ぼくと桜ちゃん
温かな風がぼくの背中を押したから、ぼくは立ちどまった。
……今度は風がぼくの頭をなでる。
「もう、なんだよ!」
怒って空を見上げる。
「こんにちは」
ぼくと同じくらいの女の子が桜の木の枝にすわっていた。
女の子は桜模様のワンピースを着てる。
「こ……んにちは」
ビックリしたぼくの声はひっくり返る。
「あははっ」
「な、なんだよぅ」
ぼくは急に笑われていることに恥ずかしくなった。
「ゴメン、ゴメン……なかなか気付いてくれないんだもん」
「悪いけど、ぼく急いでるから」
「待って!」
「離してよ──」
「ずーっと呼んでたんだよ」
「え……ぼくを?」
「うんっ」
「どうして?」
「……春になったから」
「知ってるよ、そのくらい!」
「桜の花が咲いてたのも?」
「し、知ってた!」
思わずウソついた。
だって、バカにされてるみたいでイヤなんだもん。
「素通りしたくせに」
「ぎくぅ」
「だから呼んだってわけ」
「えぇー!?」
「呼ばなかったら、今年は誰にも気付いてもらえない気がしたから……」
「どうして?」
「みんなが上を見ないから……」
「上……?」
「上には私が、桜がいる!木蓮くんだって、梅ちゃんだって……暖かい光が照らしてる!下は冷たくて暗い……私は今年もここにいるのに……っ」
そう言うと、女の子は泣き崩れた。
「……去年、舞い落ちる私に気付いてくれたおじさん……今年は早足、見向きもしない……ある人は地面に落ちた私を見向きもせず……踏んでいくだけ……今年は誰も──」
「キレイだね、桜……」
「え……?」
「なんか、きみに似てる気がするや」
急にココロがほかほかと温かくなる。
自然にぼくは笑っていた。
「……ありがとう」
女の子が目を閉じると、淡いピンク色の桜吹雪。
「わぁ……っ!」
その中から一輪の桜がふわりと舞い上がって、ぼくの手のひらに落ちた。
「もしかして、きみは──」
ふわり、桜がぼくの手のひらを飛び立っていく。
なんでかな?
スゴく嬉しそう!
ぼくまで嬉しくなる!
この日から、ぼくはときどき立ち止まって空を見上げるんだ。
また、きみに会える気がして。
ぼくと桜ちゃん....END....
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