Transparent Mirror




恋は盲目とはよく言ったもんだ。
本当、オレっち……何も見えてなかったな。

──あん時、死んでもいいって本気で思った。
むしろ……死んでしまえば良かった。

──懐かしい感情だな、これ。
ま、実際オレっちは死んだようなもんだったからな。


「タスク」


そう呼ぶ声に目を覚ます。


「おはよ」
「ん、おはよ。リコル、今日は早いのな」
「そうかな……いつもと同じだと思うけど」


コイツといると、どこかホッとする。
赤の他人なのに、そう思えない心地よさ。
別にコイツが何者でも構わない。
それに……コイツになら殺されても構わない、とさえ思ってる。


「あぁ……オレっちが遅いのか」
「ま、どうでもいいよ」
「……だな」
「今日はどうする? 魚でも取りに行く?」
「……ついてくよ」
「あはは! タスクは、いつもそればっかだな」


コイツといるようになって、“ついていく”事ばかりになった。
自分でも笑っちまう。


「世話人だからな」
「それって、タスクがリコルの? それとも逆?」
「どっちだろな……実際、一人で行けねェし」
「ホント、どっち? ま、どっちも同じだけど」


そう言って、リコルは笑った。
オレっちも自然と笑う。


「──あ、また逃げられた」


魚が跳び跳ねる音がひたすら続く。


「リコル、焦んなよ」
「焦るよ! お腹空いたし……タスクは空かないの?」
「……あんまり」
「いつも、そればっか……ダイエットは身体によくないって聞いたよ」
「聞いた? オレっち、そんな事言った記憶──」
「テレビかなんかでかな……思い出したくもないけどさ」


リコルには時々、匂わせるような言動がある。
ま、触れられたくねェ事は誰にだってあるよな。
そこに触れたら、全てを失ってしまう……そんな気はすっけど……
──にしても隠し事は苦手なタイプだよな、リコルは。


「はぁ……今日も貯蔵庫か」
「まだ残ってんのか?」
「二人して少食だからね」
「……それもそうか」


“少食”という言葉に思わず笑ってしまう。
オレっちが少食って……はは。


「なあなあ、タスク。今日は何、作ってくれんの?」
「作ってくれる、じゃねェだろ」
「言われなくっても手伝うってば! オムライスか? カレーか? チャーハンか?」


リコルと一緒だと、確かに落ち着く。
けど、別の意味では落ち着かない。
……今のオレっちにとっては、いい意味で……なんだろな。


「いんや……初めてのにチャレンジ……してみるか!」
「おおおお……っ、オッケー!」


オレっち達はいつもと同じように手を繋いで歩き出す。
“いつも”と違うのは────って事……





〈Transparent Mirror-透明鏡-〉


END.
(2023.08.26)
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