深海(うみのそこ)のマンドーラ




起きるとマグロ君のパパはいなかった。



「アカネ」
「……マグロ君……」


あたしは、マグロ君に連れられてマンドーラ湖の脇にある洞くつに来た。


「アカネ、見てるマグ」

そう言うとマグロ君は湖に飛び込んだ。

しばらくすると、マグロ君と一緒に水しぶきが空に跳ね上がる。


暗闇にキラキラと輝く水しぶきは、まるで――


「花火みたい……」


マグロ君が弧を描いて跳べば、水しぶきもキラキラと弧を描いた。

体を丸めて跳んだ時は、マグロ君が太陽に見えた。
他にもマグロ君は月や


マグロ君はすごく楽しそうで、キラキラ輝いていた。

最後にマグロ君は両手両足を広げて跳んだ。


「…………さく……らんぼ……?」


あたしには、さくらんぼに見えた。

そして、マグロ君は湖に潜った。
しばらくしてマグロ君が湖から上がってきた。


「ねえ、さっきのは何?」
「マンドラドーラっていうマグ」
「マンドラドーラ?」
「本当はフナッコの祭りでやる踊りマグ」
「お祭り?」
「マグ。本当はフナッコみんなでやるマグ」
「みんなで……なんだ……」
「父ちゃんが、アカネの為にって……特別マグ」
「とくべつ……?」
「アカネ、泣いてるマグ?」
「な、泣いてない」


あたしは笑ってごまかした。

マグロ君は、そんなあたしをじっと見てる。


「……ありがとう」
「マグ?」
「ありがとう、マグロ君。一生、忘れないから……」
「オイラもマグ……」


マグロ君が泣きそうな顔をするから、あたしもつられそうになる……

あたしは涙が出る前に、服でぬぐった。




「手、かして」
「マグ?」
「……あげる」


あたしはマグロ君の手に、さくらんぼの飾りの付いたゴムを乗せた。


「これ、アカネの宝マグ」
「いいの……」


“たとえ離れてたってダチは傍にいんだ。心で繋がってんだべ!”

この言葉を形で残したい……


「あたし、マグロくんにあげたいんだ」
「ありがとマグ」


マグロ君は、ゴムを腕に通してくれた。

……あたしは、ママのところに帰るんだ。


「オイラも宝物あげるマグ」


そう言ってマグロ君は、あたしの手を自分の胸に当てた。

ゆっくりと動くマグロ君の心臓の音……
もうお別れなんだと改めて思う……


「オイラの宝物マグ」


ドクン──
マグロ君の心臓が大きく動いた。


「マグロ君……」


マグロ君は泣いていた。


「……どうしたの?」
「オイラの宝物はここマグ……」
「マグロ君の……中?」
「アカネと……過ごした日々が大切マグ……」


その言葉にポロポロと涙がこぼれてきた。

泣かないって決めたのに……
涙は素直だなあ……


「……あたしにとっても宝物だよ……」


あたしもマグロ君の手を取って胸に当てた。


「……マグロ君」
「アカネ……」


あたしとマグロ君は顔を見合わせて、笑いながら泣いた。

“楽しかったよ”って何度も声に出した。


「助けてくれて、ありがとね」
「マグ」
「友……にな……て…………と…………っ」


たくさんの思いがこみ上げてきて……
言葉にならないよ……
でも、でもね──


「……友達になってくれて…………ありがと……ねっ」


この言葉だけは伝えたかった。
どうしても……伝えたかったんだ。


「…………ずっと、友達だよ……」


あたしは、涙を拭いて小指わ差し出した。
マグロ君も私のマネをする。


「……指きりげんまん……嘘ついたら……針千本の~ます……飲ますからね……」
「なんだべ、これ」
「えへへ。約束と……友情のあかしだよ~」
「友情の証マグ!」


また、涙が出そうになる……

最後は笑顔のあたしがいい。
あたしを思い出すときに泣き顔だったらイヤだもん。

深呼吸ひとつ、あたしは湖に飛び込んだ。

その時、マグロ君のパパが見えた。
マグロ君のパパは笑って手を振ってくれた。
その目はキラキラと輝いていた。


「アカネー!頑張るマグッ!!!」


“バイバイ”は言わなかった。

マグロ君は友達だもん。
また、会える……よね?


マグロ君の声が遠くなっていく──



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