Premonition




噂は一人歩きなんてしない。


「……カラリナよ。昨日もまた?」
「うん、見たって子多いよ」
「けど、うちの生徒相手って聞かないよね」


それ、事実だから。
別に隠してなんかないし。
見せつけてんの、私。


「ねぇ、邪魔。どいて」
「……感じ悪……こんな女のどこがいいわけ?」


身体。
これ、私の武器だから。
落とせないやついないし。
どんな男も直ぐにホイホイ尻尾を振る。
そんな光景が好きだった。

──けど、飽きた。
支配されんのもいいかもって思ったヤツができた。


「ティー、今日もどっか行くのか?」
「……まあ……」


ドラ……なんだっけ?
ポニテのヤツ。
アレ、絶対男。
格好は女だけど、間違いないね。

──一度、気になったら……まあ、よく見掛けること。
そんなに俺様って感じじゃないけど、“彼”になら支配されてみたいかも……ね。
よく一緒にいる女は無性に気に入らないけど。
餓えた奴にくれてやる餌にでもしちゃう?
……なんてね。


「カラリナ!……やっと、見付けた……お前、今日付き合えよ」
「はあ? 誰に言ってんの? No.10989」


名前を覚えてるのは、最初の一人くらい。
あとはもう、番号で管理してるし。
最初の一人を覚えてる理由も単純に、私が初めて虜にした男ってだけで加尾は忘れちゃったけどね。


「ふ、ふざけんな!」
「ふざけてねぇよ。与えて欲しけりゃ魅力的なの持ってきなよ。ま、アンタじゃ無理だけど」


瞬時にソレの背後を奪い、首に爪を立てる。


「い、いいね……そういうのも萌え──」
「萌えねぇって」


そのまま首に手刀。
ソレは満足そうに気を失う。


「ったく、気色悪いもんくっつけやがって」


最悪の気分で歩いていると──


「はぁ……何なんだよ」


ドラ……なんだっけ?
が、夕焼けを背に黄昏ていた。
絵になるような光景に心がトキめいた。


「ねぇ。これから、どう?」
「は? 誰だ、お前」
「私はカラリナよ」
「……知らねぇな。ボクは一人になりたい気分なわけ」
「私は此処にいるわ」


……なんだ。
頑なに“女”を演じてるわけじゃないのね。


「……うぜぇな、お前」
「いるくらい……いいじゃない。公共の場なんだから」
「面倒くせぇ……勝手にしろよ」
「はぁ~い!」


笑顔で返事を返して、隣に並ぶ。
……何となくだけど、コイツは今までとは違う……そんな気がした。





〈Premonition-予感-〉



END.
(2023.09.08)
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