくタスクさんの思いつきだと思うけど。
「王様だーれだ。はい!オレっち。では、3番が王様の肩を優し~くマッサージ」
「……。何でオレばっか当たんだよ!」
毎回、タスクさんが王様になり、その度にハルクが当たる。
最初はたまたまかとも思っていたけど、あまりに続くから間違いなくタスクさんが何か仕掛けてるのだと思う。
しばしマッサージしてから、タスクさんはハルクを解放し、また全員に棒を引かせた。
「……オレっちだね!そうだなー、たまには趣向を変えよっか。んじゃ、王様ゲームらしく1番が4番にキス!」
「またオレ!?」
一人は当然、ハルク。
もう一人は……。
「やったー!あたしだ!」
ラセンが喜びの声を上げる。
セツナが「良かったな、ラセン」と呟く。
「うん!」
笑顔で頷いたラセンは、何故か私の方に視線を寄越し、勝ち誇った顔を見せる。
はいはい、良かったですねー。
というか、勘違いしてない?
まさか、私がハルクのこと好きだと思ってるんじゃ…。
冗談じゃないわ!
「ハルクからしてくれるなんて初めてだよ!ね!」
「ラセン、落ちつけって…」
「ハルク、失敗すんなよー?」
「ハルク、早くしてやれ」
「あー、うっせェ!!わーったよ!やればいいんだろ!!」
半ばヤケクソ気味のハルク。
私は恋人に今更するのが恥ずかしいのかなーと思っていた。
その時、ハルクが私を見る。
「アリス。お前はあっち向いてろ!」
いきなりそう言われ、私は答えた。
「何で?」
「いいから!」
「もーうわかったわよ」
渋々、横を向く。
すると、ハルクがラセンにキスしたのか、彼女のテンションが更に上がる。
「ハルク、もっとー!」
「バカ、するわけねェだろ!もう次、行って下さい」
「はいはい。アリス、もうこっち向いて大丈夫だよ」
タスクさんに声をかけられ、私は向きを戻す。
と、ラセンがハルクに抱きついていた。
このバカップル、もう少し何とかならないのかしら。
ジッと二人を見ていたらハルクと目が合う。
「な、何だよ」
「別に」
珍しくハルクが目を丸くしていたけど、私は気にせず、よそを向く。
「モテる男は違うねー、ハルク」
「タスクさん、全然そうじゃないですから」
また棒を元に戻し、タスクさんが混ぜる。
そして、棒を私達に向けて引けと頷く。
それぞれが引き、番号を確認すると…。
「はい、オレっちだ!では、2番が4番にキス!ちなみに今回は、頬じゃなく、唇だから」
「またかよ。もうヤダ…」
ハルクが2番の棒を持ち、俯く。
少し可哀想だなと思いつつも私には関係ない。
てか、ラセンの頬にしたんだ。
ちょっとだけ安心した。
……ん?何で私がホッとしないといけないのよ!
「あれ?4番、誰。兄貴??」
「いや、違う。1番だ」
「あたしは3番だし」
「と、いうことは…アリスだねー!」
「え?私??」
そう言われ、私は持っていた棒を見た。
自分には関係ないと思い、実は番号は見ていなかった。
すると、棒には4と書かれていた。
「あ、4です」
私がそう言った瞬間、ハルクが顔を上げた。
「お前かよ。よりによって…」
「よりによって!?私だって、嫌よ!」
「それはこっちのセリフだ!」
「そうですか。なら、代わりに愛しの恋人とまたしたら?タスクさん、私部屋に戻ります!」
棒を投げ捨て、私はリビングから出た。
何よ!
私としたくないなら、ハッキリ言えばいいじゃない。
変なところで遠回しな言い方しなくたって…!
自分の部屋に帰ろうとしたけど、何となく戻りたくない。
冷静になろう。
少し頭冷やそうかな。
そう考え、私は部屋から上着だけを取って、それを羽織って外に出ることにした。
───────
─────
夜遅く外を歩く。
道を歩きながら思った。
前はよく家を抜け出して、リクと一緒に星を見に行ったことを…。
けど、今は叶わない。
二人で見た夜空は、楽しくてドキドキした。
リクの笑顔が眩しくて、私はそれが嬉しかった。
でも、一人で見る夜空は寂しくて悲しい。
大好きな人を思った。
あの頃に戻りたい。
リクと二人で星を見たい。
寝転がりながら、リクが話す星座の神話を聞きたい。
「リク…」
会いたい。
会いたいよ…。
我慢していた涙がとうとう零れた。
私は手で拭う。
その時、誰かが肩を掴み振り向かせる。
「一人で出歩いてんじゃねェよ!」
ハルクの声。
走ってきたのか、息を切らしていた。
だけど、今の私には一番会いたくない相手。
「何よ。じゃあ、来なければいいじゃない!もう放っておいて」
「放っておけるか!ヤツに狙われたらどーすんだよ!!」
やっぱり私を心配してるんじゃなくて、そっちの心配か。
…もうどうでもいい。
「もう守ってもらわなくて結構。だから、放っといて!」
「アリス…」
私はハルクの腕を振り払い、駆け出した。
追いかけてくると思ったが、彼は来なかった…。
───────
─────
気づくと、私はリクと一緒に来たことのある公園の前にやって来た。
二人で暗くなるまで遊んでたっけ。
ブランコに乗って、少し漕ぐ。
「懐かしいな…」
そういえば、私を庇って、ブランコから落ちちゃったんだよね。
ケガしたのは、リクなのに私が泣いちゃって…。
──リク、ごめん。ごめんねー!
──泣かないで。姉さん
泣く私の頭を泣き止むまで撫でてくれた。
自分の痛みを我慢して、人にばかり優しすぎだよ。
「姉さん」
リクの声がした。
私は辺りを見渡すが、姿は見えない。
「リク、どこ?」
「姉さん、こっち」
「リク!」
リクの姿があった。
私はすぐに向かい、抱きしめた。
「リク。会いたかった!会いたかったよ!!」
だけど、リクは何も言わない。
ただ優しく微笑むだけ。
もう言葉はいらない。
君がいれば、私は──。
〈Even if I wish that I want the heart〉
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