Freedom within the Walls
「胸は大きい方がいいんだって」
「お尻は上を向いてるのが」
「……自分じゃ良く分からないね」
ユノとメルトは教科書に夢中だった。
私はどこか退屈していた。
「そう言えば見た? 合格した先の校舎に凄くイケメンがいたの!」
「見た見た! 彼が噂のディオス様かな?」
「きっとそうだわ! 私、彼に相応しい女になる!」」
「あたしも! 一緒に頑張ろ、クレア! ユノ!」
ディオス様は私達の住む場所を統括している御方の息子の一人。
それ以外は謎に包まれている。
「そう言えば、ユノってもうすぐバイト出来る年齢じゃない?」
「そーなの! 来週から!」
「いいなぁ。あたし、まだずーっと先だよ」
「祝ったばかりなんだから仕方ないでしょ」
──16歳になる二週間前から、“アルバイト”が可能となる。
その“アルバイト”をすれば、合格しやすくなるという噂と──
合格しにくくなるという、真逆の噂がある。
でも確かに言えるのは、“アルバイト”に行く人だけ街に行くことができるんだ──
“アルバイト”を始めたユノは見た目も、中身もどこか変わってしまった気がした。
「はぁ……疲れた」
と、お風呂も入らずにベッドにた折れ込む日もあれば。
「はぁ……最高だったぁ……」
と、満足げにベッドにた折れ込む日もあった。
何日も“アルバイト”で学校を休み、家に帰ってこない日も……
スタイルは誰が見ても抜群になっていた。
けど、“アルバイト”の話は頑なに拒んでいるように感じた。
「今月はあと2センチか……」
月毎に配布される服にはノルマがあった。
「私、10センチ以上ありそう……」
「クレアはもっと牛乳のまなきゃ。スカスカすぎて見てらんない」
「牛乳……」
私にとって、牛乳じゃ栄養不足なのか……飲んでもあまり意味がなかった。
──ある日の事。
「クレア……今日ね、たまたまオペラに会ったの」
「え? オペラに?」
「しーっ! ホント、偶然だったんだよ……?」
メルトによると、オペラとは体育館裏で偶然会った。
隙間の向こうに落ちた消ゴムを取ろうとした彼女の手を掴んだのが、オペラだったらしい。
「オペラが言ってた……“バイト始めたら、ノアがおかしくなっちまった”って……」
「え?」
「ユノも……だよね?」
この日から、心のどこかに不信感が芽生えていた。
「ねえ! 二人とも! 私、合格したの! 先に行って待ってるね!」
そう言って、ユノは荷物を持って部屋を出ていった。
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