Heart of the glass work
オレは悪くない。
というか、不可抗力だ。
どうして、こんなことを言ってるのかというと、少し時間を遡る。
───────
─────
「ハルク!」
いきなり名前を呼ばれたかと思いきや背後から抱きつかれた。
「ラセン。離れろ」
「イヤだ!」
ラセンはオレの腰に手を回し、しがみついて離れない。
そこへ──。
「相変わらずだな、お前達」
セツナがそう言いながら、やって来た。
「兄貴。うん!あたし、ハルクが好きだ」
「おまっ、何言ってんだよ!」
「ハルク。お前もたまには口に出したらどうだ?」
「そうだ、そうだ!」
「誰が言うかよ!それより早く離れろって」
「ハルクが好きって言ってくれるまで離れない!」
全然、聞きゃしねェ。
って、そろそろアイツが帰って来ちまう。
またこんなところを見られたら…。
そう思っていた時、玄関からアイツの声が聞こえてきた。
やっべェ。
早くラセンを引き離さねェと!
オレはラセンを引き離そうとするが、余計にラセンはオレから離れまいとしがみつく。
そんな攻防をしていたら、近くにあった“何か”を落としちまった。
その音を聞きつけたアリスが慌てて、やって来た。
「今の音、何…っ!?」
突然、アリスがこちらに駆け寄る。
そして、オレの前に来て、座り込む。
さっき、落とした“何か”(食器か何かだろう)の散らばった破片を拾い集める。
「バカ。ケガすんぞ!」
そう言っても、アリスは拾うのをやめない。
むしろ、小さな破片一つ取り残さないように集めていた。
「痛っ」
拾った破片で切ったのか、アリスが声を出す。
「アリス!こんなの拾うからケガすんだ」
「…の」
アリスが小さく呟く。
聞き取れず、片耳を寄せると今度は聞こえた。
「誰が落としたの?」
いきなりセツナとラセンが一斉にオレを指差す。
「な、なんでオレだけが悪いことになってんだよ!お前らだって共犯だろーが」
「でも、実際に落として壊したのは、ハルクだ」
「それはそうだけど。壊れちまったのは仕方ねェ。アリス、また買えばいいんじゃねェ?」
「また買えばいい?」
「そんなのどこでも買えるだろ?だからさ…」
「買えるわけないじゃない!!これはリクがくれたモノなのに…」
アリスが怒鳴った。
どうやら、オレが壊してしまったのは、リクが買ったモノだったらしい。
「悪かった。オレ…」
「リクが私に買ってくれたマグカップ。大事にしてたのに…!」
アリスが鋭く睨みつける。
「ハルクなんて、大っ嫌い!」
そう言って、アイツはマグカップの欠片を持ったまま、出て行ってしまった。
気づくと、ラセンもセツナもいなくなっており、オレ一人だけになっていた。
「アイツら…」
「ダメだね~。女の子泣かしちゃ」
いつの間にいたのだろうか、タスクさんが壁に寄りかかりながら、立っていた。
「別に好きで泣かせたわけではないです」
「お前はそうかもしれない。でも、アリスにはそうじゃない。それと同様でさっきのマグカップも同じ」
「どういう意味ですか?」
「ハルクにとっては、ただのマグカップ。だけど、アリスにとっては特別大切なモノ。わかる?」
オレはわけがわからず、首を傾げる。
すると、タスクさんはため息を吐く。
「アリスにとって、リクは大切な存在。その人からもらったモノは、他の何にもならない唯一無二の宝物なんだよ。お前だって、もし、アリスに宝物を壊されたら怒るだろ?」
確かに怒るかもしれねェ。
それだけじゃない。
きっとアイツを傷つける言葉も言うな、オレ。
「…もう一度、謝ってくる」
そう言って、オレはアリスの部屋に向かった。
だが、いざ来たものの、なかなか声をかけられない。
けど、いつまでもこうしてても仕方ねェ!
ドアをノックしようとした瞬間、オレは動きが止まる。
───何故なら、アイツが泣いていたからだ。
オレは謝れないまま、部屋を後にした───。
〈Heart of the glass work〉
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