Greed and a nightmare and a bouquet




一目惚れなんかじゃない。
いつも何事も一生懸命で、彼女の見せる笑顔に凍てついた心が溶けた。
姉さんは僕を救ってくれた──
簡単に言える“好き”じゃない思いが胸にある。
母さんと父さんが出会わなければ、僕達は互いを知らなくて。
今が……この思いは無かった。
出会ってしまったから、こんなに辛い──
近すぎる距離が苦しい──

絡まる糸は僕の心を掻き乱していく。





“愛しい”と思う心が少しずつ離れていくようで怖くてたまらない──


「姉さん……」


助けを求めるかのように呟いた。
僕の声は彼女には届かない──
別の“誰か”に拾われた。


「リク、どうしたの?」
「姉さんが可愛いから」


僕の口が勝手に喋り出す。





「え?……いきなり何?」


驚きながらもアタフタとする姉さん。

そうだよね。
僕なら言わない。
……言えないから──

こんな夢なら、いいかもしれない。
知らない姉さんの表情を見れる、幸せだよ。


「おい、アリス」


僕の知らない、男の声。
僕は透明になる。
……存在を否定されているようで、息苦しい。


「ハルク、勝手に入って来ないでよ!」
「何でオレ様がお前の指図を受けなきゃなんねェ」


そう言って、ハルクと呼ばれた男は姉さんのベッドで寛ぐ。

彼はどうして、こんなにも図々しくいられるのだろう──
積極的なのだろう──?


「私の部屋なんだよ」
「知るか」
「もしも着替えてたら──」
「お前のなんか見ても何とも思わねェし、感じねェ。安心しろ」
「……最低!」
「ほら、お前って色気ねェし?」
「ハルクなんて、大嫌い!」


お互いにそっぽを向く。
怒った姉さんを始めて見た。
……怒っているのに、可愛く思ってしまう。
心が彼女を求め、腕が捕らえる。


「あ……」


姉さんの吐息が聞こえた。
表情が穏やかになっていく。

“もっと、触れたい”
そう思った時だった。


「悪かったな……」


ハルクと呼ばれた男が姉さんの腕を掴んで言った。





「何よ、今更──」
「お前ってアイツに似てるから、つい」
「アイツ……?」
「オレの女」


一瞬だけ、姉さんがショックを受けたように見えたのは気のせい……だよね?


「誤解すんなよ。似てるつっても、言いやすさだけな。外見だとか性格は全然だ」
「私をその人の代わりにするつもりだったの?」
「アイツとは、そこまでの関係じゃ……って、お前に話す義理はねェだろ」


冷たく突き放される度に胸が痛む。
姉さんの表情が──

もう……耐えられない。


「ナラバ……来イ」
「誰……?」
「Arice・Doll──」


僕はこの眼を知っている……
ずっと……姉さんを見ていた眼差しだ。


「コンナニ傷ついテ……受け入レテヤル……」





頬に生温かい指先が触れる。
背中に“誰か”を感じたけど、振り向いてはいけない。
また辛くなるだろうから──


「……で……行かないで……リク──……」


声は僕に届かない。











〈Greed and a nightmare and a bouquet〉










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