Grapes
「ラセン。少し、付き合ってくれないか?」
「珍しいね。兄貴があたしを誘うなんて……いいけど。どこ行くのさ」
「……行けば分かる」
ラセンと色んな店を渡り歩く。
中々、これと言った店が見つからず……難民状態だな。
そう思った矢先、ラセンの足が止まった。
「どうかしたか?」
「ちょっと見てっていい?」
ファンシーというジャンルの店ではしゃぐ、ラセン。
……仕方がない。
少し、付き合うか。
「──なぁ、兄貴」
「ん?」
「これさ、アリスにそっくりじゃない?」
「……アリスに?……確かに似ているな……買うのか?」
「うん」
「なら、もう一つ買ったらいい」
同じものを色違いで手に取る。
「え?」
「一つはお前のだ……気に入ったのだろう?」
ラセンは小さな声で“ありがとう”と言った。
──その後、喫茶店で軽食をとり帰宅路に着く。
「結局、兄貴の目的の店って何処だったの?」
「……自分でもよく分からなかったな」
「何それ」
そう言って、ラセンは笑った。
その時、彼女の後ろの店が目に入った。
「少し、寄ってもいいか?」
「ピアス? 丁度、あたしも見たかったんだ」
「……そうか」
「ハルクにも買っていこうかな」
「ハルクに?」
あいつは確か──
「……多分、不要品……けど、いいの。あたしの気持ちの問題だから」
「気持ちの問題?」
「その人の事を考えて、選ぶ。その時間って幸せだなって思うんだ」
そう話すラセンはとても可愛く見えた。
……ハルクは幸せ者だな。
「あ……もちろん、たまにだよ。そうじゃなきゃ迷惑だし、無駄になるから」
「それも……そうだな」
ラセンは商品を一つ手に取り、レジへ向かった。
「ん?」
値引き商品の一つが目に留まる。
至ってシンプルなピアス。
手を伸ばした、その時──
「兄貴、お待たせ!」
「あ、あぁ……帰ろうか」
帰り道、ラセンはハルクの話ばかりをする。
いつもの事なのだが。
奴の話でネタが尽きないのも、凄いことだな。
「それでね──」
「着いたぞ」
ラセンと分かれた後、再び店に戻る。
足は次第に早くなっていく。
目的は新作の横、値引きコーナー。
……先程のピアスを手に取る。
「その人の事を考えて……か」
ラセンの言ったように……好いてる相手の事を考えながら選ぶ。
確かに同じものでも“特別”に感じるな。
──後日、購入したモノを渡すと……
同じタイミングでプレゼントを貰った。
「これ……は……」
僕が渡したものと同じものだった。
これには思わず、笑ってしまった。
END.
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