Fang




「……死ね──!」


おれはそいつを木っ端微塵……跡形もなく、瞬殺した。
おれの脳裏にインプットされた無意識の行為。


「……折角、気持ちよく過ごせてたのに……どん底」


今日、3人目の女がやらかした。
調子に乗りやがって……

唇に触れると、口紅が微かに付いていた。


「汚れた……穢れた……」
「ひっ……!」


さっきまで気を失ってやがったホテル従業員が目覚めた。
今度は血塗れのおれにビビってやがる。


「なあ。おれ……今、すっげー欲求不満でさぁ……」


そう言うと、そいつは無我夢中で服やら下着やら脱ぎ捨てた。


「ふーん、物分かりいいじゃ──」


突然、そいつはおれの唇に吸い付いてきた。
──気付けばまた、室内の生臭さが強くなった。


「……ヤってすらいねーんだけど」


足元の血溜まりに目をやる。


「お前はどんな声でおれに答えたの? なぁ、聞かせろよ」


血を掬い口付ける。


「……クソまず……」


こいつは結局、こうなる運命だったんだな。

──おれは“キス”というものが死ぬほど嫌い。
愛情表現? くそくらえ。

身体を紡ぐのは大歓迎。
与えてやるし、受け入れてやる。
けど、“キス”だけは無理──





〈Fang-牙-〉


END.
(2023.09.20)
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