Secrets and Cooking




昼休み。
私は一人になりたい時に誰も来ない場所(私は秘密基地と呼んでいる)そこで食べていた。中庭は意外に人が来ない。たまにいる時もあるけど、奥の方までは行かないらしい。少し薄暗いし。

主に本を読むだけなのだが、そこで読むとつい読み過ぎて、授業に遅れそうになるから、一週間に一度程度しか行かないことにしている。

今まで誰にも見つかったことはない。ハルクですら知らない。よく「お前、どこで食べてんだよ?」と聞かれるが、聞こえてないフリをする。

だが、その日は運悪く見つかってしまった。

「……あ」

「おや、こんなところで食べてるんですか?」

現れたのは、教育実習生のカルロ先生だった。
生徒から人気があり、常にその周りを生徒に囲まれている人。実は少し苦手な相手でもある。だから、関わらないようにもしていた。

「はい。落ちついて本を読みたかったので」

「そうなんですか。宜しかったら、僕もここで食べてもいいですか?」

てっきり立ち去るものだと思っていた。だが、先生はここで食べてもいいかを聞いて来る。よく見ると、先生は袋を持っていた。購買かコンビニで買ったのだろう。
別にいいか。ここは滅多に人も来ないし、見られることはないはずだ。やましいことしてるわけでもないし。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

先生が少し離れた場所に座り、持っていた袋からサンドイッチと飲み物を取り出す。既にお弁当を食べ終えていた私は読んでいた本に再度、目を向けた。

うーん。お菓子作りもいいけど、今はお菓子より新しいものを作りたい。何かいいのないかな。パラパラめくって見るが、なかなか自分の作りたいと思うようなのに巡り合わない。

しばらく本を読んでいると「それは、料理の本ですか?」と声をかけられた。本に夢中だったせいか、先生がいたことをつい忘れてしまった。

「はい。最近、作るものがマンネリ化してきて、何か新しい料理を覚えようかと思って、図書室の本を借りました」

「料理、好きなんですか?」

「好きですよ。ストレス解消にもなるので。その際はよく作りすぎちゃうんですけど」

「あはは。わかりますよ。僕も同じことしてますから」

意外だ。自分で作るよりも、誰かに作ってもらいそうだったから。

「この話をしても周りに料理を作る人があまりいなくて、なかなか共感を得られないんです」

「そうですね。親御さんがいれば、自分で作ろうとはなかなかしませんからね。料理に目覚めたなら、話は違いますが」

そうだよね。
私も最初は必要にかられて、作るようになった。でも、料理が苦とは感じることはなかった。パパに作って喜んでもらえるのが一番嬉しかったし。

「先生も自分で作るんですか?」

「ええ、昔から作っていたりはしていましたよ。今は一人暮らしですしね。コンビニなどで買うよりは作った方が安いんですよ。今は毎日作るのは大変なので、休みの日に多めに作って置いて、その日食べる分だけ残して、残りはタッパーなどに入れて冷蔵庫に保管してますよ」

「ふふっ、しっかりやってるんですね」

その姿を想像して、つい笑ってしまう。

「これでも家庭科志望ですから」

「知ってますよ、先生」

教育実習生って話しかけにくいイメージがあったんだけどな……
もしかしたら、“家庭科”っていうだけあって……家庭的なのかな。

「貴女と話していると、思い出します」

「え?」

「僕、年の離れた弟がいるんです。彼の為に作っていたのが、この道のキッカケというか……兄弟仲は…………はは……」

彼の話を聞いてるうちに、料理の本を開くようになった日の事を思い出した。

“凄く、美味しいです”

「私も……私にも弟がいて……そのいつか作ってあげたいなって……美味しいって…………」

その後は続かなかった。
叶うかも分からない……ほぼ、願望だから。
忘れたいのに忘れられなくて。
忘れられないのに蓋をしてた。

「それじゃあ、僕が練習台になりましょうか?」

「え?」

「僕もたまには誰かが作ったものが食べたいんですよ。あなたは新しい料理を覚えたいんですよね?それなら互いに利害は一致してます」

「いや、でも、それは…!」

「女の子の料理、楽しみだなぁ」

驚く私にカルロ先生は「冗談ですよ」と、笑った。
続けて、醤油はこんな料理に合うだとか。
塩と胡椒が別、または同じになっている理由だとか。
様々な興味深い話をしてくれた。
悪い人じゃない、むしろ面白い……なんて思っている自分がいた。

……薄暗い空間でさえ日が差した。
そんな風に感じずにはいられなかった。
見付けてくれたのがカルロ先生で良かったな。

「わかりました。お願いしてもいいですか?両親を驚かせたいので」

“リクに食べてもらいたい”
もう一つの本音には……蓋をした。

「ええ。僕はそれで構いませんよ。費用もこちらが持ってもいいですし」

「いえ、ちゃんと予算内で抑えますから!先生は味見してくれるだけでいいです」

「わかりました。何かあったら、僕にちゃんと言ってくださいね」

「はい」


その日の放課後。
ハルクが私の元にやって来た。

「アリス。今日…」

「私、先に帰るから。スーパーに早く行かなくちゃいけないの!」

「いや、オレも…って、もういねェ!」

ハルク、今頃叫んでいるだろうな……関係ないけど。
私はスーパーで買い物をし、家に帰って、着替えるのも面倒で制服の上からエプロンを着る。

髪を結わき、邪魔にならないように本を開く。今日はこれにしよう。手を洗い、料理を始める。

小皿に取って、味を確認する。しかし、予想してた味とは違っていた。

「うーん、何か味が薄い。もう少し塩?いや、砂糖を…」

食材はあるから、もう一度作り直そう。




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