Strawberry
“アリスに会いたい”
そう願って。
そう……願って目を開けた。
だって……今日は特別な日──
「……ここ、どこ?」
そこは、知らない場所。
……知らない部屋。
チクタクチクタク……
時計の音が響く。
「……アリス、引っ越したの?」
よく見ると、部屋の中でもまた場所が分かれている気がする。
ここ、絶対にアリスの部屋じゃない──!
「ん? 誰だよ、おまえ」
後ろを振り向くと、背筋が凍りついた。
パンツ一枚の男がニヤニヤしながら近付いてくる。
ねぇ、いつからいたの?
それより──
「ちょっと! 服はちゃんと着なさい! はしたないでしょっ! 変態じゃあるまいし!」
叫んでから、ハッとした。
この人はハルク達じゃなかった……
「なっ……おま──」
「ふふっ、本当よね。はした……ふふふ、ライによく言ってくれ……あら?」
男の後ろから、女の人が顔を覗かせた。
「か……可愛い。お人形さんみたい! ごめんね。この人、ちょっと……ううん、かなり危ないから」
「見たまんま、か……」
「って、おい! メア! 誰がかなり危ないって?」
「はい、変態は退場!」
そう言って、メアと呼ばれた人は男を部屋から追い出した。
「怖かったよね。もう大丈夫」
ふわっと、抱き締められた。
どこか……懐かしい感覚……
「……あ、ありがとう」
「メアよ。さっきのは……ライ。貴女は?」
「…………リンネ」
「リンネ……可愛い、名前。どこから来たの?」
一瞬、殺気を感じた……気がする。
本当に危ないのは、“ライ”より“メア”かもしれない……
「分からない……気が付いたら、ここにいたから」
「…………そうなんだ。此処で目が覚めたのなら、此処に居たらいいよ」
「え?」
意味が分からない。
警戒心とか、そういうの……一切ない。
殺気も……一度だけ……なんて。
「……ライ、ちょっと来て」
「何だよ」
「荷物まとめて。今すぐに」
「出ろって言ったり、入れって言ったり。そんでまた、出──はぁ!?」
「この子に部屋、明けて」
「ふざけんな!」
ちょ、ちょっと待って!
あたし、ここに住むなんて一言も──
「ライ。この子、きっと──」
「そういうことか。それなら3人でもいいだろ?」
「良くない」
メアはキッパリと言った。
「なんで?」
「その1、教育上の問題。その2、衛生的な問題。その3、不純物の問題。その──」
「おい、待てって。その1は、分からなくもねーけど? その先は何だよ」
なんだろう……この二人……
アリスとハルクを思い出さなくもない。
「マイナスイオンを放つ子に対して、ライは息をするだけで雑菌を放つじゃない」
「おれがいつ雑菌を出してるって?」
「存在事態が不純物って事を思い出しちゃったし」
……というか、二人よりも……
強烈ね……
「あたし、出て行く」
「駄目よ」
結局、メアに引き留められた。
「…………悪夢だわ」
メアとライ。
あたし、今……二人に挟まれ、ベッドに転がってる。
時間がないのに……
──ふと、ライと目が合う。
すると、ライは立ち上がり何処かへ行った。
溜め息一つ、顔を上げると……
「特別、な?」
ライは小声で言うと、服を脱ぎ始める。
「きゃー!」
あたしの声に横で眠っていた、メアが目を覚ました。
「何、ストリップ始めてんのよ! 変態!」
「だって、このちびが──」
「あたしは何もしてない!」
「たまたま目が合って、興奮したからとか言うんでしょ?」
あたしを挟んで二人は口喧嘩から始まって、次第に派手な喧嘩へと発展する。
なんで、パンツとかナイフとか飛び交うの!
「もういや! あたし……アリスに会いたいだけなのにっ!」
叫んだ一言で、二人の動きがピタリと止まった。
「……アリス?」
「あぁ、あの女か」
「え? 知ってるの?」
「……まあな」
「あの子の知り合いだったのね」
メアから一瞬で笑顔が消える。
まずい事、言っちゃった……の?
「残念だけど、お別れね」
「ちび野郎。次、会ったら……」
「心配しないで。あたしも二度と会いたくないから」
部屋を出るあたしにメアは、こっそり“地図”を渡してくれた。
それを頼りにアリスの家へ向かう。
暫く歩くと、懐かしい道に出た。
知ってる場所……懐かしい。
思い出が蘇ってくる……
歩き慣れた場所を駆け抜けると、大好きな背中を見付けた。
「アリス!」
「え……?」
名前を呼ばれたアリスが振り向く。
あたしは──
“誕生日、おめでとう!”
って、大声で言ったのに……
この言葉は声にはならなかった。
──時間切れだった。
それでも一瞬、アリスに会えた。
あたしの声、アリスに届いた。
アリスの……声が聞けた。
それだけで…………十分。
そう自分に言い聞かせた。
──翌日。
ライがアリスに言った。
「おまえ、隠し子いんだろ? おれとも作らねー?」
「い、いません!」
「はぁ? 隠し子!? アリス、お前──」
「ハルクも信じないでよ、馬鹿!」
あたし、そんな風に見られてたんだ……
END.
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