Magic Hands
「ね……ドラ、お願いがあるんだけど……」
「ん? 何だよ、改まって」
「あのね──」
× × ×
「……ほい、完成っと」
「これ……わたし?」
鏡の前には、知らない女の子がいた。
「ボクの手にかかれば、こんなの──」
「ドラ……すごい……」
鏡の中のわたしは凄くキラキラしてる。
ドラはずっと……女装してたから、色んなこと知ってるし……
わたしなんかよりも、ずっと──
「なあ、ティー。シンデレラって知ってっか?」
「なに……それ……」
とても地味な女の子がキラキラと輝く、そんな物語は……
違うって分かってるのに、自分と──
「この魔法も数時間で解けっから。今だけはシンデレラみたいになっても、いいんじゃねぇ?」
「…………考えてみる……」
見た目が変わっても……中身が……
わたし自身が変わるわけじゃない。
キラキラ輝いて見えた自分も……
水溜まり越しに見ると、いつものわたし。
窓ガラス越しに見ても──
「え」
ショーウインドー越しに……彼がいた。
リ……ゼル……
「ん? 一瞬誰かと思ったけど、ティ──」
「わわっ、人違……」
「逃げんなよ」
腕を掴まれ、思わず固まってしまった。
「離し……て……」
「あ、悪りぃ……けど逃げんなって」
「なにか……用?」
「靴、キツそうだなって思っただけ。サイズ合ってねぇだろ?」
「え……何で?」
確かにドラの靴、借りたんだけど……
中敷き入れてもぶかぶかで……歩きにくさを感じてた。
「たまたまだよ。ふと靴を見るのが好きってか、珍しい靴を探してんだよ。そんだけ。じゃ──」
「あ、あの!」
手が勝手にリゼルの服を掴んでた。
“一緒に選んで”
この一言が言えたら……
“面倒くさっ”とか言いながらも、一緒に選んでくれて。
“丁度いい時間”って、そのままランチして……
それから──
ドラの話を聞いたからかな……
なんだか変なことばかり考えてしまう。
外見だけじゃなく、中身までおかしくなってきた気がする……
「……歩きにくいってか? はぁ……付き合ってやるよ」
「え?」
「勘違いすんじゃねぇぞ! 俺も靴屋に行くだけ、だ!」
「……うん……ありがとう……」
ねえ、ドラ……
メイクして、髪型をセットして……
服を整えて。
それから、何の魔法をかけたの……?
「って、いつまで掴んで……あぁ、そうか……ほら」
「……なに?」
「……手、貸せよ。歩きにくいんだろ」
……つ、繋いじゃった。
心臓はもうばくばくで、壊れてしまったんじゃないかってくらいにドキドキしてる……
シンデレラも……同じだったの?
「センスなくて悪かったな」
「う、ううん……」
リゼルが選んだのはスニーカーって種類の靴。
ドラの選んだ、ロリータってファッションとは……わたしが見ても不釣り合い。
でもいいの……
リゼルが選んでくれたから……
ドラの魔法はまだ解けない──
「……腹減ったな。軽く食うけど、お前はどうする?」
「く、くう!」
「……はは……っくく! “食う”んだ?」
「え? あ……た、食べる……」
「今日のお前、調子狂うんだけど。よく見りゃ、いつもと格好も全然違うし」
格好……今、気付いたの?
それって……服じゃなくて、髪型が違っていても……
わたしに気付いてくれたってこと?
違う。
思い上がったらダメ……
浮わついてたんだ、わたし……
「変……だよね……」
女装のドラみたいな格好、してみたいって。
家の中だけにしておけば──
「お前がどう思ってっか分かんねぇけど、俺はいいと思うけど? てか、そういう服あんのな……」
なんか赤い顔でゴニョゴニョ言ってるけど、わたし……誉められた?
ほ、誉められちゃったの?
うわ……どうしよう。
「悪りぃな、これから野暮用あっから」
そう言って、リゼルは走って行ってしまった。
ねえ、ドラ……
魔法解けても、この靴は消えてなくならないよね?
心の中で呟いて、ぎゅっとスニーカーを抱き締めた。
END.
(2022.08.10)
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